17話 中央王国へ
街から中央までは馬車を使えば一ヶ月。
膨大な魔力量を誇るレルゲンなら、念動魔術で空を飛んでいくことも出来るだろう。しかし、それを嫌った。
恐らくマリーとハクロウも気づいているが、あえて口にしない。
まだ一緒に過ごした時間は短い。
だが、できるだけゆっくり旅をしたい気持ちは、お互い同じだった。
「あの街では馬車自体なかったから、行商人にでも乗せてもらいたかったわね」
「ユニコーン騒ぎで噂が広まって、行商人すら来なくなっていたからな」
「まぁゆっくり行こうや、お二人さん」
砂埃が舞っていた街とはまた変わり、背丈の低い草花が咲いている。
唯一、行商人が通った後の轍の上を歩いて進んでいた。
「レルゲン、お水ちょうだい」
「ほら」
念動魔術で全員の荷物を浮遊させて運んでいるレルゲンが、マリーの水を取り出して渡す。
「ありがとう。それにしても本当にこういうとき便利よね、その魔術」
「パーティに一人は欲しいだろ?」
「絶対欲しいわ」
後ろについてくるハクロウもうんうんと頷く。
「そうだ! 私にもその魔術教えてよ」
「それは構わないが、マリーの魔術適正ってどのくらいあるんだ? まだ魔法と魔術、どっちも使っているところ見た事ないけど」
マリーが得意げにふふんと笑う。
「聞いて驚きなさい。適正ランクAよ」
「Aか、すごいな。適正があれば大丈夫そうだし、教えるのは構わないぞ」
「これでも魔剣士目指して頑張っているのよ」
魔術適正とは、幼少期にどれくらい魔術を扱えるか測る、才能テストのようなものだ。
D〜Sまでの段階が存在し、魔術の一般常識では才能八割、努力二割と言われている。
血統やその育った環境などで後に適正の上下が発生することはあるが、滅多にない。
ちなみに幼少期にレルゲンが測った時はB評価で、ナイト先生が落ち込んでいた。
それでも、当時のレルゲンにはBもあってなぜ落ち込むのか分からなかった。
念動魔術は習得自体は早いが、重い荷物を難なく運べるようになるには時間がかかる。
「自分で言うのもなんだが、旧王朝でよく使われていた魔術を、今の王族が使うってのはどうなんだ?」
「そんなの黙らせばいい、と少し前の私なら言っていたけど、使う場面は限定的になりそうね。ベッドの位置をずらして掃除する時とか!」
「念動魔術の本懐だな。わかった、教えるよ」
「ありがとう」
「じゃあマリー、次の休憩の時に教えるよ」
手頃な木陰があったので、ここで休憩とすることに。早速教えて欲しいと頼まれたので、実演を交えて始める。
レルゲンは、庭で行う課外授業が好きだったことを思い出しながら、マリーに向けて話し始めた。
「魔力を外に出す時には、どんなことを意識している?」
「そうね。剣に通りやすいように、水が流れていくような感覚に近いと思う」
「水か……ならその水を一本の流れにするためにはどうしたらいいと思う?」
「枠を作るか、滝みたいに上から落とすとか?」
「よし、じゃあそのイメージで魔力を外に出してみてくれ。最初から俺のように糸じゃなくていい。木の棒くらいの大きさでやってみてくれ」
マリーが頷き、意識を集中するべく目を閉じる。
体内を流れる魔力が手を伝い、ぴたりと木の棒ほどの太さで現れる。
一発でできる辺り、流石は魔術適正Aだ。
「その魔力の棒をこの水筒まで伸ばして」
ぎこちない軌道だが、少しずつ距離を伸ばし、水筒まで辿り着く。
「魔力を通してになるが、この水筒に触っているような感覚があれば合格だ」
顔をしかめて唸りながら、マリーが首を傾げる。
「焦らなくていい。
俺は最初、魔力の棒すら出せなかったぞ」
「それは子供の頃の話でしょ」
「ともかく筋はいいと思う。この調子なら、次の街までに念動魔術の物体操作くらいはできるようになるさ」
「やった!」
次の日にはマリーが魔力の接触感覚を掴み、物体操作を身につける。
街に着く直前には、空中に身体が浮けるようになっていた。
この成長速度の早さは、レルゲンも舌を巻いた。
街に到着し、適当な宿を探して一泊。
中央へ向かう荷馬車をちょうどよく見つける。
途中何度か最寄りの街に寄りながらも、順調に中央までの道のりを進んでいた。
やがて土地自体から魔力を感じるようになる。
この地脈から溢れる豊潤な魔力は、魔法や魔術を扱う人々にとっては恵みだ。
全魔力を解放してマインドダウン状態だったレルゲンも、この土地の魔力によって超回復を見せていた。
この肥沃な土地の価値は膨大で、ここを戦で勝ち取ったのが現国王であるダクストベリク率いる中央王国軍というわけだ。
肥沃な土地という事はその恩恵を受けようとする者が少なからず現れる。
それは人間のみならず、魔物も例外ではない。
魔力の濃い土地には魔物が自然発生する。
その自然発生した魔物への対処が、行商人たちがレルゲン達を乗せる条件だった。
一段階目の魔物なら武装した一般人でも追い払うことは出来るが、二段階目以降となると話は別だ。
中央近辺には最大三段階目までの魔物が自然発生する。今回遭遇したのも二段階目の魔物。
そろそろ中央の目が気になる頃合いで、レルゲンは居心地の悪そうな顔をしていた。
それを見たマリーが、両手を上にして伸びをする。
「丁度良かったわ、ちょっと運動してくる」
「頼んだ、俺は荷馬車の護衛を。ハクロウはどうする?」
片目を開けたハクロウが、眠そうに欠伸をしながら答える。
「嬢ちゃんとボウズがいれば俺はいらんだろ。任せた」
流石に二段階目の魔物なら、特殊攻撃も無いだろう。
マリーの持つ『連続剣の加護』を使うまでもなく、二度の斬撃で仕留めてから魔石を回収して戻ってくる。
「全然手応えなかったわ」
「仕方ないだろ、相手は二段階目だ」
その会話を聞いていた行商人が驚いたような声で話に割って入る。
「お嬢さん強いね! そこにいる兄ちゃんも強そうだ。どうだい? うちと専属契約して護衛してはくれんか?」
「悪いな爺さん。俺は彼女の護衛中だ」
「今の敵は護衛するまでもねぇってか! こりゃたまげた」
いよいよ中央王国の門をくぐる。さすがにどの行商人も厳重に門兵が確認している。
マリーとハクロウは門で兵士が気づくと思ったが、レルゲンを見てお前は何者だ? となる展開が容易に予想できた。
レルゲンは行商人に化けるつもりだったが、意外にもあっさり通されて肩透かしを食らう。
マリーは考え込んでいたが、答えは出てこないようだった。
さすが中央王国なだけあって、景観は白を基調とした清潔感があり、街行く人々は活気に溢れていた。
中央通りの床は白い石が規則的に並び、そこを行商人の荷車が通る。とにかく街が大きく感じた。
レルゲンが中央を去ってから、街の規模は二倍以上になっているように感じられた。
外周は高い壁で囲まれており、“綺麗な円”の形をしている。
街の中心にマリーの住まう王宮が鎮座しており、遠くからでも威厳を感じさせるその姿は、まさに壮観だった。
「懐かしい?」
「……街並みが変わりすぎて、面影が全くないな。まるで別の街に来ているようだ」
「急速に発展しているから、確かにわからないか。私が子供のときは、こんなに綺麗な街じゃなかったもの」
王宮の目の前まで到着し、マリーとハクロウが事情を説明しにいくと、緊張した面持ちの門兵が大袈裟に騎士礼を取った。
「お待ちしておりました! お帰りなさいませ!マリー・トレスティア殿下! ハクロウ副団長殿!」
遣いは出していなかったが、帰路についていることは向こうも承知だったようだ。
俺の素性も知られているのか?
と、レルゲンは眉間に皺を寄せていた。
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