19話 本音のやり取り
この場にいる全員が、偽名を使ってレルゲンが身分を偽っていたと知り、旧王朝の王子だと承知していたということだ。
もしレルゲンが女王に褒美を願った場合、そこで命を落としていたかもしれない。
なおのこと、レルゲンは表情には出さずとも、肝を冷やしていた。
「ありがとうございます。では『私も本音』でお話しましょう。陛下、私をこのマリー様の筆頭騎士にして頂きたく存じます」
マリーから殺気にも似た視線がレルゲンに送られ、ハクロウに至っては笑いを必死にこらえている。
女王は眉間に皺を寄せながら、レルゲンに問いかける。
「理由を聞いてもよろしいですか?」
「私の見立てでは、未だマリー様を狙った賊は健在です。暗殺者と召喚魔方陣を用意した人物は別にいると考えております。それではマリー様に再び魔の手が迫るのは必然――私は、マリー様をこれからもお護りしたいのです」
「……なるほど。それほどまでに我が娘を案じてくださるとは。いい従者を持ちましたね。マリー」
「はい、お母様」
マリーは明るく返事をしたが、その声にはわずかに苛立ちが滲んでいた。
厳かな雰囲気に割って入ったのは、ハクロウの前にいる騎士団長のベンジーだった。
一歩前に出て、女王の前で膝を付く。
「ベンジー騎士団長。発言を許可します」
「私もレルゲン殿を歓迎いたします。しかし、我らが騎士団はまだ若い年齢の者が多い。反発する者もおりましょう」
「何か案があるのですか?」
「はい。ここは手っ取り早く、レルゲン殿の実力を示して頂くのはどうでしょう? 私と一騎打ちで戦って勝てば、この場にいる騎士団の面々は納得すると思われます」
「ふむ……レルゲン殿はハクロウ副団長に、闘技大会で勝利していると聞いておりました。実際にどれほど強いのかはまだ見たことがありません。
本当にマリーを託すに足るか、この目で確かめさせて頂きましょうか。異論ある者は?」
女王の決定に、誰も口を挟む者はいない。
ベンジー騎士団長との模擬試合が執り行われる手筈となる。
「ではこれにて謁見を終了。大訓練場にてベンジー騎士団長とレルゲン殿の試合を始めます。両者、すぐに準備を始めて下さい」
「「御意」」
大訓練場の控え室で、マリーがレルゲンに怒声をぶつけた。
「もう! 本当に余計なことしてくれたわね! なんで私を抜きにして、話が進められているのよ!! 一言くらい相談してくれてもいいじゃないの! はぁ……」
「絶対にマリーは反対すると思ったから」
「当たり前じゃない! そもそも中央に来ることすら渋っていたのに……まったくもう」
「事情が変わった。やっぱりマリーをここに置いて別れることはできない」
「どういう意味よ?」
「マリーが今までどんな生活をしていたかは知らないが、殺気にも似た空気がわずかだが漏れ出ていた。――相当に強く怨まれているぞ」
「呆れた……私、自分のことは自分で何とかしたいのだけど」
「そいつを突き止めて、マリーの安全が確保されたら俺は去るよ」
「駄目よ! 私の騎士を志すなら、文字通り死ぬまでやってもらうんだから」
横で聞いていたハクロウが口笛を吹いてからかった。
「熱いねぇ嬢ちゃん。これじゃ今生の誓いだぜ」
「それくらいの覚悟を持ってもらわないと困るってだけよ。さっさと勝って、私の騎士になっちゃいなさい」
「お任せを、姫」
レルゲンが大げさに騎士礼をすると、マリーはふんっとそっぽを向いて恥ずかしい気持ちを誤魔化した。
やることは変わらない。
マリーを護り続けると決めた以上、ここで足踏みはできない。
出自はもう知られているんだ。
始めから念動魔術を使って飛ばしていこうと心に決める。
「悪いなボウズ。あれは騎士団長が戦いたいだけなんだよ」
「そうだろうな。見ればわかる」
十本の剣を魔力糸なしで浮遊させて訓練場の中へ入る。
自信に満ちた表情に、長身ながらも筋骨隆々。
防具は最低限で、武器はロングソードが一本のみ。
中央王国の騎士団長にまで上り詰めた男が、あまりにも軽装なことに、レルゲンは一種の不気味さを感じ取った。
審判が試合開始の宣言をする。
勝負の前に、ベンジーが口を開いた。
「付き合ってもらって悪いな、レルゲン殿」
「報酬は頂きますよ」
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