146話 お互いの告白
「周りの皆さんに助けられて、魔物退治をしてようやく自信がついてきた頃でした。悪魔のクロノと戦った時、最後の一太刀を私が入れる直前に見てしまったんです。――嫌だ、まだ死にたくないっていう、子供だと分かる表情を。私はその娘を聖剣で切りました。取り返しのつかないことをしたと思っています。どうしてレルゲンさんは、そんなに強くいられるんですか?」
難しい問いだ。
薄っぺらい励ましの言葉をかけたとしても、今の召子の心を縛っているものを取り除くことはできないだろう。
レルゲンは少し考えてから、口を開く。
「実は俺は、自らの師匠を手にかけたことがある。未だにもっといい解決策があったんじゃないかって思う時はあるよ。初めて会った時から一度別れるまで、その先生は本当に第二の親のような人だった。本当のところは俺を、そして家族を騙していたことには変わりないんだが、それでもあの時にかけてもらった魔術の心得は、今も大切にしている」
召子がレルゲンの抱えていたものを知った時、余計になぜここまで強くいられるのかと感じざるを得なかった。
レルゲンの横顔を召子が見つめる。
「結局、師匠は人間を辞めてしまったが、更なる高みを目指したがために介錯するしかなかった。止めを入れる時は今の召子のように躊躇いそうな気持ちにもなった。でも、自分の大切なものを護るために俺は剣を振った。その事だけは後悔していない。実際のところ、信念を持って戦った敵を斬ったことを後悔している自分も、確かにここにいるんだ」
胸に手を当てながらレルゲンは、召子を見つめる。
「乗り越えなくたっていい、迷ったっていい。
一番楽なのは何も考えないことだろうけど、そうじゃない。俺たちがこれからもずっと大切にしていきたいのは、誰かを護る意思、傷つけさせない覚悟だと思う。召子が今一番大切にしていることはあるか?」
召子は瞬きをせずに涙が頬を伝うのを気にせずに自分の意思をはっきりと言葉にする。
「私――私は元の世界に帰って、待っている家族と、友達とまた話がしたい。でも勇者っていう肩書きが無かったとしても、私に力が無かったとしても、きっと誰かの役に立ちたいって行動を起こしていたかもしれません。それが戦うことなのか、それとも別の何かなのかは分かりませんけどね――今はただ純粋に、誰かのために剣を振るいたい。誰かの未来を護りたいです」
「それが言葉にできるなら、召子はもう大丈夫だよ」
お互いが見つめ合い、星々の光が二人を優しく照らしていた。
「レルゲンさん。手を……握って貰えますか?」
「――ああ」
お互いの温もりを感じ合うように優しく、そして強く握り合う。
「あったかい」
召子が更に大粒の涙を流しながら笑顔を作るが、その夜は泣き疲れて眠ってしまうほど、静かな夜を過ごした。
朝日が顔を覗かせる頃になっても、眠っている二人の手は繋がれたまま。
召子が目を覚ますと、レルゲンの手を握って安心して眠ってしまった恥ずかしさから、すぐに手を離して逆側を向いてしまう。
「おはよう、召子」
「お、おはようございます。レルゲンさん」
挨拶を交わすと召子のお腹から、音が聞こえる程に空腹を知らせる合図が聞こえる。
「すみません。安心したらお腹が空いていることを思い出しました……」
身体を起こしてレルゲンを見つめる召子の表情は、完全に復調したわけではなかった。
それでも前を向いて、昨日の覚悟を通す意思が瞳には宿っているのを見たレルゲンは、優しく微笑んだ。
「何か食べてから戻るか、俺もお腹空いた」
朝食を済ませてからゆっくり中央王国に帰った二人は、黙って二人きりで一夜を過ごした。
マリーとセレスティアは帰って来た二人に何か言いたげな表情を浮かべたが、召子の晴れやかな顔を見ると、全てを察したように微笑んだ。
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