134話 お助け隊、劇団を救う
一通り景色や歴史、出店などを楽しんだレルゲンたちは、一度荷物を置くために宿を探していた。
丁度よく大人数で泊まれそうな宿を見つけて入ると、客と見られる二人の男女が、焦りの表情を浮かべながら話し合っている。
「これじゃあ公演に間に合わないよ!」
「仕方ないだろう! 六段階目なんて出てきてしまっては、飛行船だって止まるさ」
「でも中止にするわけにも行かないし、何かいい方法はないか……」
「もう規模を縮小してやるしかないんじゃないか?」
「ダメよ、ようやくここまでのし上がったんだから、今日の演目は全部やり切らなきゃ」
そんな話を聞きながらも、レルゲンたちは通された部屋に持参してきたものと、新しく増えた荷物を置いて一息つく。
下で話を聞いていたマリーが、レルゲンに小声で話しかける。
「ねぇレルゲン。さっきの人たちって」
「多分劇団のメンバーじゃないか? クラウドホルスのせいで何かあったようだけど」
「私一度生で見てみたかったよ! 行ってみない?」
「そうだな、折角だし見に行くか」
「さっきの劇団の人たち。何か困っていたようですけど、大丈夫でしょうか?」
ミリィがレルゲンを見つめながら心配そうな表情を浮かべる。
「わかった……話だけでも聞いてみよう」
そうして劇団と思われる人たちに話を聞いてみると、劇団員の女性が申し訳なさそうに説明する。
「すみません。本来はこういった話は周りに人がいない所でするものなのですが、私たちも焦っておりまして……」
「俺たちとは別行動でメテオラへ来るはずだったメンバーが、六段階目の魔物が現れたせいで到着が間に合わなさそうなんだ」
「そこで代役を探してくるか、規模を縮小するかで彼と話していたのですが、どちらも引くに引けず……」
レルゲンは話を聞き終えて、自分たちも劇団の演目を楽しみにしている旨を伝えると
「ありがとうございます。ほら、やっぱり規模の縮小なんてやっぱりダメよ! 何とかして代役を立てないと」
「でも代役って言ってもそんな都合のいい人材なんてどこにいるんだよ? ジャグリングだけでもできれば繋ぎにはなるだろうけど」
ここで、レルゲンが話に割って入る。
それくらいなら力になれそうだ。
「ジャグリングができればいいのか?」
――瞬間、劇団員の目の色が変わり、レルゲンの手を取る。
「できるのか?」
「そうだな、『手を全く使わない』ジャグリングくらいなら、こんなふうに」
袋から十枚以上のコインを空中へ放ると、規則正しく円を描きながら身体の周りを回る。それを見た劇団員がレルゲンに向けて
「頼む、君の力を貸してくれ!」と懇願する。
「それはいいけど、もう一人、似たようなことができる人がいる。人員を増やしてもいいか?」
「構いません! 是非よろしくお願いします!」
劇団の演目は全くの素人だが、念動魔術を使ったトリック程度のことなら朝飯前だ。
もう念動魔術を隠して生きる必要もない。これくらいなら助けてあげたいとレルゲンは思った。
マリーに参加をお願いすると、少し考える素振りを見せて
「その演目、やるのは構わないけど、それまでの間は裏方から間近で見られるってこと?」
「それはもう! 特等席で案内するよ!」
「なら出るわ! でも私は魔力糸を使ったやり方しかできないわ。レルゲンみたいに魔力糸無しでの操作は無理よ?」
「大丈夫だ。魔力糸の細さだけで言ったら俺とマリーはもう遜色ない。暗い壇上に上がってしまえば見えなくなるはずだ。精密操作するとしたら、最大で何本の魔力糸を出せる?」
「そうね――ジャグリングくらいの難易度なら、十本程度なら余裕だと思う」
「ほほう? さては俺が知らない所で結構練習してたな?」
「あっ、気づいた? いつかは魔力糸なしで操作できるようになるまで練習は続けるつもりよ」
レルゲンが頷き、皆にはレルゲンとマリーは急遽劇団を見られなくなったと伝えて楽屋に入る。中には劇団の支配人と思われる強面の男性が待ち構えていた。
「兄ちゃんがアイツらの言っていた手を使わないジャグリングができるって人かい?」
「そうだ。一日だけにはなるがよろしく頼む」
強面の表情がニッと笑顔に変化し、マリーの方を見る。
「嬢ちゃんもできるって聞いてるが、本当にできんのか?」
「重さや形にもよるけど、十個程度なら問題なく可能よ」
「そうかそうか! 十個程度ならか! いやぁ心強い! 一度俺の前で見せてくれよ。道具は適当に貸すからよ」
二人が強面の支配人に念動魔術を使ったトリックを披露すると、ガッチリと握手を交わし
「後半の演目を任せたい。頼んだぜ!」
と残して安心した様子の支配人がその場を後にした。一発で認められた二人を見た他の劇団員が感嘆の声を上げ「何者?」と零す者もいた。
しばらくして宿屋であった二人組が姿を見せ、改めてお礼を言われる。
「できる限りはやらせてもらうよ、俺も彼女も。あと、貸してもらいたい物があるんだがあのメンバーが顔につけているやつ。予備はあるか?」
「あぁ、アレなら沢山予備があるぜ。少し待ってな。今持ってくる」
劇団が開演する時刻になり、照明が消されると観客が歓声と拍手を送る。
「お待たせ致しました、紳士淑女の皆様方。本日はお集まり頂きありがとうございます。それでは堅苦しい挨拶は抜きに、どうぞお楽しみください。まずは……」
と司会が劇団の進行を進めてゆく。
出番が来るまで特等席で見られるマリーは、興奮の余り少し飛び跳ねていた。
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