116話 初めての深域
「皆様、どうかお気をつけて」
ディシアとカノンは王国に残り、今回深域に入って召子のレベル上げに協力するのは、レルゲン、マリー、セレスティア、召子の四人。
最近の女王陛下は少し変化があった。
以前は危険な深域に娘たちが何度も行き、魔力の底上げをやると言い出せば、難色を示していただろう。
だが、王国の危機を何度も救った自慢の娘たちを、自分の手が届かないところに快く送り出していた。
それはレルゲンとの結婚を機に自立していったと感じたのか、深域にレルゲンがついていくことへの安心感からかは定かではない。
しかし、女王にもうセレスティアとマリーを危険だからという理由で、引き留めることはなくなった。
見送りに来るつもりだったらしいが、公務が忙しいようで、女王の代わりにカノンとディシアが来ていた。
「頑張れよぉ」
カノンが今日も眠い目をこすりながらも手をひらひらと振り、大きめのあくびをする。
四人は苦笑いしながらも各々の武装を持って深域に繋がる転移魔方陣に乗るのだった。
「行ってきます」
青い光に包まれた四人は一瞬の内にカノンとディシアの前から消える。
眩い光が収まり召子が目を開いた先には、深域特有の鬱蒼とした森が広がる――本来人が立ち入ることのない奥地。
初めて転移魔方陣での転移を経験した召子は、今まで経験したことのない樹海に近い光景を見て、楽しそうに声を上げた。
「わぁ! まるでジャングルだ……!」
三人が召子を見て微笑ましい視線を向けると、レルゲンが声をかける。
「マリーとセレスはもう何度か深域を経験しているから問題はないと思うが、慣れてきた時ほど実は危険だったりする。気を引き締めていこう」
マリーとセレスティアが頷き、準備が整ったことをレルゲンに目線で伝える。
レルゲンは召子に向き直り、安心させるように言葉をかけた。
「召子は初めてだから今回はほぼ見学でいいと考えている。加勢できそうなタイミングが出てきたら俺から声をかけるから、それまでは戦闘の動向を見ていてくれ」
「わかりました。いつでも行けるように準備しておきます」
「あと、俺は今日、白銀の剣しか持ってきていないから、いつもの一撃は期待しないでくれ。やばそうだったらすぐに引くから、それまでは出会った魔物は本気で対処していこう!」
「「おー!」」
マリーが一番元気な返事を返し、やる気は十分。セレスティアと召子も準備は整った。
休憩は水神様の湖で取るとして、魔力揮発材を二つ、飲料タイプの回復薬二本を持参していた。
簡単な怪我だけならセレスティアの回復魔術で十分対応できるため、今回はできるだけ軽装で挑むことに。
「ちょっとレル君、私のこと早速忘れていないよね?」
中々話題に上がらなかったウルカが、抗議の声を上げた。
「忘れていないさ。だけど、正式契約してから具体的に何が変わったかあまり実感が湧かないんだよ」
「変わっていますよ。レルゲンが纏っている魔力」
セレスティアが目に魔力を集中してレルゲンを見つめる。
「自分では全く分からないんだが、どう変わっているんだ?」
「簡単に言うなら、魔力の流れが私に近くなり、魔力の流動性が上がっています。全身に流れやすくなっていると言い換えてもいいかもしれません。そして、体外に漏れ出る魔力が少し減っています」
「えっ? 減っているのか?」
「今まで若干持て余している気はしていましたが、今は自分の器にぴったり嵌まっているような、自然さを魔力から見て取ることができますよ」
「自然さ……か」
自身の手に流れている魔力を観察するために目に魔力を少し集中させると、確かに流動性が上がっているように見える。
また、魔力量に関しても、身の丈に合った規模に収まっているように感じられた。
「確かにセレスの言う通りな気がするが、今までと具体的に何が変わったんだ? ウルカ」
「戦ってみるのが一番わかりやすいとは思うけど、レル君。試しにファイアボールを出してみて」
「ああ」
言われた通りファイアボールを出現させると、
手にはいつもの赤いファイアボールではなく青いファイアボールが出現していた。
「ブルーフレイムですね……」
今まで風魔法の合成が無ければ成し得なかった技の工程を大幅に短縮することができている。
「確かに凄い変化だが、これはウルカが風の制御を肩代わりしてくれているのか?」
「ううん、これはレル君の魔力制御で青くなっているだけよ」
どういうことか分からない顔をするレルゲンにウルカが補足する。
「今までは私が負荷をかけて魔力制御を難しくしていたのよ。だから、今まで重りを付けて戦っていたレル君が、ようやくそれを外したってこと」
「なんでそんなことしてたんだー……」
ウルカの可愛い口を軽く引っ張りながらレルゲンがニッコリ笑って怒る。
「ごめん! ごめんレル君! でもそうでもしないと成長速度が平坦になって、勇者と肩を並べられないと思って! 許して!!」
口を引っ張る手を離すと、涙目のウルカがレルゲンの頭をポカポカ殴るが、全く痛くない。
青い炎を消し、深域の探索を開始した四人と精霊は、安全地帯の水龍が守護している湖に向かうことに。
召子とウルカが軽く挨拶を済ませ、水龍も純精霊を見るのは初めてだったらしく、巨大な首をゆっくりと近づけてくる。
そして召子は水龍を見上げながら、口をパクパクさせて顔を青ざめさせていた。
「ドラゴンだ、本当にいたんだ……!」
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