171話 ディシアの笑顔
ゴルガは興奮気味のようで、レルゲンに向かって走り寄ってくる。
「すげぇぜ兄ちゃんたち! 凍刃龍を倒すなんて簡単に言いやがるから疑っていたが、本当に素材を確保しながら倒すなんてよぉ!」
「場所と素材は確保した。約束通り剣を鍛えるのは頼んだ」
「おう! 任せとけ! きっちりとお礼を兼ねて用意してやるさ。それから疑った詫びに色々と……な」
「色々?」
マリーが尋ねるが、ゴルガは似合わないウインクで返す。
自分の工房まで案内しようと凍刃龍から手に入れた素材を運ぼうとするが、全く動かない程の重量を誇っており、ゴルガが顔を真っ赤にしながら運ぼうとする。
レルゲンが念動魔術で空中に浮かせ、やはり見たことがないのか「ほぇー」と声を漏らした。
「どういう原理で浮いてるんだ?」
興味を持ったゴルガが魔術の仕組みについて聞くと、運んでいく途中で原理について話していた。すると、それを聞いたゴルガは運んでいる素材とレルゲンを何度も見比べるが、それでもさっぱりわからないようで、肩をすくめて諦めた。
「ここが俺の工房だ。もてなすことはできねぇが、ゆっくりしていってくれ」
工房に案内されるレルゲンたちは、大小様々な剣や防具、装飾品が飾られている品々を見て、感嘆の声を上げる。
「これは全部ゴルガが作ったのか?」
「おうよ、試作品もあるが全部俺がこしらえた一品よ。無闇やたらに触らない方がいいぜ、怪我するからよ」
レルゲンとマリーは武器が並べられているのを手に取って確認しようとしたが、ゴルガの一言で踏み留まる。
「うっかり怪我しても治してあげませんからね? アビィちゃんもですが」
セレスティアが怖い笑みを浮かべながら忠告すると、渋々だがレルゲンとマリーが揃って戻る。
召子とディシアは少し苦笑いを浮かべるが、仕切り直すようにゴルガがレルゲンに向けて武器の詳細を尋ねた。
「兄ちゃんはどんな剣がお望みなんだ?」
「できればこの剣たちと同じくらいの大きさと形だと望ましいな。重さは問わないよ」
「ほう、どれも魔剣に相応しい一品だ。だが、この剣に負けない――いや、この剣よりももっと良いものを作ってみせるぜ。腕が鳴るってもんよ」
「頼むよ、時間はどれくらいかかるだろうか?」
「元々の翼に付いている刃を利用するから、そこまで時間は取らせねぇ。加工自体は数時間だ。だが仕上げや調整もある。全部合わせると一日ほど欲しいな」
「そんなに早いのか……!」
「元々の素材をそのまま利用するからな。寧ろ余り手を加えない方が良いだろう。それを加味しての時間だ」
「数日は覚悟していたから助かるよ」
「早く仕上げてやらないと、最短の道を通った意味がなくなるからな。任せとけ! あと、悪いが兄ちゃんには素材の運搬をお願いしたい。作業が順調に行くためにな」
「あぁ、それくらいなら喜んで手伝わせてもらうよ」
レルゲンが女性陣に振り返り、逸る気持ちを抑えながらも一言断りを入れる。
「すまないが、一日だけもらっても良いだろうか?」
「構いません。あなたが強くなる事は私たちの――いいえ、国で待っている皆さんの安全に繋がりますから」
代表してセレスティアが了承すると、他のメンバーも頷くように笑う。
「ありがとう」
レルゲンはゴルガに向き直り
「ではよろしく頼む。まずはどれから運べば良い?」
「まずはなんと言っても刃がついてる翼だな。こいつの解体から始めるからここに持ってきてくれ」
ゴルガの槌は迷いなく振るわれ、剣に熱が入れられた。そして、本当に数時間で両手剣にも匹敵するような大きさを誇る、刀の形をした剣を完成させた。
刀身は青白く輝き、絶えず冷気を発して空気を優しく凍り付かせていた。
「これが凍刃龍から出来た剣か……!」
「おう、それにしても兄ちゃんは多彩だな。荷物運びから炉の火まで簡単に出来ちまう。将来は鍛治師になるのも面白いと思うぜ」
「考えておくよ――見るからに魔剣には間違いないだろうが、これはどんな剣なんだ?」
「銘は氷華。コイツに魔力を込めて振ると氷の華が咲くように、氷を発生させたり飛ばしたりもできるぜ。あれだけの魔力量だ――兄ちゃんなら俺の予想よりも武器の性能を底上げすることができるだろうぜ」
「なるほど、氷を自在に出せる剣か……」
レルゲンの頭の中にあるのは、どうやったら剣を使った応用ができるか――その一点のみに絞られていた。
ゴルガは、一瞬遠い目をしたレルゲンを見たが、すぐに元の表情に戻るのを見てから続けた。
「それと、これは俺からの贈り物だ」
ゴルガはレルゲンたちの元へ戻り、完成品をディシアへ差し出すと、全くの予想外だったようで「えっ?」と疑問の声を上げた。
「私は非戦闘員です。あまりこの短剣と籠手はお役に立てることができないと思いますが……」
「いいや? 凍刃龍と戦っている兄ちゃんを見ている時の嬢ちゃんは、どこか歯痒いような、悔しいような顔をしていたと素人ながらにも分かったぜ。このお節介、受け取ってくれるかい?」
「……ご厚意、感謝いたします」
ディシアが杖を前につき、服の裾を片手で摘んで最大限の礼を取る。
ゴルガは満足そうな顔をして付け方を教える。
付け終わったディシアは普段見せることがほぼない満面の笑顔を見せて、改めてゴルガにお礼をするのだった。
「思ったより早く終わったことだし、兄ちゃんに伝えたいことがある。時間をもらっても良いか?」レルゲンが頷くと、ゴルガと共に工房の奥へと消えていく。
「良かったですね! ディシアさん!」
「なぜ私より嬉しそうなのですか?」
「だってディシアさんは普段、あまり笑わないから」
「私は普段、そんなに表情に乏しいのですか?」
女性陣が真顔で頷くので、ディシアは頬に指を当てて笑顔を作る練習をしてみるが、余り自分が普段から笑っているところは想像が難しかった。
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