142話 力の近い者
「やはり対軍戦闘に関して君の使う念動魔術は真価を発揮するな。ならば、苦手にしている分野で攻めさせてもらおう。フォールン・ライトニング」
快晴だった空の天気が瞬く間に雲に覆われ、生暖かい不快な風が肌を撫でる。
次第に辺りが暗くなり、ポツポツと雨が降り始め、一気に雨足が強くなる。
雨が地面に落ちる音が響き、すぐに雷が鳴り始めた。
レルゲンは天候操作による悪魔の魔術が効力を発揮する前に、炎剣を構え直して斬りかかろうとする。
だが、雷鳴と共に地鳴りが響くことで、レルゲンの意識は悪魔から近くに落ちた雷へと向けられる。
ここで最初に悪魔が言っていたことを思い出す。
「――苦手にしている分野で」
レルゲンが直感と共に空を見上げると、白く輝く虎の姿をした巨大な雷の集合体が顔を覗かせ、レルゲンとセレスティアに迫っていく。
「俺が軌道を曲げられない雷を使うというわけか」
「その通り。さて、これからどうします?」
――この規模の雷撃は一人では対処できない。
「ウルカ、手伝ってくれ」
「待ってたよ! 精密操作なら任せて!」
レルゲンが意識を集中し、目を閉じる。すると瞬時に水で出来た半円状のドームがレルゲンとセレスティアの周囲を包み込んでいく。
悪魔の上官は高笑いをしながら勝ち誇り、そのまま白く輝く虎を向かわせるべく腕を勢いよく振り下ろした。
「白虎よ、白き雷よ! 奴らを焼き殺してしまえ! フォールン・ライトニング。発動……!」
音よりも早く虎の光がレルゲンたちを襲い、大きく土煙が上がる。
「ハハハハハ!! これで君もお終いだ! 魔王様もさぞお喜びになるだろう!!」
「やはりこの侵攻は魔王復活と関係があるのか」
「なっ……! なぜまだ生きている!」
悪魔の上官は狼狽し、動揺を隠せなかった。
二歩、後退り――仕留めきれなかったレルゲンとセレスティアを見つめる。
「ある水龍が言っていたぞ、雷を完全に断つことのできる水が存在するってな」
「なんだ、それは……そんな水があってたまるか!」
「超純水という名前らしいぞ。何でも不純物が一切ない水は、電気を弾くらしい」
「そんな、馬鹿な……!」
大きく戦意を削がれてしまった悪魔の魔術師は、再び上位魔術の詠唱を始めるが、焦るあまりただの単一の魔術でしかなかった。
「セレス、あの悪魔を頼めるか?」
「お任せ下さい。あの程度ならば問題ありません」
レルゲンがセレスティアに上官の悪魔を任せ、側近との一騎打ちに持ち込むべく足に魔力を集中する。
瞬間的に加速されたレルゲンの上段からの一撃は、側近の悪魔が簡単と言わんばかりに余裕で防ぐ。
悪魔の背後にある地面が衝突で大きく掘られたが、悪魔の表情は涼しいままだった。
「お前、なんでそこまでの力を持っていながら、あんな奴の下についている?」
「レウロ様は私に生きる意味を与えて下さったお方だ。仕えることに実力差など関係ない」
レルゲンは悪魔に主従関係があるとは想像がつかなかったが、改めて誇り高き側近に名を問う。
「そうか、忠義高き悪魔の側近よ。名を名乗れ」
「パロライト」
「パロライト、いい名だ。俺は中央王国の副団長――レルゲン・シュトーゲン。いざ尋常に一騎打ちを所望する」
「あぁ、いつでも」
レルゲンが笑うとパロライトも釣られて口角を少しだけ上げる。真剣勝負が始まると同時にパロライトの片手直剣が黒い魔力を大量に帯び、レルゲンを魔力放出だけで押し込んでいく。
地面に足が突き刺さってからも徐々に押されていくレルゲンを、胸のポケットから顔を覗かせているウルカが心配そうに見つめる。
押し切られそうになったときに、レルゲンもパロライトと同様に魔力を炎剣に流し込み、魔力放出同士で拮抗する。
魔力と剣から発せられる火花が激しく散り、魔力放出による力勝負では互角の戦いを繰り広げていた。二人同時に鍔迫り合いを止め、距離を取り直すとレルゲンがパロライトに問いかける。
「パロライト、お前の階級はどこにある?」
「これから死ぬ奴がそんなことを知ってどうするのか問いたいが、教えてやろう。上から『三番目の階級』だ」
「そこまでの実力がありながら上にまだ二つの階級があるのか」
「絶望したか?」
レルゲンの魔力が際限なく上がってゆき、全身から真紅の魔力が放出される。
「絶望……? 逆に聞くが、どうしてこんなに実力が近い奴と戦う機会に巡り合って絶望するんだ?」
「知れたことを。その私よりも、さらに二つ上の階級が存在するのだぞ――ただ単純に実力が足される訳ではない。今のお前では触れることすらできない領域の上位悪魔が存在すると言っているのだ」
それを聞いてレルゲンは更に歯を見せて笑って見せる。その表情を見たパロライトは一言呟いた。
「――化け物が」
「お前にだけは言われたくないな」
二人が接近して、全身を巨大な魔力で包み込まれているレルゲンの身体強化でパロライトの剣を大きく弾く。
吹き飛ばされながらも空中で踏み留まり、勢いを殺して静止する。レルゲンが構えた炎剣が薄くパロライトの腕を掠めた。
傷ついた腕を即時再生しようとするが、傷口が焼ける事で軽い傷でも再生までに時間がかかる。
「厄介な剣だ」
そこからレルゲンは肉薄し、炎剣による無数の連撃を繰り出して、細かい焼き傷を残しながらパロライトの身体を焼いてゆく。
「くっ……!」
防戦一方のパロライトは何とかレルゲンの炎剣を弾いて体勢を崩す。だが、ここからが念動魔術の真骨頂だった。大きく空いたレルゲンの懐にパロライトが好機と見て距離を詰めるが、瞬間的に魔力を込めた黒龍の剣から、短い光線が発射されて、パロライトを呑み込んだ。
「相変わらず厄介な術だ」
「それが取り柄なんでな」
レルゲンの念動魔術は、剣を入れ替えるだけでなく、できた隙を潰すことも可能にする、剣位一体の攻防。
「これに魔術を更に加えるとどうなると思う?」
「……させん」
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