153話 深域修行と悪魔襲来
セレスの繰り出した氷の槍を柵代わりに地面へと突き刺して、素早く動く五段階目の魔物――ラピッド・ラビットを追い込む。
見た目こそ可愛らしい姿をしているが、実際は肉食で獰猛な性格をしている。
たびたび深域に迷い込んだ冒険者が興味本位で触ろうとして、腕を噛みちぎられる被害が報告されている。
素早く移動できることが特徴のウサギ型の魔物で、指定駆除魔物としてギルドに登録される。
最初からしっかりと討伐対象として認識すれば被害を抑えることは可能だが、今回のように一度走り回るとなかなか手がつけられなくなる。
セレスティアのように遠距離から行動範囲を狭める戦い方は、ラピッド・ラビットの攻略方法として正しかった。
走る範囲を限定されたラピッド・ラビットはマリーへ方向を変え、走る速度を一層強めて突進する。自慢の牙を利用しようと大きく口を開けた。
待ち構えていたマリーは、神剣に魔力を込めて意識を集中すると、刀身が白く輝き始めて聖属性が付与され、下段に構えて間合に入るのをじっと待っていた。
冷静に敵を見ていたマリーは、神剣の間合に入った瞬間――足に魔力を込めて即座に加速し、ラピッド・ラビットを斬り上げ、魔石へと還した。
「マリー、お疲れ様でした」
「セレス姉様も!」
二人で手を合わせて更に次の魔物を求めて奥へ進んでいくと、少し開けた平原地帯が広がっており、そこには一本の大木が鎮座していた。
その大木の下にある木陰を求めて魔物たちが集まっている。魔物を探し回る手間が省ける絶好の狩場だ。
ただ木陰で休んでいる魔物たちは、五段階目や六段階目がほとんど。まとめて相手取るのは難しいようにも二人は感じていた。
「どうやって討伐する?」
「一体ずつ相手取るのがベストだとは思いますが、まとめて相手にする練習もしておきたいですね。毎回万全の状態で戦えるとは限りませんから」
「なら最初はやっぱり?」
「この手で行きましょう」
魔物に勘付かれないように姿勢を低くして接近し、二人が徐々に魔力を高めていく。
魔物の意識外ギリギリの地点で二人は足を止め、合体魔術を全力で放つ。
「「ユニゾン・テンペスト!」」
眠っている魔物へ不意打ちが成功し、十体以上いた魔物の群れが残り三体まで数を一気に減らすことに成功する。
残ったのは六段階目が二体と五段階目一体と思われ、いずれも深手を負った状態だ。
バフが掛けられたマリーが、まずは数を減らそうと五段階目の魔物に突っ込んだ。セレスティアは魔物がマリーへ近づかないように再び氷の槍を用意して分断する。
マリーの口角が上がり、力強く地面を蹴った。
深手を負っていた魔物たちは抵抗する間もなく倒され、全ての魔物を討伐し終えた二人は、監視塔にいたレルゲンと鉢合わせになった。
レルゲンは安堵の表情を浮かべたが、その場にいた女王もまた安心した顔をしている。
「あれ、時間過ぎちゃってた?」
マリーが確認すると、レルゲンが呆れながら言葉を返した。
「余裕で過ぎてるぞ」
セレスティアが事情を説明すると、レルゲンは少し笑って二人を抱きしめるのだった。
「何もなくて良かった」
「ちょっと苦しい……」
「ご心配をおかけしました」
時折昼過ぎまで修行が長引くことはあったが、マリーとセレスティアは必ず一度帰還し、顔を見せながら深域修行をこなしていた。
事態が動いたのは深域修行を始めてから数日後、召子が新しくテイムしたアビス・アイビスをマリーとセレスティアに披露したばかりの頃だった。
「アビィちゃん、これからよろしくね」
「もう名前を決めたのか」
「はい、やっぱりこの子はちゃん付けがいいかなって」
「魔物に性別ってあるのか?」
「いいじゃない、本人が喜んでいるんだし」
マリーがアビィを優しく撫でると、気持ちよさそうに鳴き声を上げていた。
――突如、和やかな雰囲気が一変する。
監視塔の警備をしていた騎士団のメンバーが、緊張を孕んだ声で報告を入れるために、会話に割って入ってくる。
「ご報告致します。悪魔が転移魔法陣を利用してこちらにやってきました」
「数は?」
「一体のみです。アッシュと名乗っており、最上召子を出せと言っています」
「――私、行きますね」
「待ってくれ。一度退けた相手が今度は一人で来たんだ。何かあるに違いない。いけるメンバー全員で行こう」
全員が頷き、張り詰めた空気の中で監視塔へ向かった。
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