167話 ゴルガとの交渉
「俺たちは南方を目指しているんだが、ここからどうやって抜ければいいか教えてくれないだろうか?」
「南方……? まぁいい――俺はここで炭鉱夫をやってるドワーフのゴルガだ」
差し出された手を握ると、ゴルガはその掌を上向きに返して観察する。
「エルフと言えば魔術や弓術の経験を積むもんだが、兄ちゃんは剣を振るうのか?」
「魔剣士をしているレルゲンだ。よろしく頼む」
礼儀正しく挨拶を返すレルゲンに、ゴルガは目を静かに見開いたが、気をよくしたのか快く南方に続く道を示す。
しかし、ある一つの問題があるとゴルガは答えた。
「ここの炭鉱はよ、ずっと昔からあったんだが鉱脈がもう残り少ねぇ……俺にも仲間が沢山いたんだが、どいつもこいつも新しい鉱脈が見つかるとここを出ていっちまった。そんで、南方への道はあの先にある道を通るのが一番の近道なんだが、どこかの馬鹿が低濃度の魔力揮発剤を撒いて魔物を発生させやがった。だから、迂回路にはなるがその隣の道を通るのがいいと思うぜ」
「なるべく早くここを抜けたい。魔物の強さはどれくらいなんだ?」
「恐らく兄ちゃんたちでも苦労する相手だと思うぜ。なんせ相手はあの凍刃龍だ。それに番いで棲家を作っちまってる。凍刃龍がいる場所を確保できりゃ、もう少しここで長く仕事ができるんだが、それは兄ちゃんには関係ねぇしな」
ここでレルゲンは一つ、閃いたようにゴルガへ確かめる。
「なぁゴルガさん。あなたがドワーフということは、もしかして剣を鍛えることも可能だろうか?」
「そりゃもちろん。素材は新しく必要だが、仲間の中では俺が一番の腕利きだったぜ。……! もしかして、兄ちゃん……お前」
「察しがいいな。俺たちが凍刃龍を討伐するから、代わりにこのデカい魔石を使って剣を一本鍛えて欲しい。素材は凍刃龍でどうだろうか?」
イビル・ラプトルから回収した巨大な魔石を見て、ゴルガは目を丸くする。
「面白いことを言ってくれるじゃねぇか! いいぜ、その提案乗った。もし討伐して炭鉱を取り戻してくれるなら、俺の工房で剣を鍛えてやる」
「取引成立だな」
レルゲンとゴルガが力強く手を握り合い、不敵な笑みを浮かべるのを見ていた女性陣は、やれやれと呆れながら笑うのだった。
上機嫌で前を歩くレルゲンにセレスティアが一言だけ釘を刺す。
「レルゲン、ここは魔界です。そろそろ気を引き締めて下さい」
「すまない――作戦を考えよう」
ゴルガを交えて作戦を考えるために輪になって座り、レルゲンがまずはどんな魔物なのか尋ねる。
「ゴルガさん。凍刃龍とはその名の通り、刃を用いる龍ということだろうか?」
「凍刃龍を知らないのか? この魔界じゃ有名なはずだが、エルフの里には届いていねぇのか」
一人で納得するゴルガを見てレルゲンは微妙な表情を返すしかなかったが、そのまま話を続けるので流れに任せた。
「剣を持つ龍ではなくて、身体の一部――コイツは翼そのものが鋭い氷の刃になっている。他にも氷を細かくしたブレスなんかもあるな。一度喰らえば身体中の体温が一気に奪われるから注意しな。他にも攻撃手段はあるだろうが、俺が知っているのはこの二つのみだ。後は戦いながら慣れてくれ」
普段は事前情報がほぼ無い状態で戦ってきたレルゲンたちにとっては貴重な事前情報だった。
「二種類も攻撃がわかれば、後はこちらで何とかする。ディシアはゴルガと共に身を潜めていてくれ」
「わかりました。戦闘はお任せします」
「セレス、凍刃龍の魔力は探知にかかってるか?」
「はい。魔力量から推察するに特別な六段階目かと」
「やはりイビル・ラプトルもそうだが、ここはそのクラスの魔物が出やすい環境が整っているようだな。俺が言うのもなんだが、全員で気を引き締めて戦おう」
ゴルガは人間界の尺度で魔物の強さを語るレルゲンたちに首を傾げたが、それでも口を挟まずに聞いていてくれた。
全員が立ち上がって歩き出そうとすると、セレスティアが待ったをかける。
「待って下さい。少し試してみたい魔術があります」
全員が立ち止まると、セレスティアが神杖に魔力を込めて意識を集中し始めた。
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