181話 一段とギアの上がる戦い
悪魔にとっては傷にもならない怪我を負ったアッシュは、召子の連続攻撃が終わった瞬間に回復を完了する。
それでも召子は攻撃の手を緩めない。
傷口が深くなるのを覚悟の上で、アッシュは思い切り聖剣を打ち上げて一度後方へ跳ぶ。
修復が終わり、手の平を開閉して感触を確かめると、アッシュは少し口角を上げた。
「便利な身体ですね」
「悪魔だからな」
再び二人が撃ち合いを始めるが、今度は横に走りながら横腹を狙った攻撃へとお互いが考えを変えた。
「……何を考えている?」
「あなたを倒す方法です――回復され続けたら私に勝ち目はありませんから」
レルゲンはこの二人の会話を聞いて、召子がちゃんと一人で勝ち目を探していると感じる。
――そうだ、相手は悪魔。持久戦ではまず勝ち目がない。奴を倒すには大出力の攻撃がいる。
だが召子にはその手段はない。どうやって勝ち切るのか考えるんだ。
召子は額に汗をかきながらも、アッシュにどうやって聖剣の一撃を叩き込むか考えていた。
――やっぱりあの魔力で固められた拳以外のところに攻撃を当てるしかない。でもそれは向こうも分かっている……だから咄嗟のフェイントは通用しない! なら!!
ヴァネッサと戦った時のことを思い出し、召子はアッシュに向けて決意する。
――あなたを斬ります。
召子の目の色がまるで魔力で包まれるような色味に変化すると同時に、聖剣の大きさが変わる。
アッシュは即座に勇者である召子の変化に気づき、拳のみに集中していた魔力を少しだけ全身に流す。そして、攻撃力を下げて防御力を上げる動きを見せた。
だが、その程度の防御術では召子は止まらない。
先程までのやり取りとは別人レベルに速くなった召子の突進が、一瞬でアッシュとの距離を詰め切った。繰り出された聖剣の横薙ぎを防御力を上げた腕で受ける。
それでも、あっさりとアッシュの両腕を斬り飛ばして首を狙う召子の目は、もう転生者のあどけなさは微塵も感じられなかった。
――あの時とはまるで別人だな……!
斬り飛ばされたと認識してからは、アッシュは召子の聖剣を全て躱すことに専念し、腕を再生させてから攻撃のために魔力を回す。
――あの攻撃を受ける時は全身の魔力を一点に集中しなければならない。幹部クラスならそんなことはしなくてもいいだろうが、俺は技術でなんとかしてみせる……!
ここまで召子の攻撃力が上がると、腕や足を再生するたびに大量の魔力を消費してしまう。
アッシュの方が先に魔力が尽きる可能性すらあった。
召子がアッシュを間合いに捉えるために再び駆け出す。だが、アッシュは魔術で空中に飛び上がって距離を取ろうとするが、召子もまた〈飛翔〉スキルで跳躍し、距離を詰める。
「羽をもがれても、悪魔は飛べるんですね」
「これは魔力制御で空中にいるに過ぎん」
「天歩の加護に近い術ですか」
この一言に、アッシュは眉間に皺を寄せながら思い切り叫んだ。
「あんなものと一緒にするんじゃない! "神が人間のみに与えた特権"と!」
アッシュの心が大きく乱れた瞬間、召子の姿が消える。素早く背後に回り込んでからの一撃は、容易に肩口から腹にかけて聖剣が斬り裂いた。
身体を深々と斬り裂かれ、アッシュの体から鮮血が噴き上がる。修復しようと傷口に魔力が集まっていくが、致命傷に至る攻撃は簡単には治らなかった。
アッシュは修復の時間を稼ぐべく、召子に悪態をつく。
「勇者らしからぬ攻撃だな」
「私は確かにあなたたちから見れば勇者でしょうが、私は私を勇者だとは考えていません。今戦っているのは勇者ではなく――最上召子ですから」
「ならば俺も最大限の敬意を込めて、この一撃をお前に贈ろう。受けるがいい……! 最上召子!!」
アッシュが必殺の一撃を放とうとした瞬間――もう一つの影が割って入る。
「なんだぁ? やっぱり勇者が来てんじゃねぇか」
――ドスン。
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