115話 〈オープン・プロパティ〉
「魔王が復活するならレルゲンはともかく、召子や私たちも強くならなきゃ駄目なんじゃない?」
そう切り出したのはマリーだった。
最近はこうして、植物園、もとい薬学研究所でお茶を飲みながらのんびり話し合うのがお決まりの流れだ。
今回はその和やかな雰囲気を満喫しながら、今後の対策を話し合う。
「そうですね。レルゲンには新しく純精霊のウルカ様もついていますし、私たちの成長が急務かと思います」
セレスティアもマリーに賛成して、紅茶を一口飲みながら風味を楽しんでいる。横ではウルカが小さい身体でクッキーをかじり、小さなカップを傾けながらこちらも楽しんでいた。
「私とカノンは非戦闘員としてカウントして下さるとありがたいです。戦場に赴くとこの前のようにずっとレルゲンの側にいないといけませんので」
「無理する必要はないよ。それはみんなもわかってるはずだ。カノンとディシアはやれることをやってほしい」
ハクロウはまだ腕の調子が完璧でないと言うことで戦線に復帰は難しいが、騎士団長としての役割もあるため、暫定的にこちらも後方支援に回ることになる。
残るは召子とミリィだが、召子は前線に行くとして、ミリィはどうするのか全員が気になっていた。
「ミリィはどうする? 君なら高難度ダンジョンの攻略経験もあるし、俺は問題ないと思うが」
「えへへ、ありがとうございます。でも……私は魔術が今は使えないんです……」
「そうなのか?」
「私が一度テクトの魔物に囚われてから、強制的にマインドダウンになりました。それでも無理矢理、魔物の魔術行使に核を使われていたみたいで、未だにその機能が戻らないみたいなんです……すみません」
「そうか……確かにあの戦いではミリィがモンストルム・ファブリカの機動に大きく関わっていたからな――わかった」
机の上にあったチェスの駒を自身たちに見立てて、マリーが配置を変えてゆく。
「となると、レルゲン、私、セレス姉様、召子が前線で、カノン、ディシア、ミリィ、ハクロウ先生は後方ってことね。綺麗に別れたわね」
「そうだな、でもやっぱり大規模パーティとまでは行かなくても、俺たちについて来られるような手練れがあと一人か二人は欲しいところだ」
「ギルド長のクーゲル様に聞いてみますか?」
「ああ、それも必要だろうな。カイニル辺りなら喜んで次の戦場に飛び込んでいきそうだが、もう奴はいないし」
「騎士団からもまだ成長途中の方々ばかりですから、身内から立てるのも中々難しいですね」
ここで、マリーが閃いたような仕草を取り
「なら、仲間を募ってみたらどうかしら?」
「公募か、自分たちで探しに行くより、たくさん応募が来るかもしれない。条件は……そうだな。みんなはどんな人材がいてほしい?」
まずマリーが手を上げて「心が強い人!」と候補を上げる。
――なるほど、確かにこれから先、間違いなく修羅場がやってくる。逆境でも心が折れない人材はこちらとしても心強い。
中庭でレルゲンとした修行が、未だに考えの底に根付いている証拠だ。
「そうだな、とりあえず色々案を出し合ってみようか。ミリィの時にも思ったが、罠や絡め手を未然に防げる何かを持っている人物がいいな」
ここでセレスティアも手を上げ
「私は悪魔に詳しい人物がいいと思います。恐らくヨルダルクの人物でしょうけど、中には志が高い人物もきっといるはずです。公募とは少し逸れますが、私は悪魔に精通している人物がよろしいかと」
レルゲンがセレスティアの話を聞いて
「確かに……」
と零し、確かに敵に詳しい人物がいれば、間違いなくこちらにとって切り札になり得る。
「ディシアは悪魔について詳しい知り合いはいるか?」
「研究している人物は何名か知っていますが、皆さんのように協調性のある人物ではありませんので、バランスを崩すことによるデメリットの方が大きいかと思います」
「そうか。セレスも案出しありがとう。詳しい人物はまたいい機会があったら同行をお願いしてみよう」
セレスティアが頷いて、この案は一旦頭の隅にでも置いておく。
ここで召子が小さく手を上げると、全員が彼女を優しく見て、目線で促す。
「あの、手練れが欲しいということであれば、私の持っている〈魔物召喚 優先度:高〉があるのですが、これって使えたりしませんかね?」
「「「魔物召喚!?」」」
全員が思わず驚きの声を上げる。
確認するようにレルゲンが召子に尋ねる。
「それってもう試したりしたか?」
「いえ、魔物は王国周りの三段階目? を倒したときに見たくらいで、実際にはほとんど……」
「つまり、テイムする儀式がまた必要かどうかもわからないってことか」
「すみません」
「いや、いいんだ。それでも魔術が一切使えないはずなのに召喚魔術だけは例外的に使えるとは、やっぱり勇者っていうのは規格外だな。俺たちもいる。誰にも迷惑のかからないところで試してみよう」
「それなんですけど、他のスキルは文字が光って見えるんです。でも〈魔物召喚〉だけは光っていないんですよね。横に『レベル未達のため、現在は使用不可』と小さく書いていて……恐らくですが、今後使える〈スキル〉なのは間違いないけれど、今は使えないってことではないでしょうか?」
「その〈スキル〉の一覧って俺たちに見せられるか?」
間違いなく持っているスキルを全てさらけ出すのは、自分の弱点を晒すのと同じ。言わば自殺行為そのものだった。
しかし、このレルゲンたちならきっと悪いようにはしないと信じたい気持ちも、召子の中にあった。
「〈オープン・プロパティ〉」
召子がそう呟くと、全員が青い画面のような物が空中に浮かび上がるのを確認し、驚きの声を上げる。
「見てもいいか?」
召子が頷くと、全員が画面の向こう側の文字を読み込んでいく。召子の持っていたスキルは
〈勇者〉〈悪属性特効〉〈毒耐性:中〉〈魔物召喚 優先度:高〉〈能力上昇率up〉〈能力上限突破〉〈鑑定スキル:下〉〈動物との会話〉〈身体能力上昇:中〉〈飛翔〉〈スキル数上限無し〉
で言葉通り〈魔物召喚 優先度:高〉はグレーアウトしており、現在は使用できない文言が記載されている。
召子のレベルは5、どの〈スキル〉もかなり戦闘に特化しており、本人の意思とは真逆なスキル構成をしていた。
レベルに関しては、スキル優先度が足りないからか、相手の情報を読み取ることができないらしい。
それも本人曰く、レベルアップすれば見られるようになるらしい。レルゲンは改めて勇者とは末恐ろしい存在だと感じる。
これと似たような勇者があと三人いて、過去の魔王を倒したというのだから、断片的とはいえ魔王の力を知れた。
「情報ありがとう。みんなわかってるとは思うが、召子の〈スキル〉はマリーやセレスの魔術系統と同じ極秘事項だ。口外は絶対にしないでくれ」
全員が頷き、召子は少し安心した表情を見せる。
「一番の近道はやっぱり魔物討伐だな。俺たちよりも恐らく召子の方が上昇率は高いはずだから、まずは深域に行って召子のレベルアップを目的に動いていこう」
「「賛成!!」」
これにてお茶会――もとい作戦会議は終了し、早速深域に行くべくレルゲンたちは準備を始めた。
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