143話 悪魔の心
即座にパロライトがレルゲンに再度近づこうとするが、地面が急に上昇を始めて上空に投げ出される。上昇でかかる重力に抗って、空中に飛ぶことで勢いを殺す。
しかし、レルゲンは次の一手を既に準備していた。ウルカと共に繰り出したブルーフレイム・アローズは、百本以上も展開されてパロライトの逃げ場を封じつつ繰り出した。
回避は不可能と判断したパロライトは即座に防御の体勢を取り、大量に迫る火の上位魔術をその身に受ける。
魔力を高めて両腕に力を込め、勢いよく薙ぎ払い――まだ到達していないブルーフレイム・アローズを纏めて破壊する。
しかし、発射地点にレルゲンの姿は既になかった。
――魔力を悟られないように極限まで抑えているのか……!
魔力による感知は、今のレルゲンを捉えるのに時間が掛かりすぎると判断したパロライトは、目視による索敵に頼らざるを得なかった。
しかし、接近してきた微かな殺気をパロライトは察知し、上体を大きく反らす。
音もなく白銀の剣に持ち替えて、魔力を使わない熱の一撃が、パロライトの肩口から侵入して抜けていく。
――これも熱による再生阻害か……!
両断された腕を再生するためには、傷口が一定の温度まで下がらなければ再生ができない。
しかし、パロライトは傷口より更に上部の体組織をもう片腕で引きちぎり、熱せられた部分を捨てる。
するとすぐに新しい腕が戻り、感触を確かめるように握って開く。
この痛みを伴う回復方法は予期していなかったのか、レルゲンは思わず目を見開いた。
レルゲンはすぐに再生阻害による蓄積攻撃を排除して頭を切り替える。
「随分と無茶するな」
「お前と戦うのに片腕では結果が見えているからな」
仕切り直しとなりお互いが見合うが、レルゲンが先に動く。黒龍の剣に持ち替えて、両手で斬りかかる。渾身の一撃をパロライトは完璧に受けたが、レルゲンは黒龍の剣に右手を添えて、全魔力解放による光線攻撃をゼロ距離で放つ。
真紅の光線に飲み込まれたパロライトは、腹に大きく切り傷が刻まれ、黒い鮮血が滴り落ちた。
「本当に技の引き出しが多いな、レルゲン。しかし人間とは脆い生き物だ。悪魔であればそんなもの、傷にすらならないぞ」
「そうだな、確かにお前の言うことは正しい。だが、自分の傷に疎くなるんじゃないか? 今のお前のように」
レルゲンがパロライトに向けて指を差すと、腹に風穴が開いていることに気づいていなかったのか、確認した後にすぐに再生する。
セレスティアはレウロと相対して魔術戦を繰り広げていたが、レウロの魔術には工夫が施される事はなく、ただ自暴自棄に上位魔術を連続で繰り出すのみ。
最初こそ魔術戦に付き合っていたセレスティアだが、次第にこれ以上はないと確認すると、ディスペルによる魔術発動の阻止を入れる。
最初こそ複合魔術を繰り出していたレウロだったが、レルゲンに心を乱されて混乱し、単発の魔術だけに固執する姿を見たセレスティアは、少し悲しい気持ちになる。
――高位の魔術師には変わりないでしょうが、あなたは心が未熟すぎる。
ディスペルによって完全に魔術が封じられたレウロは完全に戦意を喪失し、呆然とその場に立ち尽くしていた。
「殺すなら殺せ、私はもう……」
セレスティアが最後の介錯をするべく巨大なフロストジャベリンを一本だけ生成し、レウロに向かわせる。
正確にレウロの心臓付近に放たれたフロストジャベリンは、咄嗟に庇ったパロライトの胸を貫き、そして止まる。
貫通していれば再生も出来ただろう。
しかし、最低限の一撃を繰り出したセレスティアの魔術は、胸に突き刺さったまま停止したことで、パロライトを苦しめ続けた。
「レウロ様……ご無事でしたか」
パロライトは巨大な氷の槍を引き抜こうとしたが、レルゲンが念動魔術で固定する事でそれを許さない。
「パロライト……」
レウロが忠実な臣下の名を呼び、自らの行動を恥じた。
だが、立ち直るよりも早くレルゲンはウルカの魔力を借りた第二段階の全魔力解放で一撃を放つ。碧い光線はパロライトとレウロ共々巻き込み、大出力の攻撃は二人の再生行動を許す事なく塵へと変えた。
その時のレルゲンは、パロライトとの戦いがあまりにも呆気なく終わってしまったことを惜しむように、空を見上げて小さく息を吐いた。
ゆっくりと地面に降りたレルゲンに、セレスティアが回復魔術をかけて労うが、どこかレルゲンの表情は曇ったままだった。
「お疲れ様でした。やはり私と戦った指揮官よりも側近の方が強かったですね。レルゲンの判断は正しいものでしたよ」
「そうだな。奴は、パロライトは強かった――単純な力もそうだが、心の在り方が、どこか俺たち人間に近かった気がする」
「そうですか……それでもあなたはしっかりと、またこの国を護ってくれました。そんな顔では、戦に負けたと思われてしまいますよ?」
「……戻ろう。俺たちの国へ」
「はい」
近くにはそれぞれ悪魔を撃破したマリーと召子がいたが、どうやら二人にも思うところがあるようで、表情はレルゲンに近いものがあった。
二人の顔を見たセレスティアは、軽く二人の肩に手を置いてからフェンを撫でる。
「二人共、本当にお疲れ様でした。フェン君も」
「ワン!」
騎士団はレルゲンたちが戦っている間に残りの魔物を全て片付け終わり、複数の悪魔を退けた戦果に盛り上がっていた。
「俺たちの勝利だ!」
「「おお!」」
戦場から帰還するレルゲンたちは、騎士団の面々から賞賛を多く受けたが、喜びの感情は湧かなかった。
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