14話 覚悟の光
「やっちゃって、アシュラ……ちゃ……ん」
そう言い残し、仮面の男は二度と口を開くことはなかった。
主の最後の願いが、アシュラ・ハガマに届いたのか、ただの自暴自棄なのかはわからない。
アシュラ・ハガマの全身が、尻尾があった時よりも強く発光する。
アシュラ・ハガマの全身が超高温を帯び、周辺の大気が焼かれる。
暴風とも呼べる突風が吹き荒れた。
急激に膨れ上がった魔力反応に、全員の動きが一瞬止まる。
怪我人の治療へ向かい、背を向けていたはずの白髪の剣士も思わず振り返る。
「なんだ……こりゃあ」
「ねぇ……これって」
「あぁ、最後の力だろう」
「どうするの?」
不安そうに聞いてくるマリーの髪が揺れる。
レルゲンを試すように、その瞳は揺れていた。
避けることもできる。
だが観客は? 住民はどうなる?
ローラとフランがまだ近くにいないとも限らない。
そんなこと、推測するまでもない。
――大虐殺だ。
レルゲンの瞳に力が宿る。
今までの真剣な顔立ちから、優しく少し微笑む表情へ変わる。
「マリー、少し下がって……俺の後ろへ。……そう、そこでいい」
「どうするつもりだボウズ!」
「アンタもそこから動くな! 俺は今から、この攻撃を受け切る!」
「待って! そんなことできるわけが!」
レルゲンがマリーの前に立ち、アシュラ・ハガマに対峙する。
「マリー、大丈夫だ。俺を信じろ」
レルゲンの決意を感じたのか、マリーはもう何も言わない。
――全魔力解放。
全身から赤い魔力が噴き上がる。
共感覚で赤く見えるのではない。
純粋に魔力濃度が高すぎるために、色が実際に変化する。
大気が震え、周辺の重力が増したように錯覚するような、濃密な魔力が噴き上がる。
五割もの消滅魔術下とは思えないほどの魔力が噴き上がる。
これより先は考えない。
未来のことは考えない。
今この命がけで放たれる灯を、全身全霊をもって相対する。
臨界点を超え、アシュラ・ハガマが放つ閃光は、彼と同じく赤色の光線となって襲いかかる。
全魔力を解放した分を、手と足に集中させる。
手足に集まった赤い魔力が、出口を求めて揺らめいた。
決死の力を振り絞り、少しの無駄も出さないように押し固める。
最後の光線が迫る。
武器は……もういらない。
余計な小細工も……もういらない。
奥歯を噛みしめ、超速度で迫る赤き奔流を、超強化された素手で受け止める。
その手ですら焼け、爛れ、血が噴き出る。
あまりに一瞬の出来事でも、レルゲンにとっては、永遠に思えるような時間が流れていくような気分だった。
しかし、心は折れない。
もう……失うのは嫌だ。
もっと、先に行かなければ、この望みを果たせない気がしたから。
「こんなところで、負けられないんだよ!!」
レルゲンの意志に呼応するように、さらに全身から赤い魔力が噴き出した。
「おおおおおおおおおおおおぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」
限界を超えてなお雄叫びを上げる。
――先へ、もっと先へ。
後半はもう声にならないほど、喉が千切れるほど叫ぶ。その声を聞いたマリーは、魔獣の咆哮を連想した。
素手で受け、握りつぶすように光線を掴む。
質量をもたないはずの魔力の光線。
迸る魔力の本流に、レルゲンの魔力が包み込むように走っていく。
もう力が入らない腕と、踏ん張る足。
それでもアシュラ・ハガマの光線は命を燃やし、放たれ続ける。
お互いに限界は近い。
限界の先で光線を掴む、その感覚。
――捕まえた。
全ての光線の流れを掴みきり、握り締めた光線を、上空へ叩きつけるように両手を振り上げた。
軌道を曲げられた光線が、はるか上空へと突き抜ける。
もうアシュラ・ハガマが光線の軌道を変えることはできない。
レルゲンが空間を念動魔術で固定し、光線の通り道を上空へ作ることで、曲がり続ける現実を引き寄せる。
行き場を変えられた光線は、上空の雲を突き抜け、宇宙空間をしばらく直進したのちに消滅した。
煌びやかな魔力の欠片が降り注ぐ。
レルゲンの周りの地面は、光線の熱で削れて焦げ付いている。
魔力の残滓で赤い炎が上がり、燃やすものを求めて燃え続ける。
アシュラ・ハガマは絶命することと引き換えに、光線を放ち続けて消滅した。
本来なら残るはずの魔石すら存在しなかった。
文字通り燃やし尽くしたのだ。
――レルゲンの背後を除いて。
全身が火傷まみれになりながらも、全てを護り切ったのだ。
もう限界をとっくに超えているレルゲンは、地面へ仰向けに倒れる。
煤だらけになりながらも、マリーが優しく笑いかけながら声をかける。
「ありがとう。私を命がけで護ってくれて」
「無事か……? よかった」
安心したレルゲンはそのまま意識を失い、力が抜けた救世主の頬を、マリーが優しく撫でるのだった。
「頑張ったな、ボウズ。お前は嬢ちゃんの命の恩人だ、感謝するぜ」
その一部始終を見ていた、闘技場の入り口付近から見つめる影が一つ。
「見事だ。強きお人よ。マリー王女をお護りになった件、全霊をもって陛下にお伝えしなければ」
――瞬間、影へ溶けるように消えていった。
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