177話 いつかの恩を返せた気がする
「――行きます!」
レルゲンとマリーがヴァネッサに向けてコンビネーション攻撃を仕掛けていたところに、召子が空いている背後から斬りかかる。
「あなたもいい剣を持っているようね……!」
「剣だけかどうか……試してみますか!」
召子が連続でヴァネッサに斬りかかるのを見て、一旦レルゲンとマリーは下がる。
「ふふっ、三人同時でもいいのよ?」
全員でかかって来るように挑発するが、今まで見せたことのないほどに気合いが乗っている召子を肌で感じた二人は、ヴァネッサの言葉を意に返さずに距離を取った。
挑発に乗ってこない二人を脇目にヴァネッサは一瞬残念そうな表情をしたが、すぐに召子を舐めていた考えを改めることになる。
――この娘、攻撃は単調。まだまだ坊やたちより遅い。でも、一度でも受けを誤ったら致命的になる……!
それは召子から発せられる勇者としての圧なのか、召子本人が発する圧なのかは定かではない。だが、ヴァネッサは警戒するに値する力を感じ取っていた。
「やぁああ……!!」
短い気合いの声と共に、何度も攻撃をする召子の剣を受けるのではなく横に身体を捻り、そしてステップを踏みながら躱していく。
「この……!」
ヴァネッサは逃げに徹する自身の行動に苛立ちを覚え、長い足を伸ばして召子に回し蹴りを放った。
「……っ!!」
ヴァネッサの動きに気づいた召子が、聖剣の広い腹部分を使って防御する。それでも完全に威力を殺せず、地面を割りながら吹き飛ばされるほどに純粋な力の差があった。
だが、召子は進むのを止めない。
何度も攻撃を繰り返す。
レルゲンは構えを解き、召子が単独で戦っているのを静観していると、一つの変化に気づいた。
「なぁマリー、召子の聖剣ってあそこまで大きかったか?」
「ううん、私の神剣と似て、聖剣は戦っている間だけ大きくなっているんだと思う」
「俺たちが加勢する必要はなさそうだな」
召子一人でヴァネッサに勝てるのではないか……? と感じるほどに、確信に近い予感があった。
ヴァネッサに突き進んでいく召子の視界の端には、何個も新しく獲得したスキルが表示され、更にヴァネッサは額に汗をかきながらも召子の攻撃を躱しながら受け流す。
――この娘、さっきよりも確実に強くなっている……! 一合交える度にどんどん速さも重さも、そして動きのキレまで鋭くなっている……!! 一体どこまで強くなるのか……ゾクゾクしちゃう!
召子の横薙ぎ攻撃を上体を逸らして躱し、聖剣を蹴り上げ、武器を手放させようとするが、固く握られていた手からは聖剣は離れない。
代わりに召子の体勢が、地面から足が離れるほど大きく浮き上がり、再び着地するまで僅かな隙が生まれる。
この間、ヴァネッサの右腕へ瞬間的に込められた魔力は拳を赤く輝かせ、真っ直ぐ召子へ向けて放たれた。
しかし、召子は拳が当たる寸前に〈飛翔〉スキルで距離を取りそのまま空中に浮き続けてやり過ごした。
「あなた、空も飛べるのね」
「ええ、あなたは武器を使わないんですか?」
「あら? 勘のいい子ね。今日は戦闘するつもりはなかったから持ってきていないのよ」
「戦い辛そうにしていると思いました。このまま戦いますか? 私は戦う度に、やり取りをする度に強くなります。それでも構わないなら、いくらでも付き合います」
「ふぅん……それもそうねぇ?」
ヴァネッサがレルゲンを一瞥した後に、召子へと向き直り、両方の拳に赤い魔力を込め直す。
まだ戦う意思を見せたヴァネッサに応えるべく、召子は聖剣を構え直した。しかし、これ以上勇者を強くするのは得策ではないと理性が勝り、拳に宿っていた赤い魔力が完全に消え失せた。
レルゲンを連れ帰るのを諦めたヴァネッサは背を向けて歩き、その場を後にしようとする。
無防備な後ろ姿だが、今ここでヴァネッサを誰一人追おうとはしなかった。
「また来るわ、坊やたち。どうやら足掛かりは掴んでいるようだけど、それでもまだまだ甘い。万全の私と戦うまでに、もっと強くなっていてくれると嬉しいわ」
ヴァネッサは、ゆっくりと姿も魔力も影へ吸い込まれるように消える。
最終的に撤退へ追い込んだ召子の功績は大きかった。レルゲンとマリー、セレスティアの三人で攻める以上の圧をかけ続けていた召子に感謝の言葉をかける。
「ありがとう召子。本当に強くなったな」
「これはレルゲンさんがメテオラで勇気をくれたからです。その恩が今、少しだけ返せた気がします」
「貸し借りではないから、そんなこと言われても困るぞ」
全員が困った表情を浮かべるレルゲンを見て笑いを浮かべ、ヴァネッサを撃退したことを讃えあった。
読んで下さってありがとうございます!
もし続きが気になりましたら、ブックマーク、評価をお願いします!
ぜひ皆さんで作品を盛り上げて下さいね!
よろしくお願いしますー!




