102話 神山――山査子
カイニルはテクトがモンストルム・ファブリカの爆発に巻き込まれたのを見て、一言だけ呟いた。
「逝ったか」
既にモンストルム・ファブリカから出現した魔物は全て動きが止まり、動かなくなった魔物の後処理をするため、マリーやセレスティアが動いている。
しかし、ハクロウは真っ直ぐにカイニルを見つめて視線を外さなかった。
「カイニル・マクマニルか?」
「ええ、そうよ」
立ち振る舞いから、かつての師匠――コジロウとよく似た雰囲気を纏うこの女性は、間違いなく世代が違うだけで、同じ門下生の内の一人だろう。
腰に差してある刀を二本とも抜き、ハクロウが構えを取る。
「いざ、尋常に勝負願いたい」
カイニルはハクロウの左腕が魔力糸で動かされている、念動魔術によるものだとすぐに理解する。
カイニルはハクロウが誰だかわからないが、お誘いとあれば答えるのが剣士としての嗜み。
「素敵なお誘い――ありがとう」
カイニルは一本のみ刀を抜き、腰にはまだ一本の刀が差されたまま。
――なぜ二本目を抜かない?
とハクロウは疑問に思ったが、カイニルが中段に剣を構える姿は、かつて自分に技を教えてくれた師匠が最も得意としていた秘剣と同じ構えであることに気づき、すぐに思考を切り替える。
風がまだ強く、騎士団が魔物処理のために武器を振るっていたが、不思議と二人の周囲には人が寄り付かなかった。
それほどまでに周囲の人間は、これより先に入ったら死ぬと理解しているかのような空間があった。
勝負は一度きり。
やり直しの出来ない果し合い。
二人の口から同時に「秘剣……」と同じ言葉が発せられる。
カイニルが一本の刀で名を呼び
「燕返し」
ハクロウが二本の刀で必殺の秘剣を繰り出した。
「神山――山査子」
カイニルの刀は三つに分身するかのようにほぼ同時に繰り出され、ハクロウの剣はカイニルの首元へ、クロスさせるように振り下ろし、重なったと同時に反対側へ刀を振るう四連撃を繰り出す。
秘剣を放った二人がすれ違い、空気を共に斬り裂いた。
ハクロウの右肩口から腹にかけて深い斬り傷が刻まれ、すれ違ってからしばらくして、傷口が自覚したかのように遅れて鮮血が迸る。
白い左腕は粉々に破壊され、魔力糸が接続先を求めて揺らめいている。
「素敵な果し合い、最後にありがとう」
カイニルがハクロウに向けて言葉をかけると、カイニルの首元に一本の線が伸びていき、やがて首が地面へと落ちた。
決着がついたと安堵したハクロウだったが、信じられない光景を目にする。
首を落とされたにも関わらず、切断面が蠢き、新しい頭部を再生しようとしている。
「加護の一種だろうが、ここまでくるともはや『呪い』だな」
残る一本の刀でカイニルに介錯しようと近付くが、胴だけとなったカイニルが、自らの心臓部を刀で突き刺して動きを完全に停止した。
カイニルの表情は満足そうな、少しだけ哀愁が漂うような笑みを見せながら、瞳を閉じた。
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