184話 戦う理由
ジャックにできた大きな隙を突くべく、レルゲンは黒龍の剣へ素早く持ち替える。
周囲の魔力を念動魔術で剣に集めていき、刀身が赤から青へと瞬時に変わる。
「ウルカ!」
「待ってたよ! 行くよレル君!!」
「「――第二段階、全魔力解放!!」」
レルゲンの身体から青い魔力が大気を焼くように立ち上り、身体の内側から溢れ出る魔力を全て黒龍の剣に込める。
すると、刀身が放つ光は更に変化し、青から白に近づく色味へと変わっていく。
まるで白銀の剣の光を宿したかのような色へ――
「いくぞ、ジャック」
収束が終わり、剣に込められた魔力が霧散しないように全神経を集中した念動魔術によって制御された一撃は、文字通り空気を焼きながらジャックへ襲いかかった。
ジャックはまだ動けずに光に全身が飲み込まれた。並大抵の魔物なら魔石すら残すことを許さない一撃は、ジャックの後方の壁を易々と貫き、崩落を始めた転移魔法陣が用意された部屋は、瓦礫の雨が降り注いだ。
レルゲン自身も予想していなかった威力に、大部屋は崩壊を始める。崩れた天井から差し込む光へ向かって、レルゲンは全員を念動魔術で浮かせた。
崩落が収まった頃、レルゲンは瓦礫の山を覗き込む。すると、魔力放出によって現れた何本もの光の線が、瓦礫の隙間から上空へと伸びていた。
「しぶとい奴だ」
レルゲンは待機している全員にジャックがまだ健在だと知らせ、被害半径を広げないため、なるべく手を出さないよう全員へ声をかける。
「奴はまだ生きている! 皆は手を出さないでくれ」
瓦礫から覗く魔力の光を見ながら、一言だけジャックに声をかける。
「出てこいよ、今ので終わるとは思ってない」
レルゲンの声に応えるように光が一層強くなり、レルゲンの背後に現れたジャックは、先程の大出力の一撃を真正面から受けたとは思えないほどの速度を見せ、レルゲンに向けて両手を構える。
「ゼロ距離なら曲げる時間はねぇだろ?」
即座に収束した両手から放たれた核撃は、レルゲンの全身を爆炎に包んだ。
「レルゲン……!!」
マリーが爆炎に包まれた者の名を呼ぶ。
爆炎の中から現れたレルゲンは少し火傷を負ってはいたが、致命傷にはならなかった。
マリーは安堵の表情を浮かべるが、ジャックもまた同様に笑っていた。
「いいじゃねぇか、核撃が当たる寸前にさっきと似た攻撃を反射的に出して威力を殺したな」
「それはお互い様だろう。さっきのやり取りでいいヒントをもらった」
「ハッ! ずいぶんと猿真似が上手いんだな!」
「それはどうも……!」
再び両者の距離が詰まり火花が散る。
ジャックはいつの間にかレルゲンが炎剣へ持ち替えていたことに目を細めた。だが、すぐにレルゲンへ向かって笑いかけた。
「レルゲン、お前は戦いが嫌いなのか?」
「なぜそんなことを聞く?」
「全然やる気が感じられねぇ……俺に合わせて笑っているだけで、それは本心じゃない。さっきの雑魚を殺したことをまだ根に持っているのか?」
「――アッシュのことか。ならこちらからも聞くが、お前たちは仲間じゃなかったのか?」
鍔迫り合いが中断され、お互いに距離ができる。
「お前ら人間からすれば、俺と奴は仲間だろうな。だが、それがどうした? 種族が同じだから仲間なのか? それとも同じ軍に所属しているから仲間なのか……?」
ジャックは首を振り、先ほどまでの口上を否定する。
「――違うな。俺たちは力の大小で誰かの上に立ち、そして下に付く。それだけのシンプルな関係だ。だから奴がそこの女を勇者だと知っていた事実を隠していても咎めはしない。ただ、敵に負けるのだけは許されねぇ。負けるのは死と同じだ。だから負ける未来が見えた奴を誰が始末しようが関係ねぇんだよ――レルゲン・シュトーゲン」
「そうか――力だけの関係だと言うならそれでいい。それでもお前がアッシュを始末した時、そこには力では説明できない何かがあった。あれは敗者への処刑じゃない――ただ命を踏みにじっただけだ。お前とは戦う理由が見つからなかったからな。それが今、ようやく見つけることができたよ」
「聞いてやるよ、それは何だ?」
「俺はお前に無意味に殺されたアッシュの仇を討たせてもらう」
「は……??」
ジャックは思考が停止し、気でも狂っているのかとレルゲンを見つめながら高笑いをした。
「ハッ、ハハハハハ!!! 人間が悪魔の仇討ちをするだと? ハハハ!! お前はつくづく面白い! それでテメェが俺に勝てばテメェが正しい!! 負ければテメェは頭のおかしい面白い道化として、殺した後に首を飾ってやるよ」
「俺が勝ってもお前の首はいらないけどな」
「その時は好きにしろ。ただし、俺のこの姿を見て、同じ言葉を吐けるのならな」
ジャックに魔力が収束していき、身体中が青い光を放ち始める。
「――リヴァート・ベスティア」
呟かれた瞬間、青い光が大気を巻き込みながらジャックに集まっていく。
レルゲンの全力攻撃でついた全身の切り傷や出血も一瞬で修復し、骨格が音を立てて組み替わる。その全身を白銀の毛並みが覆っていった。
四足歩行で宙を歩くその姿は、正しく歴戦の――フェンリルの王に相応しい出立ちをしていた。
「さぁ、続きを始めようぜ。レルゲン・シュトーゲン」
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