168話 凍刃龍
「ヒート・アーマー」
新しい複合魔術と思われるものをかけ終わると、全身から温かい水蒸気のようなもので包まれていた。
「バフとは少し違いますが、凍刃龍の対策でかけてみました。どうでしょうか?」
セレスティアが初めて使う魔術を皆に確認すると、全員が表情を柔らかくして
「暖かい……!」
と口を揃える。
「もしかして今思いついた魔術だったりするか?」
「ええ。以前ナイトが使っていたヒート・ミストラルから着想を得た、火と水の複合魔術になります。上手くかけられたようで良かったです」
「あの時は火傷をするくらい熱いやつだったからな。これなら寒い地域でも万全の状態で動けそうだ」
手先や足先の感覚がよりはっきりして、この極寒と呼ぶべき環境でも不自由なく動けるようになったのは大きい。
状態異常無効化のノーマリィ・コンディションとは少し違うが、それでも環境によるデバフを打ち消した。
準備が整い、凍刃龍の番いが待つ奥の部屋へと進む。細い通路を進んでいき、氷柱が何本も天井から下がるほど、気温の低さが伺い知れる。
だが、セレスティアの新しい複合魔術のおかげもあり、肌寒い程度で済んでいる。
氷柱が無数に垂れ下がる通路を抜けると、洞窟とは思えない銀世界が広がる大広間に出る。
「凍刃龍の冷気でここまで変化が起こるのか」
レルゲンたちが凍った地面を踏んだことでパキパキと音を鳴らしながら進んでいくと、極寒環境を作った主が二頭、待ち構えていた。
凍刃龍は雄と雌で身体の構造に若干の違いがある。魔力量こそほぼ同一だが、翼の刃が雄と見られる個体の方が明らかに鋭い。
また、身体を纏っている色味も雄の方が濃い青色だ。
レルゲンたちの侵入に気づくと、雄の凍刃龍が一本前に出て威嚇の言葉を投げかけてくる。
「こんな山奥に何用だ、エルフ共。ここは我らの棲家。だが選ばせてやろう――今すぐ引き返すか、ここで死ぬか」
「どちらも承服できないな。俺たちもアンタらには迷惑しているんだ。ここで討ち取らせてもらう」
「何を言い出すかと思えば、我らを討ち取るだと? はははははは!!! 笑わせるな! お前らのような羽虫、最初の一撃で葬ってくれるわ」
凍刃龍の背後に巨大な氷柱状の棘が無数に出現し、一斉にレルゲンたちへ向かって高速で放たれる。
――矢避けの念動魔術。
レルゲンが全員に念動魔術をかけると、飛んできた氷柱は全て当たる直前で軌道を変え、壁や地面に突き刺さる。
「最初の一撃で、なんだって?」
「ほう、軌道を変えられるか。面白い……! お前は手を出すな。コイツらは我が相手する」
雌の凍刃龍はレルゲンたちに背を向けてゆっくりと下がる。
――好都合だな。こっちは最初から二頭同時に相手にするつもりで来たんだ。雌が戦闘に首を突っ込んでくる前に決着をつける。
「最初から飛ばしていこう! 相手は一頭だ。
いつも通りに……!」
「「了解!」」
マリーがまずは駆け出し、凍刃龍に突っ込んだ。一歩後ろから召子とフェンが追随する形で追いかけ、いつでもフォローできる体勢を作る。
レルゲンは炎剣を構え、残る二本は浮遊剣にする。正面から突っ込んでいくマリーとは別の、凍刃龍の側面へ回り込むように肉薄する。
セレスティアは後方から全員にバフを無詠唱でかけ、アビィもリジェネライト・ヒールを全員分に付与する。
その後、すぐにセレスはテンペストを放ち、アビィはマルチ・フロストジャベリンで襲いかかった。
マリーの横を二つの魔術が追い抜き、凍刃龍に正面から当たる。だが、全く意に返さない素振りで攻撃を無視した。
逆にアビィが放った魔術は効果が無いどころか、凍刃龍の外殻に吸収される様にくっついて離れない。氷の槍は砕けることなく外殻へ溶け込み、まるで身体の一部になったようだった。
「アビィちゃん! 支援重視に変更!」
即座に召子が凍刃龍の性質に気づいてアビィに指示を出すと、次弾装填されていたマルチ・フロストジャベリンが霧散する。
セレスティアより更に後方に位置を変え、継続回復の魔術を常にかけ続ける。
マリーが凍刃龍に肉薄し、下段から斬り上げをしようと姿勢を更に低くすると、凍刃龍は首を大きく上げて口元に冷気が集まった。
ゴルガが思わず全員に聞こえる声で叫ぶ。
「ブレスが来るぞ!」
「ええ! わかってるわ!」
首をマリーに向けて真っ直ぐ伸ばすと、無数の細かな氷の粒が収束し、一直線に放たれる。
至近距離で放たれる寸前にマリーは前進しながら横に小さく飛び、ギリギリのタイミングでブレス攻撃を躱す。
後ろにいた召子は、フェンもマリーとは逆方向に躱しながら距離を詰め、息を呑んだ。
――マリーさん凄い! あんなに近くで攻撃されているのに完璧に見切っている!
「私たちも行くよ! フェン君!」
「ヴァフ!!」
ブレスを完全に躱したマリーは神剣に意識を集中して、全力で魔力を込めてゆく。
――あなたを斬るわ。
一撃で決めると心に決めてからは、神剣が白い輝きを放ち、マリーの覚悟が乗せられる。
ブレスを外した凍刃龍は、横目で接近するマリーの目を見て無理矢理に首の角度を変えながら表情が強張った。
マリーの目を見て、これから自分がどうなるのか明確なイメージを悟ったからだ。
首を逸らされたことでマリーの神剣は、軽く外殻を吹き飛ばすことはできても、首を切断するには至らなかった。
「器用なものね……! 召子!!」
攻撃を半ば外されたマリーは、走り抜けるように凍刃龍の後ろへ走っていき、召子へ攻撃の手番を引き継いだ。
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