18話 謁見の間、女王の真意とは
門兵がレルゲンに視線を送り、すぐにマリーに戻される。
「そちらのお方は……マリー殿下のお客人と伺っております。どうぞ中へ」
王宮の本殿へ通じる道を歩いていく。
庭園を眺めながら歩いていると、本殿へ続く道から脇へ逸れ、大きな建物の前に辿り着いた。
豪邸の前で止まると扉が開き、黒い服に身を包んだ執事が出迎えた。
「お帰りなさいませ。マリーお嬢様」
「久しぶりねセバス。元気そうで何よりだわ」
「はい。早速ではございますが、陛下がお呼びでございます。お召し物をご用意しております。どうぞお着替えくださいませ。ハクロウ様は騎士団服をご用意させていただいております。お連れ様も、こちらへ」
「ハクロウも嫌そうな顔していないでさっさと着替えてきなさい。そんなに着る機会もないのだから」
「あの服は動きづらいが、陛下の前でこの格好はできねぇしな……」
諦めた様子のハクロウが中へ入っていく。
レルゲンはここで再度気づかされた。
この二人は本当に中央王国の重鎮なのだと。
レルゲンに用意されたのは騎士服に似たものだったが、首周りに上品な羽があしらわれており、少しデザインが異なっていた。
マリーが着替えを済ませてやってくる。
王女様らしい姿――長い髪は編み込まれ、上品に後ろへまとめられている。
白を基調とした衣装には、金色の糸による刺繍が施されている。
そして顔には上品な白粉が施され、唇には優しい色合いの口紅が引かれていた。
マリーを見た瞬間、レルゲンの胸がわずかに高鳴った。
ハクロウの騎士服には胸の辺りに勲章が何個も付けられており、歩くたび金属音が軽く鳴っていた。
「あらシュット、意外と様になっているじゃない」
「意外は余計だ。そっちこそ、王女様らしい姿になったじゃないか」
からかうようにレルゲンが笑って見せると、マリーは視線を逸らして恥ずかしがった。
「……あんまり見ないでよ」
実際のところ、本当に綺麗だった。
お互いに恥ずかしさを隠すために、レルゲンも顔を逸らした。
――謁見の間。
赤いカーペットが部屋全体に敷き詰められ、玉座の前には数段の階段がある。
人の上に立つ存在だと、わかりやすく誇示しているようだ。
「マリー・トレスティア殿下、ハクロウ副団長。そしてお連れ様のご帰還になります!」
横には王直属の筆頭貴族が並び、騎士団員たちも威厳を示すように整列している。
想像を超えた歓迎ぶりに三人とも面食らったが、態度には出さず、前に出る。
マリーが最初に跪き、ハクロウ、レルゲンもそれに続く。
最初に口を開いたのは、この中央王国の長。
――ダクストベリク女王陛下。
「まずは長旅ご苦労様でした。あなたたちの動向は、私の耳にも届いていました。しかしマリー、あなたの口から何があったのか説明してください」
「はい、女王陛下。ですがまずはこの場にいる皆様に謝罪を。いきなり王宮を飛び出し、ご心配をおかけいたしました」
マリーの謝罪を受けて、貴族側がかなりざわついた。
女王が頷き、続けるように視線を送った。
「私は、滞在したとある大会にて、暗殺未遂に遭いました」
「なんだと!?」
「暗殺っ!!?」
先ほどとは比べ物にならない驚きの声が響く。
それを鎮めるように、女王が一言だけ口を開いた。
「静粛に」
一瞬で場が静まり返る。
レルゲンはこの時、癖のありそうな貴族たちを一言で黙らせた女王の威厳に、少しばかり萎縮した。
女王の声には、意志の力が宿っていたからだ。
「暗殺が失敗したのは、ここに控えておりますシュット殿が命がけで護って下さったからです。私はなし崩しとはいえ、自らの身分を明かしました。しかし、それよりももっと早くから、彼は私のことを気にかけ、支えてくれた。シュット殿は、私の英雄です」
女王は優しく微笑みながら、レルゲンを見つめる。
「シュット殿」
「はっ」
「わが娘を命がけで護って下さったことに感謝を。何か褒美を取らせたいのですが、希望はありますか?」
「身に余る光栄、誠にありがたき幸せにございます。しかし、私めが陛下より何か賜るなど本来あってはございません。そのお申し出、僭越ながら辞退させて頂きたく存じます」
「褒美は要らぬと申しますか」
レルゲンは顔を上げずに、そのまま動かずにじっと女王の言葉を待った。
少しの静寂の後、満足そうに陛下が笑った。
「私はあなたを個人的に気に入りました。何でも申して下さい。私に叶えられることなら文字通り何でも与えましょう。『レルゲン』殿」
この時、レルゲンは冷や汗をかいていた。
やはり身元調査は済ませており、試されていたのだと。
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