144話 迷い
周辺諸国に悪魔が出現したことにより、自力で退けた中央王国と同盟関係にあったヨルダルクを除いた国々は壊滅的な被害を負っていた。
直接的な中央への被害はレルゲンたちが食い止めたため、王国民は大いに沸いた。
だが、ナイトの転移事件からテクトのダンジョン侵略、そして悪魔の侵攻が短期間の内に度重なった慣れからか、すぐに王国民は普段の日常に戻っていった。
「騎士団とレルゲン隊の皆様、事は急を要します。今回の悪魔の襲撃は、言わば威力偵察と言えるでしょう。悪魔たちがどこから現れたのか早急に調べ、こちらから打って出る必要があります。その為、疲弊しているとは思いますが、すぐにレルゲン隊には悪魔の出現位置の特定の任を与えます。よろしいですね?」
女王がレルゲンに向けて新たな命令を出すと、すぐに騎士礼を取って頭を垂れる。
「拝命致します」
女王がレルゲンの顔を見て、少し微笑むと普段の顔付きにすぐに戻り、騎士団の面々にも新たな命令を出すのだった。
個別に女王の私室に呼び出されたレルゲンとマリー、セレスティアは、敵戦力の詳細を伝えていた。
「お母様。敵は、敵ながらに矜持を持って、誇りを持って戦っておりました。私が戦ったナイルという者は、最後の瞬間に私に向けて感謝の意を伝えました。私はこちらにいる騎士レルゲンに、戦う際の心の在り方を教わり、それが戦場で大きく意味を持つと知りました。極悪非道の限りを尽くすだけの集団だと思って対処すると、足元を掬われかねません」
「そうですか、悪魔なりの矜持というものがあるのは驚きです。しかし、敵を知れば知るほどまた己の刃が鈍ってしまうのも道理。母としてはあなたにはこれ以上、護るものを背負って欲しくありません」
「……わかっています。あくまでもこの感情は敵を賞賛し、警戒するためのもの。刃が鈍ることはありません」
「その表情を見るに、あなたも何か思うところがあるようですね。騎士レルゲン」
「はい。私が戦ったパロライトという側近は忠義高く、またマリーの敵と同様に誇りを持っておりました。最後は主君を庇い、重傷を負った隙に最後の一撃を入れることに成功しましたが、そのままでは周囲を巻き込みながら被害が大きくなっていたでしょう」
ここで胸のポケットに入っていたウルカが飛び出し、女王に向けて指を差した。
「でも国の女王よ、レル君はそれでも頑張っていたわ。心の休憩だって必要よ、少し休みを上げて欲しいな?」
胸のポケットから勝手に出て来たウルカを慌てて押さえながら、女王に向けて謝罪を入れる。
「申し訳ございません。彼女は私たちとは違い精霊でございますので、失言としてどうかご容赦ください」
「ウルカ様が仰る通り、あなたがたはまだまだ若く、休息が必要なのも理解しています。心の戦いなのは理解しましたが、それでも相手のことまで思いながら戦っていては、いずれ耐えきれなくなってしまいます。しかし、無理を承知で国を護ってもらわなければならないのも、また事実。今は悪魔や魔王をどうにかしなければ、今まで護ってきた物が無駄になってしまいます。
それだけは避けねばなりません」
再びポケットから上半身だけ出したウルカが少し不満そうな表情をしながらも
「私はずっとレル君の中で見てきたから、レル君が頑張って護ってきたものがなくなってしまうのは我慢できない。はぁ……わかった。今回は私が出血大サービスでレル君に力を沢山貸してあげる! それでレル君が少しでも助かるなら」
レルゲンがウルカの頭を軽く撫でてお礼を言うと、嬉しそうに目を閉じて笑顔になる。
満足したウルカは胸のポケットの中へ戻った。
普段から戦い慣れているからこそ、レルゲンたちは立ち直るのも早かった。
しかし、戦いに慣れていないながらも〈スキル〉とレベルによってどんどんと強くなってしまい、なかなか一人だけでは立ち直れずに迷ってしまう少女がいた。
「フェン君……私、どうしたらいいと思う?」
フェンの頭を撫でながら、召子は頭を預けて横になっていた。
召子は悪魔の侵攻から二日間、フェンと共に食事も取らずに自室に引きこもってしまう。
レルゲンやマリー、セレスティアやハクロウに至るまで、召子を心配して声をかけたが返事はなく、日にちが過ぎるのみだった。
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