162話 イビル・ラプトル
イビル・ラプトルと呼ばれた魔物は青年の悪魔の腕を噛みちぎると、それを咀嚼して飲み込んだ。高純度の魔力が循環していた腕を吸収したことで、更に体は大きく成長し、牙も鋭さを増す。
青年の悪魔は腕を再生させようと意識を向けるが、新しい腕は生えてこない。
「どうして! くそ! なんで新しい腕が生えないんだ! 俺はこいつを倒さなきゃいけないのに!」
何度も腕を生やそうとするが、魔力が噛みちぎられた腕に集中させることができていない。
突発的な錯乱状態で魔力を操りきれず、腕の再生ができない。
レルゲンは黒龍の剣を浮遊剣にし、イビル・ラプトルの後ろから深く突き刺す。
「ガアァァァアア……!!」
黒龍の剣を念動魔術で引き抜くと、傷口からイビル・ラプトルの血が噴き上がるが、徐々に傷口が塞がっていき、やがて完全に再生した。
青年の悪魔がレルゲンたちの介入を見て、罵声に近い抗議の声を上げる。
「手を出すなと言っただろう! なんで勝手なことをするんだお前たちは!」
「その治らない腕ではどうにもならない。その必死な表情から察するに、お前がこの魔物を呼び出したんだろう?」
「……! そうさ、コイツを呼び出したのは俺だ」
レルゲンへ向かってイビル・ラプトルが突進してくる。念動魔術を発動させ、全員を横へ滑らせるように回避させる。
レルゲンは尚も青年の悪魔と会話を続ける。
「なぜこんな街中で呼び出した?」
「そんなの決まっている、俺がイビル・ラプトルを倒すところを誰かに見てもらう必要があるんだ。そうでなければ倒す意味がない。知らないのか? イビル・ラプトルを倒すことができる戦士は一人前の称号を与えられるんだ」
「そんなことは知らないし、興味もないな。それを言うなら、あの魔物を倒せない君は未熟な戦士と言うわけだ」
「――黙れ、お前から殺すぞ」
青年の悪魔の魔力量が感情に呼応するように跳ね上がり、噛みちぎられた腕も瞬時に再生する。
ようやく治った腕を見て口角が上がり、再び剣を握り直してイビル・ラプトルに正面から突っ込む。再び青年の悪魔とイビル・ラプトルの戦いが再開される。
それを再び見守るが、この身勝手な悪魔をどうするべきか。今でこそイビル・ラプトルはこの場に留まってはいるが、いつ暴れ回るかわからない。
ここで、先程の老悪魔がレルゲンたちに話しかけてくる。
「我らのような下級悪魔ではあのイビル・ラプトルはどうにもできません。今戦っている青年はどうやら私たちよりも強い悪魔のようですが、それでも一人では難しいでしょう」
老悪魔はレルゲンの剣を見つめる。
「先程の攻撃を見ていました。あなた方なら問題なくイビル・ラプトルと渡り合えるでしょう。どうかあの無鉄砲な青年にお灸を据えてあげて欲しいのです。助けてくれとは言いません。結果的にあの青年が命を落とすとしても、呼び出したのがあの悪魔ならそれもまた運命。今後似たような事が起こらないためにも、お力を貸して欲しいのです」
「力を貸すのは構わないが、あなたは一体……?」
「私はこの街の長です。ですので、この街の秩序を護る責任がある。どうか、イビル・ラプトルをよろしくお願いします」
「……はぁ、わかった。今から見せるものは他言無用で頼む」
「心得ております」
レルゲンが長に向かって頷き、全員に指示をする。
「マリー、一番危険な前衛を任せたい。セレスはディシアを除く全員にバフをかけ、その後は牽制してくれ。召子はフェンとアビィを元に戻して、アビィに回復魔術を全員にかけるように指示を。フェンと共にマリーの補佐を頼む」
「「了解!」」
全員が陣形を形成して戦闘体制に入るが、青年の悪魔を助けるには一歩遅かった。
再び突っ込んで行った青年の悪魔は大きく剣を振りかぶって斬りかかるが、正面からの攻撃をあっさりと躱されて、後ろを向いたかと思えば長い尻尾で薙ぎ払って勢いよく吹っ飛ばされる。
軽くクレーターができるほど建物の壁面に叩きつけられて、青年の悪魔は気を失ってしまう。
捕食しようと近づくイビル・ラプトルにすぐさま話を切り上げたレルゲンが、魔剣三本を浮遊剣にして背後から貫く。
しかし、イビル・ラプトルは痛みに耐えながらも、気絶した青年の悪魔を咥えて持ち上げ、そのまま全身を噛み砕いて捕食してしまう。
――遅かったか……!
悪魔を完全に捕食したイビル・ラプトルは腕を捕食した時とは比べ物にならないほど巨大な魔力を放ち、大きさも最初から倍以上は大きくなっているように見える。
魔力量だけは高い悪魔を片っ端から食い漁られては、苦戦することは必至だ。
一番避けたい魔王への報告という事態も十分にあり得る。
イビル・ラプトルが移動しようとその場を後にしようとする。
――この魔物が襲う悪魔を探しているのは、恐らく……
レルゲンは剣に魔力を込めることなく、魔力だけを半分ほど解放すると、それにピクっと反応したイビル・ラプトルは、レルゲンたちに向きを変え、大きく咆哮を上げて存在感を示した。
「グアァァァァアアアア!!!」
――これからお前を喰うぞ。
と言わんばかりに、猛烈な勢いでレルゲンへ向かって突進を始め、一気に距離を詰めた。
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