125話 最悪の兵器群
「それでディシア、今日はヨルダルクの武力についてまとめ終わったと聞いて来たんだが」
ディシアの目にはカノンと同様に若干のクマが浮かび上がっていた。
「ええ、先日侵攻の可能性があるとわかりましたので、急遽まとめました。資料を作成したので、そちらも確認しながらお話します」
見たところ、ヨルダルクが研究していた内容と、それをどのように軍事転用しているかがまとめられていた。
「……!! これ、書いてあることは全て事実なのか?」
「はい、全て事実です。今までひた隠しにされてきた研究や、戦争に人道を説くつもりはありませんが、どれも殲滅力に特化した兵器となっています」
資料には、テクトと似た人工の人形兵隊部隊の製造や、魔剣の大量生産方法の確立。農作物を集中して食い荒らす昆虫の増産。果ては疫病を人為的に発生させるための疫病兵器など、殺人を目的にした兵器が多く列挙されている。
中でもレルゲンが気になったのは、『光の矢』と呼ばれる兵器で、これをディシアに確認すると
「その兵器が一番研究に躍起になっていました。言ってしまえば国境を越えて放てる核撃です。超射程の核撃とでもいうのでしょうか。一度発射されてしまえばどれだけ離れていようが、着弾した地点は焦土と化す。ですが、光の矢はヨルダルク国内でも使用を禁じる声が強く、実戦投入された例はありません」
「そんなものが、もしこの国に撃ち込まれでもしたら……!」
「今やあなたは国家戦力です。ヨルダルクがそこまで勇者とあなたに拘るかはわかりませんが、今後絶対に使わないとも限らないでしょう」
レルゲンがいくら強くても、一度に国を焦土に変えることはできない。それはウルカと正式に契約していても変わらない事実だ。
話を静かに聞いていたマリーが、ここで口を開く。
「相手からの攻撃を待っていては、まず手遅れになるわ」
これには周りも同じ意見なのか、皆が頷いている。王国にはヨルダルクと同じだけの兵力は持っていない。
そのため、どちらにせよ対処が遅くなると、相手の要求を呑み続けなくてはならなくなる。
最終的には破滅が待っていることは疑いようのない事実だった。
「やっぱりここは俺たちで秘密裏に潜入してヨルダルクの研究施設を全て破壊して、敵が攻め込んでくる前に叩いてしまった方がいいな。恐らく黒龍の剣を対策しているだろうから、ドライドに朱雀からできた剣をさっき発注したところだ。七日で完成するらしいから、作戦はそれからだな。影の立役者のフェンにも贈り物があるから、それも楽しみにしていてくれ」
召子がレルゲンの贈り物に対し、フェンの代わりにお礼を言った。
「ありがとうございます。ほら、フェン君も」
そう言われたフェンは、レルゲンに頭を下げたように見えた。
これには皆が驚き、あれだけ嫌われていたレルゲンが試しにフェンに手を伸ばす。
尻尾は振らないが、黙ってレルゲンの手を受け入れている。
「「おぉ!」」
レルゲンがフェンに認められた瞬間を見て、マリーたちはフェンの身体を一斉にわしゃわしゃと撫でていた。
残り七日の期間で何をするかが重要になってくる。しかし、下手に監視の目を強化させるとかえって作戦実行の障害になり得るだろう。
王国内で目立った行動はできない。
ヨルダルクが持っている兵器の光の矢は、もしかすると……いずれにしても監視の目が届かない、誰にも迷惑の掛からない場所での鍛錬が必要になる。
この切り札が必要にならないことを祈りつつ、レルゲンは再度深域に足を運ぶ必要があった。
「ディシア、主要な研究所の地図は作れるか?」
「私の知っている兵器であれば、施設の位置は全て把握しています。そちらの地図も、七日以内に作ってみせますのでご安心ください」
「負担を掛ける」
「いえ、私は直接戦闘に参加できませんので、ここが私の戦場になります。私を拾って下さった皆様には多大な恩がありますので、全力で取り掛からせて頂きます」
「カノンも無理をしない範囲でディシアを手伝ってほしい」
「助手くんの頼みとあれば頑張らせてもらうよ。こっちはこっちでやっておくから安心してくれたまえ」
レルゲンが頷き、マリーとセレスティアを見つめる。
「私たちは地図ができるまで修行ね!」
「召子はどうする? 君がいてくれると助かるのは変わらないが、相手の狙いも君だ。どうするかは君自身で決めてほしい」
「私は……」
召子が下を向いて一度考えるが、答えはもう出ていた。
「私は、戦いたいです。折角ここまで皆さんと頑張ってきましたし、相手の狙いが私にあるのなら、私がここに残ると国の皆さんが余計に危険になるかもしれない。あえて敵陣に突っ込むことで、動揺を誘えるかもしれませんし」
聞かなくてもわかっていたつもりだったが、召子の意思の強さにはレルゲンも頼もしさを感じていた。
「わかった。一緒に戦おう」
方針が決まったところで女王陛下に進撃の許可をもらうべく、全員で女王の私室の扉を軽く叩く。
女王は最初こそ何事かと思ったが、話を聞いて資料に目を通した。そして、国の未来を考え既に行動を始めている若き強者たちを前にしては、止める理由などなかった
「――許可しましょう。しかし、この作戦を以ってヨルダルクからの技術支援は永遠に受けられなくなるでしょう。外交に関しては私に任せて、あなた方はできることを成し遂げてください」
「「はい!」」
ヨルダルクとの決戦が、間近に迫っていた。
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