119話 深域の自然発生したダンジョン?
迷わず「はい」を選択すると、赤い召喚陣が空中に現れ、そこから姿を見せたのは一匹の白い犬のような小さな生き物だった。
「なんか可愛い動物が出てきたな」
とレルゲンが呟くのはスルーして、女性陣たちが盛り上がる。
「「きゃー! かわいいー!」」
まだよく分からない生き物をマリーとセレスティアがわしゃわしゃと撫でると、動物は最初怯えた反応を見せたが、マリーたちに敵意が無いことが分かるとゴロゴロと声を出して甘えているようだった。
ひとまず戦闘になることはなかった。持ってきた黒龍の剣は鞘に納めて召子に確認する。
「どんな生き物かわかるか?」
「今プロパティを開きますね。うーん、フェンリル……フェンリル!?」
召子が驚きの余り声を上げたが、それを聞いていた二人の手まで止まり、本当にフェンリルなの? といった表情を向けるが「ワン!」と元気な返事をするだけで、見た目は本当に愛くるしいただの犬だった。
フェンリルの存在を知っていた召子は恐る恐る手を伸ばすが、人懐っこいらしくすぐに召子の手の匂いを嗅いで、尻尾を振るのだった。
レルゲンもフワフワの毛並みを触ってみたくなったのか、召子と同じように手を伸ばす。
レルゲンだけには歯茎を見せて精一杯威嚇するのだった。
これを受けてレルゲンは若干落ち込んだが、態度には出さずに手を引っ込めた。
「レルゲン、早速嫌われたわね」
マリーが笑いながらレルゲンをからかう。
レルゲンはちょっとバツの悪そうな表情になり
「好き嫌いなんてそんなものだ。こんなこともある」
召子がフェンリルを抱いて話しかける。
「お前は一体どこから来たの?」
「クゥン?」
召子の問いに『なんて言ってるの?』といった具合に首を少し傾げ、知能の高さが見て取れた。
「それにしても名前がないと可哀そうだよね。シロ……は安直すぎるか。うーん。フェンリルだからフェン君はどう?」
「クゥン?」
「君の名前はフェン君だ、フェン君!」
呼びかけるとフェンが大きな声で「ワン!」と鳴いて、自身の名前を自覚する。
すると、パーティメンバーの一覧に〈フェン〉が追加されて、レベルまで表示される。
表示レベルは40。
召子と同じレベルで驚きはしたが、その見た目で同レベルとは、やはり伝説の狼だけあると納得する。
フェンは召子の肩に乗ると顔を召子に頬擦りし、親愛の情を示した。
それを見たセレスティアがレルゲンに
「ちょっと羨ましそうですね」
と言うが、レルゲンは否定しながらも
「俺にはウルカがいるからいいさ、な?」
「そうね! 私がいればもう小さいのは要らないのよ!」
小さいながらも胸を張るウルカに、二人は笑う。何事も無かったため、そのまま深域の探索に出ることになったが、今日も深域は普段より魔物の量が少ない気がした。
マリーが前を歩きながらレルゲンたちに声をかける。
「昨日はたまたまかと思ってたけど、やけに魔物の量が少なくない?」
「そうだな。水龍にも確認したが、理由はわからないそうだ」
「魔王のこともあるし、何か影響しているのかしら」
「可能性はあるだろうけど、今はなるべく奥まで行って、帰りは俺の魔術で帰ればいいさ。
転移魔法陣の印も既に打ってきてるし、迷う心配もない」
そこから召子のレベルが60に上がるまで、深域でなんとか見つけた魔物を倒し続けると、フェンにある変化が起きていた。
「レルゲンさん。フェン君、なんか大きくなっていませんか? レベルも55まで上がっていますし」
「確かに小型から中型になったって感じだな。レベルが100になればもっとデカくなるんじゃないか?」
「フェン君、大きくなっちゃうの?」
「ワンッ!」
フェンの声の圧が若干上がっているのを肌で感じながら、元々戦力補強のために召喚したとはいえ、可愛いワンコ形態はすぐに終わってしまいそうだと、召子は相反する気持ちに悩んでいた。
「多分だけど、大きいからこその可愛さもきっとあるさ」
とレルゲンがフォローを入れると、召子はお礼を返して、目標だったレベル100を目指して強くなろうと決心する。
しかし深域というのに効率が悪い。一度探索を開始してから魔物に遭遇するまでかなりの時間がかかっている。
これにはマリーが文句を言い始め、セレスティアも少しモヤモヤしているようだ。
「全然いないじゃない! これならダンジョンの方が効率が良くない?」
「そうですね。しかしここからの高難易度ダンジョンともなると一番近くて二つ隣にある国のアレクサントライトですから仕方ありませんね」
「なぁ、やっぱり深域なのに魔物が少ないのってなんか変じゃないか?」
レルゲンが周りに確認を入れると、マリーとセレスティアが頷く。
「前にもフィルメルクのダンジョン付近であったけど、これってもしかして」
セレスティアがレルゲンの考えを察したように答える。
「付近にダンジョンが新しくできた?」
「可能性はあると思う。ちょっと探しながら進んでみよう」
しばらく進んでいると深域であるのにも関わらず、周囲の魔力が綺麗に無くなっている場所に辿り着く。これは本格的にダンジョンが近いことを示していた。
まず気づいたのはフェンだった。
急に「ウゥゥ……」と鳴き始め、どこか威嚇するような声で唸る。
すると少し開けた、不自然なまでに綺麗な円形の遺跡跡のような場所が見えた。
下には赤い魔法陣が光り輝いており、踏めば恐らくダンジョンに飛ばされるであろうことが容易に想像できた。
「召子、これは転移の魔法陣だ。うっかり踏んだり触らないようにしてくれ」
「わ、わかりました。言われなければ触っていたかも……」
「さて、一旦帰るか。恐らくテクトが作った物ではなくて自然発生した物だと思う。ここまで来られるとも思わないしな」
「ねぇレルゲン、挑戦したい!」
マリーが見たことないものに目を輝かせていると、セレスティアは反対のようだ。
「挑戦するのは私も賛成ですが、一度国を空ける旨を伝えた方がいいと思います」
召子はというと「私は皆さんにお任せします」と一歩引いた立場だ。最終的にはレルゲンが決める空気になったが、どこに飛ばされるかわかったものではない――
「一旦戻ろう。ここにも印を置いておくから、すぐにまた来れるさ」
「わかったわ、早くお母様に許可をもらいに行きましょう!」
レルゲンが遺跡の近くに印を置いて、この日は一旦帰還することに。水龍にも一応ダンジョンがあった旨を説明しておき、中央王国に帰る。
だが、ここで一度躓くことになる。
あっさり許可が降りるかと思いきや、女王は難色を示していた。
「ギルド未登録の、恐らく高難易度よりも遥かに危険なダンジョンであるでしょう。いくらあなた方が強くなったといっても、すぐに許可は出せません」
慎重な判断。魔法陣も青ではなく赤い、恐らく特別な六段階目は覚悟しておいた方がいいと、素人目にも明らかだ。
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