151話 女王の苦悩
中央王国に帰った二人は、早速転移魔法陣から魔界へと通じる正確な座標を伝えると、仮に転移先へ地上から向かったとしても時間がかかり過ぎるという結論に至る。
それはレルゲンが超速度で単騎突撃したとしても三十日以上はかかる距離だったため、緊張が高まっている今の状況では移動方法として現実的ではなかった。
悪魔が用意した転移魔法陣をレルゲンたちが利用して強襲をかけるとしても、転移先が悪魔の根城の本陣だった場合、これもまた採用が難しいとして皆の頭を悩ませていた。
昔に現れた勇者という人物は、どうやって深域のさらに先へ辿り着き、魔王を打ち倒したのか――記録が残っていないかヨルダルクの書物を調べても出てこない。
もちろん百年以上前の記録のため、王立図書館にも保管されていない情報だ。
「やっぱり悪魔が用意した転移魔法陣をこっちで利用するしかないんじゃない?」
仮に敵陣へ乗り込むことになったとしても、マリーは自分たちが強ければ問題ないと言わんばかりに宣言する。
「ですが、敵の本陣だった場合は一度に囲まれて対処ができない場合があります。あまりに危険すぎるので私は反対です」
セレスティアは慎重な様子で、いきなり強襲するのは無謀だと真っ向から否定する。
「じゃあセレス姉様はこの距離をレルゲンの飛行で飛んでいくと、そう仰るのですか?」
「それも難しいから皆で頭を悩ませているのではないですか」
久しぶりに姉妹喧嘩一歩手前まで行った時に、レルゲンが話に割って入る。
「そもそもの話なんだが、転移魔法陣って必ず転移先に一度徒歩で行かなければならない制約があるのか?」
これにはカノンとディシアが首を振り、レルゲンの疑問を否定する。
「いえ、転移先の誤差が大きくなりますが、直接出向かなくても魔法陣自体の作成は可能です。ですが、転移先の距離が離れれば離れる程、誤差も大きくなり、最悪の場合は数百キロ単位でのズレが発生する可能性があります」
「一番現実的な話が出てきたな。二人はどう思う?」
マリーとセレスティアに意見を求めると、二人とも妥協案としては納得したようで、頷いて返事をする。レルゲンがどれくらいで作成が可能か尋ねる。
「カノンもいますし、およそ十五日あればしっかりとした陣の作成が可能かと思います」
「わかった。それでいこう。陣ができるまでの間は魔法陣の監視と修行だな。俺もそうだが、もっと強くならないといけないのは確かだ。日替わりで深域に行って修行をしながら時間を使おう」
「なら私はセレス姉様と組みたいわ。レベル的な話もそうだけど、やっぱりこの前の悪魔と同じでレルゲン抜きで相手をしないといけない機会が増えてくると思うし」
前衛のマリーは、レルゲン抜きで敵の攻撃を引きつける必要がある。後衛とは違い、自分一人で戦線を維持できなければならない。
国の要人であることを除けば、一番効率的と言ってもいい。問題は女王がこの割り振りを納得するかどうかだ。
女王の私室を軽く叩き、レルゲンたちが中へ通される。新たな転移魔法陣の作成と、その間の修行方法について話すと、やはり首を縦には振らなかった。
「お気持ちは理解します。ですがあなたたちは一人の戦力である前に国の姫なのです。最近は徐々にここを巣立っていくのを見守っていましたが、王女のみで深域に行くというのは流石に危険ではありませんか?」
「お母様、心中お察し致します。ですが、これもまた悪魔の根城に向かって王国を守るための最短の道。危険度で言うならば魔王討伐の方が遥かに高いのです」
女王としては、魔界へ向かうことすら許可したくはなかった。勇ましくも国を護ろうとする娘たちの意思を尊重した結果、なし崩し的に認めているに過ぎない。
今回はハクロウやレルゲンもいない。
それを逆手に取ったセレスティアの進言は、女王にとって頭を痛める内容だった。
しばらく無言の時間が過ぎる。
女王は大きく息を吐き出し、二人の深域修行を認めるのだった。
ただし、二人のみの深域修行に一つだけ条件を出した。朝から一日修行をする時は、半日。つまり昼に一度転移で戻ってくること。
二人は必然的に転移魔法陣近くの場所での修行となったが、それでもマリーとセレスティアは喜んでいた。
「昼を超えて戻らなかった場合には、騎士レルゲンを深域に向かわせます。よろしいですね?」
「「はい」」
「二人とも王女としての自覚がどんどん薄くなって……まったく困った娘たちです」
女王は思わず苦言を漏らしたが、王女の二人がはっきりとした返事をして、十五日間の行動が決まった。
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