147話 悪魔たちの痕跡
立ち直った召子とフェンと共に、レルゲンたちは悪魔の出所と思われる地点の近くを捜索していた。しかし、捜索地点は地脈からの魔力に満ちており、魔力の残滓からは特定することができずにいた。
必ずどこかに痕跡が残っているはず。
敵の悪魔は飛行船も用意してきたということは、どこかに発着場として使われた跡があるはずだ。
それに魔物が数千も行軍してきたのだ、足跡があったとしても不思議ではないはずだ。
だが、発着場どころか足跡の痕跡一つない。
これにはレルゲンたちもどうやって痕跡を消しているのか見当がつかず、周囲には不自然なほど木々が生い茂っているだけだった。
ここで、地図を見ていたマリーがある違和感を覚える。
「ねぇ、セレス姉様。ここ、地図だと平原が広がっているはずなんだけど、こんなに木が生えている場所でしたっけ?」
「私にも地図を見せてもらってもいいですか?」
セレスティアがマリーの持っている地図を確認すると、確かにここは平原地帯の印が打たれていた。
「おかしいですね。この地図は中央の最新版のはずですが……」
レルゲンも地図を覗き込みながら、セレスティアに確認する。
「最新版から今までの期間に木々が生えたって可能性は?」
「あり得ません。本来木々は何年も月日をかけて成長していくもの。最新版の地図は作成されてからまだ一年も経っていません」
「それは確かにおかしいな。少し調べてみるか」
レルゲン達が森の中に入っていくと、魔力感知にいくつか反応があったが、この新しく出来た森を棲み家にしている魔物だ。
魔物との接近を避けるように、大きく成長した大木の枝部分から遠くを見つめる。
すると、地面を割るように根が張っているのを除けば、なんら違和感が無いように見えた。
だが、魔力感知をすると大きな違和感が露わになる。
地面を割るように伸びた木の根の隙間からは、地中を流れる地脈の魔力が他の場所よりも濃く感じられた。
まるで、地脈の魔力を糧に超速度で成長しているようにも見えた。木の種類も中央に生えている物とは違い、どこからか持ってきた木を成長させているように、木々が規則正しく並ぶ様子は、まるで誰かが手入れした庭園のようだった。
――木を植える事で何かを隠している……何を? そんなもの決まっている。魔物の足跡だ。
レルゲンがマリーに向けて笑顔を向ける。
「大手柄だ、マリー。この木は人為的に植えられている」
同時にセレスティアもレルゲンの意図に気づいたようで、まだよく分かっていないマリーに向けて説明する。
「つまり、悪魔たちが魔物を引き連れてわざわざ地脈が流れている所を通り、足跡を消すために魔力を糧に成長する木を植えたということです」
「なるほど」とマリーが納得して、木々が生い茂っている先を見つめながら
「この木を辿っていけば、悪魔がどうやって急に現れたか分かるかもしれないってことね」
レルゲンとセレスティアが頷くと、召子がすぐにフェンの背中に跨って上空から確認して〈魔力眼〉を発動する。
すると地脈に沿って木々が整列するように生えており、レルゲンに合図を送る。
合図を確認したレルゲンが、マリーとセレスティアを上空へ連れていき、木が生えている先へと飛んでいく。
すぐに木々の端まで到着するが、それらしい痕跡はそこで途絶えている。どうやら地脈の端まで木々が生い茂っており、それよりも手前の森の中を捜索する必要があるようだ。
一度木陰で休憩を挟んでから、再度森の中に入っていく。
すると先ほどよりも多い魔物の反応があり、戦闘は避けられそうにない。
「みんな、すぐに戦闘準備を。恐らくだが、魔物が集中している場所こそ、悪魔たちが通ってきた道に繋がっているはずだ」
全員が武装を手にして森の中へ進んでいくと、やはり最高段位の六段階目の魔物が洞穴と思われる場所を守護している。
「六段階目の周囲にも、四・五段階目が複数いるな。黒龍の一撃を使えば魔物の排除はできるだろうが、悪魔達の根城に通じている穴まで破壊しかねない。それで新しい悪魔が出てこないとも限らないしな」
「どうするの?」
マリーがレルゲンの顔を覗き込むように尋ねると、レルゲンは少し笑って
「俺に考えがある。合わせてくれ」
周りに伝えると、全員が頷いて準備を始める。
レルゲンが周囲の四、五段階目の地面を少しだけ隆起させ、瞬間的に浮かせる。
浮かされた中型の魔物は、着地して体勢を立て直そうとするが、その隙にマリー、セレスティア、召子が攻撃を繰り出して魔石へと還す。
残る六段階目の魔物は、レルゲンたちのコンビネーションで即座に倒すと、洞穴へ歩を進め、その奥へと入っていく。
どうやら通路は地下へと進んでいる作りになっており、セレスティアがサンライトで辺りを照らしながらどんどんと下る造りになっているようだ。
洞穴からしばらく歩いて下っていると、今度は明らかに人工物である石造りの階段が現れ、景色が一変する。壁にはサンライトを必要としない灯りがついており、細い階段には魔物の気配はない。
降っている感覚が狂うほど地下に降りたタイミングで、大きく開けた空間に繋がった。
「中央領の地下にこんな大掛かりな物を作っていたなんて……」
「ミリィを連れてくればよかったかな」
レルゲンは小さく独り言を零し、罠探知に長けているミリィの力を借りたいと強く思った。
「何があるか分からないから、余り触らないようにしてくれ」
円形に開けた空間には魔法陣が刻まれており、これまで何度も見てきた種類に近い転移魔法陣だと直感的に理解する。
「転移の魔法陣……きっとこの先が魔界に通じているのね」
マリーが近くに寄って、陣には触らないが念動魔術による浮遊で空中から確認する。
恐らく他の国に悪魔が現れた原因も、この魔法陣と同種の物を使ったのだろう。
それに加え、ここまで大規模な陣となると、かなりの距離を繋げていることが予想できた。
悪魔がどこから来ているのかを特定しなければ、また急な襲撃に日夜怯えて過ごさなくてはならなくなる。
しかし、ここの魔法陣を仮に破壊したとしても、根本的な原因を取り除けない。
再び何かしらの手段で別の所に魔法陣を形成され、もっと発見が難しい細工をするに違いない。
この魔法陣はそのままにしておき、周囲から動きがないか警戒を続け、こちらは魔法陣の研究を進めて位置を割り出す。
それが今できる最大限の対処だった。
一度中央王国に戻り、正確な座標を記した上で、カノンやディシアの知恵を借りる必要があると考えたレルゲンたちは、そのまま来た道を引き返した。
レルゲンが研究所に来たのを見ると、カノンは何だか含みのある笑顔を見せてディシアを見るが、カノンの視線に気づいたディシアは顔を逸らして紅茶を口に含んでいる。
疑問に思ったレルゲンは何かあったのか問うが、何事もなかったように会話が始まった。
「別に? それで助手君は、一体どんな御用かな?」
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