128話 矢を受け止めし悪魔
マリーたちと合流するために人形兵隊部隊が進軍を続けている地点へ、念動魔術で飛んでいく。
その飛んでいく姿を森の影から見つめる者が一人、青い光を発しながら消えてゆく。
「まったく……ヨルダルクの――いや、俺たちの苦労が全部水の泡じゃねぇか。やってくれたな」
◇◇◇◇
「みんな待たせたな」
「レルゲン、お疲れ様! うまく行ったようで何よりだわ」
「あぁ、これから殲滅戦に入ろう。まず余った光の矢を人形生産の施設に打ち込んで、これ以上出てこないようにする。一旦全員を空に飛ばすが構わないか?」
「ええ、構いません。フェン君は召子を抱えて天歩の加護でレルゲンについてくるでしょう」
フェンの上には既に召子が乗っており、いつでも行けると目でレルゲンに訴えかけている。
レルゲンが頷き、全員で光の矢に影響されない上空へ消える。
ディシアを除く全員がレルゲンの用意する光の矢を初めて目にし、超巨大な螺旋剣とも言える鉄の塊が高速回転を始めるのを見て息を呑む。
「これが最後の一撃だ。ヨルダルクの技術よ、永遠に眠るがいい」
右手を更に上空へ掲げる。
振り下ろされたと同時に、光の矢は音速を超えて研究施設に突っ込んでいく。
間違いなく研究施設を全て破壊し、巨大なクレーターが形成される――はずだった。
「魔力解放。反魔術、アル・レベス」
音速を超える光の矢の着弾位置へ正確に回り込み、片手で受け止める影が一人。
足元が僅かに抉れる。威力が減衰されたことは明らかだった。
――今の一撃を、受け止められる奴がヨルダルクにいるのか……!
レルゲンたちがゆっくりと地上に降りてくるのを、男はじっと見つめて声をかけてくる。
「これを撃ち込んだのは君か?」
「――そうだ」
「素晴らしい一撃だった。完全に相殺したつもりだったが施設がこの有様だ。もうここも放棄する他ないだろう」
「施設は全て潰させてもらった。ヨルダルクにもう未来はないぞ」
「らしいな。だが、お前の横にいる白髪の女は元はヨルダルクの要人だろう? 聞いたことはないか? 悪魔という存在を」
瞬間、全員が戦慄する……悪魔とは勇者が召喚されたら……否、魔王が復活したときに活動を再開する種族。
つまり、既に魔王はずっと前から復活していた……とでもいうのか。
ここまで全員が思考を巡らせていると、悪魔の話を始めた男が魔力を解放しながら首を振る。
「いや、魔王様はまだお目覚めにはなっていない。覚醒まで秒読みなのは確かだが、それも全てヨルダルクの間抜けが、勝手に勇者を召喚しやがったせいで完全覚醒までの時期がズレてな。そこの聖剣を持っている女、お前が勇者なんだろうが、わからんな? どうして勇者よりも強い奴が自由に空を飛び、かつこんな地形を変える一撃を放てる? ――お前は一体、何者だ?」
レルゲンはこれに正直に答える。
「純精霊と契約した、ただの人間だ」
「馬鹿な、たかだか精霊と契約したくらいでそこまで強くなれる人間が存在するなど、ありはしない」
「それこそ俺の知ったことか。お前は悪魔なんだろう? ならさっさと始めよう」
「そうだな。お喋りもこの辺りにして、『発展途上』の内にお前は潰させてもらう」
お互いに魔力を高め合い、戦闘が始まろうとしたとき、レルゲンと悪魔との間に割って入ったのは召子とフェンだった。
「勇者、何のつもりだ?」
悪魔の問いには答えず、背を向けてレルゲンを見る召子。
「レルゲンさん。ここは私にやらせて下さい」
「いくら朱雀で自信をつけたからといって、アイツと戦うのはまだ早いんじゃないか?」
レルゲンが見立てでは、朱雀で更にレベルが上がっているとはいえ、恐らく召子とフェンのレベルは150程度だろう。
光の矢を受け止めたこの悪魔はレベルに換算すると300はあるはずだ。
単純計算でも、今の召子の倍はあるであろうこの悪魔を単騎では討ち取れないと考え、レルゲンは召子に待ったをかけた。
悪魔の男が無言で、腕を伸ばし一本の棘を召子に向けて放つ。
「やぁあ!」
無言で放たれた一撃は、召子に真っ直ぐ進んでいくが、それをしっかりと目で追っていた召子は聖剣を正確に軌道上に走らせて弾いてみせる。
「……!」
避けるではなく弾いたことに多少驚きつつも、悪魔は狙いをレルゲンから召子に移す。
「いいだろう。女、まずお前から消してやる」
悪魔の殺気が完全に召子へ向いたことを感じ取ったレルゲンは瞳を一度閉じ、息を吐き出してから召子の目を真っ直ぐに見つめ返す。
「わかった。あの悪魔は君に任せる」
召子が悪魔に向き直り、魔力ではない『何か』を発し始めると、悪魔は口角を上げて召子に言葉をかける。
「やはりお前は勇者だ、間違いない! その力、私に見せてみるがいい!」
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