152話 アビス・アイビス
深域修行でメンバー分けをしてから数日、プロパティを久しぶりに開いた召子が気づく。
〈魔物召喚 優先度:高〉が再び白く光っており、フェンリルを召喚してから三十日が経過していたことを表していた。
「レルゲンさん、これって……」
「もうそんな時期か」
「押しても大丈夫なんですかね?」
「そうだな……一度押してみたら説明文が出てくるんじゃないか?」
「一回目は出てきましたからね。押してみます」
〈魔物召喚 優先度:高〉を押してみると、ポップアップウィンドウが表示され
『二体目の召喚を行いますか?
注意、一度実行すると再実行までに六十日を要します。本当に実行しますか?』
召子が目で確認すると、レルゲンも頷き返し、『はい』を選択する。
するとフェンリルを召喚した時と同様の魔法陣が浮かび上がり、一体の魔物が現れた。
身体は上品な青色で、艶やかに光を反射している。色味で言うならばセレスティアの髪色に近くそれよりも若干薄いが力強さが感じられる。
ウィンドウには魔物の名前が表示されており、その名はアビス・アイビス。
晴れて二体目の魔物召喚に成功したと思いきや、様子がおかしい。
まるでこちらを睨みつけるように鋭く眼光を光らせ、大きくレルゲンと召子に向けて威嚇の咆哮を上げた。
「グエエェェェェ!!!」
すかさず召子に確認させると、ウィンドウにはテイムイベント発生のポップが表示されており、戦って屈服させることで仲間になると書かれていた。
「レルゲンさん、手伝って下さい!」
「任せろ」
召子の補佐に入ろうと抜剣すると、レルゲンの前にもウィンドウが表示される。
『このイベントはテイム主限定。パーティメンバーはフェンを除き参加できません』
と表示されており、レルゲンが助けに入れないことを示していた。
それでも無視して戦闘に参加しようとすると、急激に身体が重くなり、全力の念動魔術で一歩動けるかどうか。レルゲンがたまらず膝をつく。
身体を動かすことができなければ、遠距離魔術ならどうだと手に魔力を込めるが、体外に魔力が放出できずに不発する。
今度は魔力糸無しの念動魔術なら浮遊剣が出来るのではないかと思考が走り、持ってきた三本の魔剣に思念で魔術をかけると、問題なく空中に浮かすことができた。
「すまない召子……! 俺の援護はこの三本の剣のみになる! 何とかテイムを成功させてくれ!」
「えぇ?! レルゲンさん動けないんですか?」
「身体が上から押されているみたいなんだ」
「……っ! わ、わかりました! 自分で何とかしてみます!」
聖剣を構える召子とフェンのレベルは共に190を示しており、加えてレルゲンの魔剣が三本。
アビス・アイビスはテイム前の魔物で、既にレベルが表示されていた。
230のアビス・アイビスは始めから氷の槍を複数背後に出現させ、召子へ狙いを定めた。
――セレスが得意としているマルチ・フロストジャベリンか!
レルゲンが召子に注意を飛ばすよりも早く、フェンを呼んで背中に跨る。
「フェン君!」
「ヴァフ!」
召子を背に乗せたフェンが氷の槍を走って躱してゆく。
アビス・アイビスはフェンの進行方向の先に氷の槍を連続して射出して当てようとするが、急停止して走る方向を変えたフェンの速度に追いつけていなかった。
遠距離から繰り出す氷の槍が効果が無いと分かると、歌う様に綺麗な声を出して周囲に響かせてゆく。するとフェンの速度が段々と落ちてゆき、走ることが困難になり座り込んでしまう。
「どうしたのフェン君!」
フェンは大きな欠伸をして眠り込んでしまう。
「魔物の心に響く声だ! フェンによる援護は期待できそうにない!」
「フェン君、後は任せて」
フェンから降りた召子は、レルゲンの魔剣による援護はあるとはいえ、実質的には一人で戦うことになる。
召子のみに狙いを絞った氷の槍が、何本も直進してくる。
「――回れ」
召子の前に移動させた三本の魔剣が高速回転し、迫る氷の槍から召子を護る盾の役割を果たして全て粉砕する。
「ありがとうございます!」
召子に遠距離攻撃は無い。
しかし、聖剣の力を少しずつ使えるようになってきていた召子は、目の前の魔物を斬ると定めると一気に身体能力以上の加速力を見せる。
アビス・アイビスの懐に潜り込み、深い一撃を浴びせた。
「キエェェ……」
深手を負ったアビス・アイビスは、すかさず羽ばたいて距離を取り、傷口が光り始めて修復されていく。
「治るんですか! ずるい!」
召子が可愛らしい文句を言いながらも〈飛翔〉スキルで治りきる前に再度斬りかかろうと飛んでいく。
レルゲンの浮遊剣も召子についてゆき、先行する形でアビス・アイビスの背後まで突き抜けて挟み撃ちの布陣を取る。
すると挟撃を警戒したのか、角度を変えて距離を取り直し、召子と浮遊剣の両方を視界に捉えようとする。
だが、それに気づいたレルゲンは三本の内、二本を上下に素早く移動させてアビス・アイビスの視界の外へ移動させる。
召子が聖剣の力を最大限まで引き出し、瞬時に距離を詰めて斬りかかるが、アビス・アイビスはこれを辛くも羽ばたいて躱す。
無理に躱したことでよろけたアビス・アイビスに、上下に移動させておいた炎剣と黒龍の剣の浮遊剣を突き刺す。
苦痛の声を上げ飛翔が難しくなったアビス・アイビスの翼へ、召子の聖剣が鋭利な傷跡を残したことで高度を落としてゆく。
何とか飛び立とうとする仕草を見せるが、すかさず召子が降りてアビス・アイビスに声をかける。
「もう頑張らなくていいんだよ。だから、ゆっくり傷を治して」
なおも警戒しているアビス・アイビスの頭を、召子が優しく撫でる。すると、無事にテイムが成功した旨のポップが表示された。
自身よりも高いレベルの六段階目クラスの魔物を仲間にすることに成功したのだった。
「レルゲンさん! 無事に仲間にすることができましたー! 援護ありがとうございました!」
召子が大きなアビス・アイビスを抱えて駆け寄ってくると、レルゲンを押さえ付けていた重力のような力がなくなる。
間違いなく勇者のスキルに起因する何かだろうが、浮遊剣だけ例外となっていることは幸運だった。
未だ眠っているフェンを見ながら、レルゲンは少し笑う。
「お疲れ様。二体目のテイムおめでとう」
声を掛けられた召子は一層表情が明るくなり、満面の笑みを作った。
一方マリーとセレスティアの二人は、順調に深域での修行をこなしていた。
「セレス姉様! 囲い込みをお願い!」
「お任せを!」
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