169話 男のプライド
体勢が大きく崩れた凍刃龍の翼が正面を向き、召子は攻撃の要と思われる翼目掛けて聖剣を振るう。
フェンは横を向いてできた隙を突き、比較的狙いやすくなった首元へ、進化で手に入れた強靭な鉤爪を立てるように切り裂く。
召子は渾身の力で翼へと聖剣を振り下ろしたが、剣が打ち合うような音が響き渡り、大きく弾かれる。
「硬い……!」
フェンは氷で出来た硬い外殻を弾き飛ばし、僅かに凍刃龍の鮮血が散る。
硬い翼を無理に斬ろうとしたせいで、召子の手から全身にかけて大きく痺れた。
すかさずフェンがフォローに入って召子を回収し離脱する。
すかさずレルゲンが浮遊剣にしている二本の剣に魔力を込めて、自身より先に先行させる。
狙うはフェンが外殻を弾き飛ばし、防御が薄くなった首元――。
正確に狙い澄まされた二撃が首元を捉えかけたが、硬い氷の刃でできた翼で全身を覆い防御の構えを取った。
硬い翼で完全に防がれた二本の剣は大きく弾かれたが、最後の炎剣だけは違った感触があった。
――朱雀も翼で防御していたが、硬さで言えば凍刃龍の方が上だな……だが炎剣なら!
レルゲンの魔力が通された炎剣は、振り下ろすと同時に爆炎を吐きながら、凍刃龍の自慢の翼を焼き裂いていく。
天敵に成り得る属性を持つ剣を凍刃龍は見つめ、近くにいるレルゲンたちに向けて大きく翼を羽ばたかせて冷気を纏った暴風を浴びせた。
ヒート・アーマーで耐寒バフをかけていたレルゲンたちの足元が瞬時に凍り付き、地面に縫い付けられる。身動きを封じられた状態で氷の範囲攻撃をまともに喰らい、耐寒バフを強制的に剥がされた。
――セレスのバフが無かったら死んでいたかもな。
すぐにセレスへバフをかけ直すように叫び、足元を固定している氷を剣の柄で砕いて破壊し、距離を取り直す。
初手はレルゲンたちが押していたが、雄の背後にいる雌の存在も気になる。
マリーが初撃で決めそうになった瞬間、雌の凍刃龍が僅かばかりだが魔力を高めていたのを観察していたレルゲンは見逃さなかった。
雄から「手を出すな」と言われていても、完全に任せ切るわけではなさそうだ。
下手に追い詰めすぎると途中で出張ってくる可能性すらある。
やるなら一瞬の内に倒し切ってしまった方がいい。
フェンが外殻を何枚か吹き飛ばしているため、素材の採取に関してはもう問題がない。
手を抜く必要も無いと判断すると、レルゲンがウルカとセレスティアを呼んで、火の上位魔術の連続射出を開始する。
「「ブルーフレイム・アローズ!!」」
火の上位魔術が襲いかかると、凍刃龍は氷のブレスで相殺を試みる。直線軌道しかないブレスでは薙ぎ払うしか迎撃は不可能だ。
初弾こそ相殺されたが、それ以降の連続発動には凍刃龍はなす術もなく、火の上位魔術を受け続ける。
「……!! おのれ!」
凍刃龍は翼を最大限に広げ、自ら連射魔術の的を広げる。
一気に閉じて氷の風圧を発生させ、待機させていた魔術を消滅させる。
風圧の勢いでレルゲンは顔を覆い、魔術の発動を強制的に止められてしまう。
今度は凍刃龍から突進を開始する。
「翼の刃を使った攻撃が来るぞ! セレスはもっと下がれ!」
刃の間合いに入ると同時に、凍刃龍は前腕と一体化している片翼を思い切り振り上げる。
すかさず浮遊剣にしている二本を念動魔術で、攻撃してくる射程の延長線にクロスさせるように重ねて防御する。
――全魔力、解放……!!
身体から赤い魔力が噴き上がり、全身を超強化して、前に待機させている二本の剣も赤い魔力を帯びる。
魔力が噴き上がる勢いで凍っていた地面に亀裂が入り、片足を地面に付く。
身体を固定させると、必殺の一撃が振り下ろされた。
盾にしていた二本の剣は念動魔術で強力に空間に固定されていたが、少しの拮抗の後に弾き飛ばされる。
それでも翼の刃での攻撃を強行してくる凍刃龍は、レルゲンに狙いを定めて振り下ろして圧を与え続ける。
「ぐっ……!!」
炎剣を両手で握り直し、足元と炎剣に全身から噴き上げていた魔力を部分的に集中させる。
大きな衝撃音と共に、足元には小さくクレーターができた。
半分以上は威力を相殺したはずの攻撃とは思えないほどの、押し潰して切り裂かんとする一撃がレルゲンの全身を軋ませる。
「……!!」
全力の念動魔術で、身体を上へ上へと持ち上げようとする力でようやく拮抗を許された。
「エルフの割によく耐えるものよ……! だが!!」
凍刃龍の全身から魔力が噴き上がり、翼へと集中すると、呼応するように翼から魔力でできた冷気が迸る。
レルゲンが押し込まれ、遂に膝を地面に突く。
最後の一撃と言わんばかりに更に魔力を上げた凍刃龍の表情は、笑みを浮かべているようにも見える。
「よく頑張ったが、これで終わりよ!!」
押し込まれる寸前でレルゲンがその名を呼ぶ。
「ウルカ!」
「はいよー!!」
「「第二段階、全魔力解放!!」」
レルゲンの全身から赤い魔力が瞬間的に消え、今度は明るい青色の魔力が噴き上がる。
身体から溢れる魔力は行き場を求めて大きく揺らめき、少しずつ地面に付いていた膝が浮かび始める。
遂には完全に立ち上がり、気合いの込もった声を上げて氷の刃を弾く。
持ち上げられて体勢を崩した凍刃龍は、その事実に大きく動揺する。
自身の全力の一撃を真正面から受け止めて、未だ立っているこのエルフの男を見ながら声が漏れる。
「貴様……! ただのエルフではないな! 何者だ!!」
「――さあな」
凍刃龍が隙だらけの会話を持ちかけた時には、背後からマリーと召子が全力の一撃を構えて待っている。
自慢の刃が付いた肩口へ狙いを定めた一撃を二人が振り下ろしたが、ここで乱入者が現れた。
マリーと召子に向けられた氷の槍は、正確に飛び上がった二人を捉えたが、レルゲンの矢避けの念動魔術で軌道が逸らされると理解している二人は、氷の槍を視認したが攻撃は中断しない。
深々と神剣と聖剣によって斬りつけられて肩口から大量の血が噴き出したが、巨体を支える強靭な翼を落とすまではいかなかった。
「――ガァァア!!」
言葉を話す余裕がなくなった凍刃龍は、痛みに絶叫し、討伐まであと一歩というところまで追い詰めた。
しかし、深々と斬りつけられた肩口から滴り落ちる血を凍らせ、傷口ごと凍らせて塞ぐ。
凍刃龍は応急処置にも似た判断の早さを見せた。
「あなた、残念だけど敵は強いわ――私も戦う」
「お前は引っ込んで……! ……勝手にしろ」
手負いの凍刃龍と、もう一体の万全な凍刃龍の雌を同時に相手取る戦況へと変わったことを見て、レルゲンたちは陣形を整え直した。
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