137話 盗難事件
――四日目。
メテオラを満喫したレルゲンたちは、宿を出て最後のお楽しみスポットである、浮遊魔石を祀っている祠に訪れていた。
「これでメテオラを完全制覇ですね!」
「前見ないと転ぶぞ」
「大丈夫でっ、わぁぷ!」
「言わんこっちゃない」
「えへへ、本当に転んじゃいました」
石畳に躓いて体勢を崩し、ミリィが尻餅をつく。レルゲンが手を貸してミリィが立ち上がると、少し恥ずかしそうに顔を赤くして
「あ、ありがとうございます……」
とお礼をする――しかし周りに人が少ない。
祠に向けて歩いていくと、どうやら人だかりができている。
よく見るとグリフォン隊にいたリーダーが野次馬たちを取り締まっている。
「どうしたんだ?」
「おお! 空飛ぶ方々。実はこの祠には浮遊魔石の一部が祀られているのですが、何者かが錠を破壊して中にある浮遊魔石を持ち出したようなのです」
「盗賊か?」
「恐らくではありますが、イタズラの線は薄いかと。ここにくるまでの飛行船では警告を何度も放送しておりますので」
「そうか」
浮遊魔石が発している特殊な魔力は既に覚えている。魔力感知範囲を全開にするが、レルゲンの範囲には反応がない。
セレスティアを見たが、こちらも反応が無いと首を横に振る。
「今離陸しようとしている飛行船は止めたのか?」
「はい。発覚してからはこの通信機ですぐに飛行船を飛ばさないように指示を出しておりまして、賊が逃げるのにも足がありません」
「なら、飛行船で待っている人たちに荷物検査をすればいいんじゃないか?」
「しかし、賊がもし上位魔術のハイド・スペリアによる隠蔽魔術の使い手の場合は、そのまま持ち物検査を通過してしまう恐れがあります。恥ずかしい話、我々ではこの隠蔽魔術を看破する手立てがなく、何か見破る方法はありますでしょうか?」
「例えば魔族が紛れ込んでいて、その魔族が持ち出しているのなら、隠蔽魔術を看破できる方法はある。だが、浮遊魔石に直接隠蔽魔術がかけられている場合は発見が難しいだろう。それでもよければだが、協力が必要だろうか?」
「ありがたい申し出、感謝致します」
観光を切り上げたレルゲンたちは、中央の島にある飛行船の発着場に戻り、魔族が紛れ込んでいないか確認する。
セレスティアが温度探知を片目のみで行い、魔族が紛れ込んでいないか確認したが、反応は無く賊の発見には至らなかった。
「すまない。こちらでも確認はしたが、やはり魔族どころか魔術師すらいなかった。隠蔽魔術の線は消してしまってもいいかもしれないな」
「わかりました。それなら捜査も進めやすくなります。ありがとうございました」
「いいんだ。俺たちはこれでもう帰るつもりだが、また縁があればここに来させてもらうよ」
「代表に変わり私からご挨拶を。またのお越しをお待ちしております」
軽く手を振り、その場を後にするレルゲンたち。グリフォン隊のリーダーと離れてから、レルゲンがセレスティアに問う。
「それで、実際のところはどうなんだ?」
「はい。巧妙に隠してはいましたが、間違いなくアッシュと名乗った悪魔と同種の魔力残滓が確認できました」
「アッシュとはまた別の悪魔か……奴らは一体何のために浮遊魔石を盗んだんだろうな?」
「わかりませんが、ろくでもないことに利用しようとしていることは確かですね」
「そうだな、一応ここの長のスカイだけには報告を入れておこう。俺たちですら手を焼く相手だ――ここの衛兵が下手に手を出せば大量に死人が出てしまう」
全員が頷き、スカイの部屋を訪れて説明すると
「ご報告とお気遣いをありがとうございます。
そうですか、悪魔による転移で既にその場からは消えてしまっていると……」
「このことは俺たちの女王陛下にも報告はさせてもらう。出過ぎた進言かもしれないが、メテオラの警備をもう少し上げる必要があるとだけ言わせてくれ。悪魔が好き勝手に動くようになると、どうしても対処が遅れてしまう」
「ご忠告ありがとうございます。しかし、あなた方は一体……」
「中央王国の王女様がお忍びで旅行だ」
「なるほど、皆さんお強いわけです。中央王国にはクラウドホルス討伐の感謝状を送らせて頂きます。また是非メテオラにいらして下さい。お待ちしております」
それからレルゲンたちは予定より少し早く中央王国へ帰還し、しばらくは平穏な日常が戻るかに思われた。
「女王陛下、緊急のご報告がございます」
影の一人が女王に向けて額に汗を滲ませながら火急の報告を入れ、悪魔たちの暗躍が、再び幕を開けようとしていた。
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