129話 勇者として
「戦いを始める前に、お前に聞いておかねばならないことがある」
召子は悪魔を正面に捉え、見つめ返す。
「なんですか?」
「お前はこれからどうなるか、本当にわかっているのか?」
「魔王が復活して大勢の人を殺しに来るんでしょう」
「違うな、やはりお前はわかっていない。『お前が召喚されたせい』で魔王様が復活するのだ。魔王様が復活なされるのは勇者のおかげなのだよ」
悪魔が両手の拳に魔力を込めて、召子に向けて突きを繰り出す。
虚空に繰り出された突きは一つの衝撃波となって、召子の胸へ一直線に向かってくる。
即座に聖剣を構えて悪魔の突きを防御すると、見えない衝撃が召子の全身を激しく軋ませた。
「驚いた――今のをよく防いだ」
「私もです」
「まぁいい。なら、これならどうだ?」
今度は連続して突きを繰り出し、手数を増やした攻撃に切り替える。
咄嗟に召子も聖剣を盾にして、衝撃に耐える。しかし、少しずつ地面を削って後退する。
悪魔は更に召子を追い詰めようと、遠距離の突き技を繰り出しながら口を開く。
「勇者が発生するのは、本来世界が混沌に陥れられてから。だが、今回はどうだ? そこの男のような異分子が現れ、勇者召喚に引っ張られるように世界のバランスが崩れ、俺たち悪魔も復活する」
召子が話を遮ろうと悪魔に接近戦を仕掛けるが、これをいなしながらも話す口は止まらない。
「親が、子供が殺されていく中で人間たちが知ったらどう思うだろうな? 俺たち悪魔を恨むか? いや、違うな。人間たちの心は弱い。より身近なお前を憎み、俺たち悪魔は手を下すこともなく、勇者であるお前は責任を取らされる。弱き者を救うために戦っていたはずのお前は、弱き者たちに殺されるのだよ。勇者!!」
「私のせいで……」
ここでレルゲンが攻めあぐねている召子に加勢しに行こうと一歩前に出るが、マリーが手で静止する。
「待ってレルゲン。もう少しだけ」
召子は悪魔の腕を弾き、魔力を拳で固めて飛ばす一撃を上体を逸らしながら躱し、また聖剣で斬り込む。
悪魔は硬い腕を利用して剣を弾き、弾き損ねて腕が裂けると瞬時に腕がくっ付いて再生する。
そして召子に向け、魔力のこもった一撃を放つ。両者一歩も譲らない状態が続いていた。
召子は攻撃の手を緩めることなく、悪魔に向かって高らかに宣言する。
「私はここまで苦しい思いをして、なんで勇者をやっているかはわからなかった! でも、今は向こうで私の勝利を信じてくれる人がいる。元の世界で私を待ってくれる人たちがいる」
聖剣が弾けるような光を発しながら、召子の気持ちの変化に反応を見せる。
「私のせいで、これからあなたたちに殺される人もきっと沢山いる。でもそれは私が先だとか、魔王の復活が先だとかは、多分関係ない。今、幸せに暮らしている人たちの未来を、平気で奪ってしまうあなたたちを止める気持ちこそが、勇者である私に期待されていることだと思うから。だから私はあなたを止めるよ。どれだけ戦う相手が強かったとしても」
召子の思考に引っ張られるように、聖剣が白く温かみのある光を放つと、それまで悪魔が防げていた斬撃を完全には防げなくなり、悪魔が一度退く。
――聞いていた話とは全くの別人だな。
悪魔の頬を汗が伝っていく。
――自分の世界に帰ることしか頭にない勝手な人物だと聞いていたが、魂が――いや、心がこの短期間で随分と成長している。
召子は徐々に身体が軽くなっていくような不思議な感覚になりながらも、少しずつではあるが悪魔を押している実感があった。
――私が負けてもまだレルゲンさんが、皆さんがいる! ここは守りよりももっと攻める!!
読んで下さってありがとうございます!
もし続きが気になりましたら、ブックマーク、評価をお願いします!
ぜひ皆さんで作品を盛り上げて下さいね!
よろしくお願いしますー!




