183話 ジャック・ボロス
レルゲンは振り向いた勢いのまま、黒龍の剣で薙ぎ払ったが、ジャックの首元に迫った瞬間に素手で掴まれて止められる。
「そう簡単に終わらせるわけにはいかないだろう――お互いに」
両者とも不敵な笑みを浮かべ、一度距離を取り合う。速さ比べは終わり、今度は一撃の出力勝負へと変わる。
ジャックは右手に魔力を集中し、少しの猶予もなく赤い核撃を放つ。
レルゲンは今まで核撃を放ってきたどの魔物や人形よりも、素早い発動に目を見開いた。だが、黒龍の剣を前に構えて魔力を流す。
今度は言葉ではなく剣で受け止めると、赤い光線は二つに分かれてゆき、レルゲンを覆い被さるように左右へ散る。
アッシュに放たれた核撃よりも明らかに巨大な質量で放たれた赤い核撃は、念動魔術によってこれもジャックの元へ返す。
すると、ジャックは核撃を打ち込んでいる右手はそのままに、左手でも核撃を放ち相殺した。
ジャックは再び返された核撃を冷静に分析し、威力の大小にではなく結果を引き寄せていると気づく。
「どうやらその術――今の核撃も曲げられるなら威力の問題じゃねぇな。もっと深い――結果を最初に引き寄せている。名を名乗れ、エルフだった男」
「レルゲン・シュトーゲン」
「対等な殺し合いだ。俺からも名乗らせてもらおう――ジャック・ボロス。俺は誇り高きフェンリルの王だ」
「フェンと同じ種族か」
するとジャックは隠さずに憤りを露わにさせる。
「そんな飼い慣らされた犬と一緒にするんじゃねぇ……! フェンリルとは本来群れない者。そこの半端者と同じとは聞き捨てならん」
フェンを貶された召子はジャックに一瞬向かって行こうとしたが、セレスティアが腕を引っ張って止める。
「セレスティアさん……! あの人はフェン君の悪口を……!」
「大丈夫ですよ。レルゲンが倍返ししてくれますから」
引き下がる召子を脇目に、ジャックの魔力が更に高まる。
「また核撃か……?」
何度やっても同じことだとレルゲンは言いたげだったが、すぐに間違いだと気づく。
「核撃にはこんな使い方もある」
元々黒龍の剣と打ち合うことができるほど鋭利で頑丈な手足を、赤い核撃が両手の指部分に集中していき、真紅の輝きを放つ。
「お前も大概だよ――ジャック」
レルゲンは呆れたように笑うが、すぐに表情を引き締め直し、相手の出方を伺う。
――あの指に集められた核撃は間違いなく威力が圧縮されて強力になっているな。
「構えろ――レルゲン・シュトーゲン」
「……!!」
一度静寂が周囲を包み、レルゲンが構えを取り直す。
真紅に輝く両手を構えたジャックが、空気を切り裂いて迫る。
「――行くぞレルゲン……!」
獣の声に近い咆哮を上げて勢いよく走り込み、レルゲンの直前で姿を消し、横から爪を立てて顔面へと迫った。
しかし、目で追っていたレルゲンは横目で浮遊剣を軌道上に合わせ、核撃が込められた指先と撃ち合う。
金属同士がぶつかり合うような衝撃音が周囲に響き、火花が激しく散る。
「……!!」
ジャックは自慢の攻撃を二度も防がれたという事実に心が揺れたが、攻撃の強度が落ちなかった。
むしろその逆――以前に魔王へ力試しを挑んだ時の高揚感に全身が包まれた。
「いいじゃねぇか! お前ももっとやる気を出せよ……!! レルゲン・シュトーゲン」
「レル君、力が必要?」
胸のポケットからウルカが顔を覗かせるが、レルゲンはこの申し出を断った。
「いや、今はまだいい。必要になったら頼む」
「わかった」
再びウルカはレルゲンのポケットの中に引っ込んだが、その様子を見ていたジャックが憐れむように声をかけてくる。
「レルゲン――人間の癖に純精霊と契約しているのか? 気の毒な奴だな」
「契約内容のことか? お前にそこまで言われる筋合いはない」
それもそうだと言わんばかりに肩をすくめ、再び空間が震え始めた。
抗議の声を上げようとウルカがポケットから飛び出ようとするが、入り口を塞いで抑える。
「今度はこちらからいかせてもらう……!」
レルゲンが黒龍の剣から氷華に持ち替えて魔力を込め、氷華から冷気が大気に漏れ出る。
ジャックが氷華を見て構えを一段と深くした。
斬り上げの動作をしたことにより、地面から氷の棘がジャックに向かって瞬時に這ってゆき、ジャックの周りに円を描くように伸びていく。
氷の棘がジャックを包み込むと、レルゲンはすぐさまブルーフレイムを手に出現させ、一本だけ弓矢状に形状変化させる。
氷をドーム状に包まれたジャックに放たれた。
ジャックはブルーフレイムの矢の発射を魔力感知で察知したが、どんな方法で攻撃をするのか興味があり、あえてレルゲンの攻撃を受けた。
ブルーフレイムの矢が氷のドームに当たる寸前、その射線上の氷壁に念動魔術で穴を開け、爆裂した瞬間に入り口を閉じる。
大きな破裂音にも似た音が響くが、ジャックは蒸し焼きになったとしても軽い火傷程度で済んでおり、レルゲンの攻撃には落胆していた。
「逃げ場を塞いだまではいい。だが、一発分の火の魔術なんざ、どう喰らおうが同じことだ。無駄な魔力消費は……っ!?」
突如としてジャックが膝を付く。
レルゲンの狙いは逃げ場をなくし、確実にブルーフレイムを当てることではなかった。
「なにしやがった……!」
意識が朦朧となりながらも、ジャックはレルゲンに向かって吠える。
核撃が込められた爪で無理矢理に氷のドームを破壊するが、それでも意識を繋ぎ止めるので精一杯――ジャックはよろけながらも、懸命に足を叩いて立ち続けた。
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