180話 召子 vs アッシュ
召子が階段を降りながら、待ち人たるアッシュに返答する。
「ずいぶんと待たせたようですね」
「やはり魔法陣は使わずに、自ら用意してきたか」
「ええ――悪魔の言葉は信じられなかったので」
「ふっ……そうか。それはこの魔界に来ても変わらない確固たる意思か?」
召子はゆっくりと首を振り、答えた。
「いいえ――私たちはあなた方悪魔の生活を間近で見てきました。治安の差はあっても、確かにそこは人間と変わらない営みがありました」
「では人間と悪魔は分かり合えると、そう言うのか?」
召子は少し考えるが、もう一度首を横に振った。
「私はわかり合えるなんて甘いことは言いません。一緒に暮らしていけることもないでしょう――私たちは最初の一歩目を致命的に間違えてしまった。その事実がある限り、わかり合えることはきっとない」
アッシュは小さく笑い、安堵したように尚も続ける。
「その言葉を聞けて安心したぞ! 情けを掛けるような真似をしたら、俺の弟子が浮かばれないからな! さぁ――きっちりと殺し合おうじゃないか」
「望むところです。仲間は手を出しません。一対一です」
「お前が飼っているペットは戦わないのか?」
「はい――フェン君とアビィちゃんが戦ってしまったら、あなたとの勝負に水を差してしまいますから」
「なんだお前? 俺の弟子と戦った時はその狼と一緒に戦っただろう――師匠である俺と戦う時は単独なのか。わからん奴だな」
「これはケジメです。あなたと最初に戦った時も私は一人だった。だからこそ、私はあなたと対等でいたい」
「理ではなく意地を取るか――いいだろう。俺も余計な小細工はしない。とことんやり合おうじゃないか」
アッシュは召子を一人の戦士として認めた。
最初から全開で拳に魔力を込めたアッシュは、神速の一撃を放つ。
白い輝きをまとった右拳が――アッシュは右手に魔力を込める。
挨拶代わりと言わんばかりに、遠距離から放たれた不可視の拳圧――召子は瞬時に〈魔力眼〉を発動させて聖剣で弾いた。
アッシュはにやりと口角を上げ、集中している召子の姿を見て満足そうに速度を上げていく。
「――いい反応だ」
アッシュが繰り出す拳は、腕が伸びる直前に小さく青い魔法陣が一瞬だけ浮かび、クロノよりも洗練された発動速度で、何発打ち込まれたか目視が難しいほどの速さを誇る。
しかし、集中状態の召子が見ている世界は、まるでスローモーションのように緩やかな動きとなって流れていた。
〈魔力眼〉の効果だけではない。
瞬間移動した拳がどこから出現するのか、目ではっきりと捉えていた。
――この技はクロノが使っていたもの。でもずっとこっちの方が速くて重い……! でも!!
瞬間移動してきた拳圧の塊を全て見切るように、最小限の動きのみで回避する召子を見て、アッシュは早々に技に見切りをつけた。
今度の転移先に指定したのは、召子よりも数メートル距離が空いた何もない空間。
一瞬なぜ距離を離したのか召子は疑問に思ったが、これもすぐにクロノの技と同種の一撃が飛んでくる。
速度に振り切った一撃が迫る。
召子は余裕をもって横に移動して避けるが、その先には転移した拳圧の塊が待ち受けていた。
「……くっ!」
正確に召子の横腹を捉えた一撃は、防御を許さずに吹き飛ばした。
「この攻撃はクロノが会得しようと鍛錬を積み、ついぞ届かなかった技だ」
様子を見ていられるほど悠長にしている余裕はない。召子はすぐにアッシュに向かって走りだした。
左右に動かなくなったことでアッシュは拳を転移させる攻撃をやめて、遠距離から真っ直ぐに召子へ魔力で固めた拳圧を連続で繰り出す。
召子は飛んでくる拳圧を聖剣で斬り、剣の腹で受けながら距離を詰める足を止めない。
「……頑丈な奴だな」
「取り柄ですから!」
距離を詰め切り、召子が一段と強く地面を踏み込んでアッシュへ斬りかかる。
魔力を集中して強化された拳でアッシュは正面から聖剣を受け止めた。
連続で攻撃を仕掛ける召子の聖剣を完璧に受けたはずだが、召子の攻撃がアッシュの防御を上回る。
受け止めた拳から血が滴り、僅かに裂けているが傷口を確認するや否や、すぐに再生させて召子を睨みつけた。
召子はアッシュの放つ圧に気押されそうになるが、一歩下がりかけた足を無理矢理に止める。
――ここで押されちゃだめだ! 攻める時も、受ける時も……! 心で負けていてはこの悪魔に、仇を討とうとしている者には勝てない……!
召子がアッシュから放たれる圧を掻き消すように声を張り上げ、聖剣の間合いに捉えるために前へ踏み込んだ。
「――やぁぁああああ!!!!」
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