166話 吹雪の中を進む
洞窟で過ごし始めてから数日が経過するが、止む気配のない吹雪を見て、召子がフェンとアビィを撫でながら呟く。
「雪、止まないね」
寒がる素振りを見せない召子に向けてマリーが身体を摩りながら声をかける。
「召子、寒くないの?」
「そうですね。私が召喚される前に住んでいた所は雪がたくさん降っていましたから、そこまで寒いとは思いません」
「寒い所に住んでいたのね」
マリーはレルゲンに密着して一枚の毛布を被り直し、寒さを凌いでいる。
「マリーは昔から寒さに弱かったですからね」
セレスティアがマリーの昔話をしながらも、マリーの反対側からレルゲンにくっついて毛布を肩から被る。
「そういうセレスも寒いのは余り得意じゃなさそうだな」
「はい。マリー程ではありませんが、中央は寒くなる事が少ないですから、あまり耐性はないと思います。そういうレルゲンはそこまで寒くなさそうですね?」
「そうだな。俺は中央領にいたけど、比較的寒い地域に居たからまだ我慢できる寒さだよ。ディシアは大丈夫か?」
「はい。温かい飲み物もありますし、大丈夫です」
レルゲンがブルーフレイムを新たに出して念動魔術で拾ってきた薪に着火する。
魔術が使えない人がこの雪山で過ごせば、数日と保たないと思いながらも、瞳を閉じて雪が止むのをじっと待つ。
しかし、やはりというべきか雪は収まらず、吹雪も勢いを弱める気配はない。
ここでレルゲンが立ち上がり、止まない吹雪を確認しつつ出発の決意をする。
「食料も心許なくなってきたし、何処かの街で補給をする必要がある。そろそろ出発しよう」
全員が身支度を整えて、レルゲンが広げていた荷物を回収する。
再びフェンの鼻を頼りに、今度は山を超えていくことを決意するレルゲンたちだが、積もった雪では足が取られかねない。
数十センチほど念動魔術で浮かびながら進む姿は、まるでスピリット型の魔物が行進しているようにも見えるだろう。
「フェン君、どこか変な匂いがあったら教えてね」
「ワン!」
山の斜面を進んでいくと、雪で足を取られて助けが来なかった悪魔が凍死している姿が点在していた。ディシアが興味深く観察していたが、立ち止まる余裕はないのでそのまま通過する。
やはりこの深々と積もった雪で、飛行できなければ助からないだろう。
すると、フェンの耳がピンと立つ。
「フェン君、どうしたの?」
「ワン、ウゥ……!」
「何か音が聞こえるそうです。それも近づいて来ていると」
「近づいている? 魔力反応には何も……はっ! レルゲン!」
セレスティアがレルゲンを呼んで危険を知らせると同時に、途轍もない速度で雪の塊が山の斜面を滑り、まるで海で発生する高波のように押し寄せてくる。
急いで高度を上げてことなきを得たが、雪崩と思われる現象に遭遇したレルゲンたちは、一つ気づきを得た。
「さっき凍死していた悪魔はこの雪崩に巻き込まれたのかもな」
今度は雪崩が再度発生しても大丈夫な高度で進んでいくと、再びフェンが吠えて召子に何か伝えている。
「自分たちがさっきまでいた洞窟のような大きい穴があるって、フェン君が言ってます」
「山の斜面に洞窟があるということは、自然の物か人為的な物か……どっちの可能性もある。一応戦闘に入る準備だけしておいてくれ」
更に進んでいくと、確かに洞窟と思われる入口が見えて来る。
入口には木で崩れないように補強が成されていることから人為的な洞窟である事が予想できた。
「この補強跡は、間違いなく何者かがここを利用していた痕跡ですね。
魔力探知に反応はないので魔物の線は薄そうですが、注意して進みましょう」
セレスティアが木の補強跡を手で触れながら、全員で中へ入ると、生暖かい風が洞窟の奥から抜けてくるのを肌で感じる。
魔力探知には引っかからないものの、何者かがここを拠点にしていることは明らかだった。
セレスティアは魔力探知と、片目だけ温度感知ができるように魔力を集中して、敵の隠蔽魔術対策を取りながら中へ進んでいく。
細い洞窟を進んでいくと、予想通り広い地下空間に出てくる。
洞窟内は防寒着を脱ぎたくなるほど暖かい。
広い空間を観察していると、一筋の灯りが別の穴から差し込んでいることに気づく。
即座に魔力糸を全員へ繋ぎ、声を潜めながら、レルゲンは「灯りの方へ行ってみよう」と思念で全員へ伝える。
灯りの下まで念動魔術で飛んでいくと、セレスティアが異変に気づき、レルゲンの肩を優しく叩く。
頷き返し、全員が戦闘体制に入りながら洞窟に広がっている穴の一つに入っていく。
――カン! カン! カン!
何かを叩く音が耳に響いてくる。
どうやら中の悪魔は何かの作業中のようだ。
しかし、ここでセレスティアが悪魔の反応とはどこか種類が違うと気づく。
レルゲンも魔力感知の範囲に入ったのか、セレスティアの言葉に頷く。
『レルゲン、この魔力反応はどこか変です』
『ああ、悪魔にしては、魔力が少なすぎる』
武装は維持しつつ進んでいくと、自分たちの背丈の半分程しかない人物がピッケルを両手で振りかぶり、そして振り下ろしている。
――カン! カン! カン!
どうやら音の正体は、鉄で鉱脈を削っている時に出しているようだ。レルゲンのみ武装を解除して音の主に声をかける。
「作業中すまない。あなたはここで仕事をしているのだろうか?」
「見りゃわかるだろう」
「少し尋ねたいことがあるんだが、いいだろうか?」
「待ってくれ、もうじき一区切りだからよ」
しばらくして、ようやく音の主はレルゲンたちへ振り返る。
エルフの姿をしていることに少し驚きながらも、言葉を投げかける。
「こんな煤けた所にエルフが来るなんて珍しい。何のようだ?」
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