100話 心の魔術
「いくぞ」
レルゲンが勢いをつけてモンストルム・ファブリカへ飛翔しながら突っ込んでいく。
敵の図体が大きい分、頭部から足元までには距離があることを活かし、這うように飛んでかく乱する。
レルゲンは自分の位置が正確に掴めなくなると考えたが、これは当てが外れた。
レルゲンの飛行軌道を読み切ったモンストルム・ファブリカの足が、踏み潰す。
地面が大きく揺れほんの少しの間静かになるが、白銀の剣で足を灼き斬り、そのまま脱出する。
足元を這うことを止め、今度は一度距離を取ってから全速力で接近し、速さに特化した戦い方へ切り替える。
しかしこれも動きが単調になった分、先回りした敵の腕や足が自動的に迎撃してくるような感覚に陥った。
――単純な速さでもついてくるか。
レルゲンが速さに身を任せてモンストルム・ファブリカを白銀の剣で灼きながら斬り込みを入れても、たちまち修復されていく。
しかし、テクトはこれを鬱陶しいと感じたのか、核撃砲を連射することでレルゲンの動きを牽制するべく撃ち込んだ。
核撃砲はレルゲンの念動魔術の軌道変更で、視界を遮る程度の効果しかない。
ここでもう一本の手を生やしたモンストルム・ファブリカは、王国に向かって核撃砲を放つ。
この場にいる全員が王国が焼き尽くされる未来を瞬時に想像したが、レルゲンは冷静に王国へ向かう核撃砲を観察していた。
瞬間的に、これは念動魔術の射程圏外だと考えたが、ある一言を思い出す。
「魔術の基本は、できると思う心なのです。答えはいつだって『ここ』にありますよ」
今は遠い過去の記憶。
レルゲンは少し笑い、はるか遠くを進んでいく核撃砲に右手を伸ばす。
「――曲がれ」
意志の込められた一言が現実を書き換え、想像した未来を引き寄せる。
王国へ着弾する――誰もがそう思った瞬間、核撃砲は、着弾のギリギリで上空へ軌道を変更し、しばらく突き進んだ後に消えていった。
「この距離でも君の魔術は届くというのか……!?」
「届かないなんて、誰が言った?」
このとき、テクトは初めて恐怖を覚えた。
その額には汗が伝っていたが、同時に想像できない光景を目の当たりにしたことで、笑みを浮かべる。
「面白い! 面白いぞレルゲン・シュトーゲン! 私は君に勝ちたい! そう強く思っていると告白しよう!」
「お前、本当にくだらない男だな」
――今までの奴の動き方、自動と手動を使い分けているな。それに核撃砲の雨を降らせても一向に魔力が減少しない。間違いなくミリィが関係しているのがわかるが、どうやって中から救い出す?
レルゲンはミリィの救出方法を飛びながら模索していた。赤い石の中にミリィがおり、魔力が際限なくあふれ出しているのは……
赤い魔石……赤。
そうか――あの赤い魔石は魔力の増幅機か。
赤い石が無くても核撃砲が使えるという事は、
石があればほぼ無尽蔵に撃ち続けられるのだろう。であれば、テクトは赤い魔石を傷つけられることすら嫌うはず。
――チャンスは狙いが知られていない一度切り。
再び全身が青い光に薄く包まれ、噴き上げる工程を省略し、相手にできるだけ悟られないようにする。しかし、テクトもレルゲンが何かをやろうとしていることに勘づく。
「魔力感知をすり抜けようと必死なようだが、全て見えているぞ」
瞬間、レルゲンの動きを追っていた全モニターからレルゲンの姿が消える。
レルゲンが何かやろうとしたと感じたセレスティアの隠蔽魔術――ハイド・スペリアが姿と魔力を覆い隠した。
――愛してる……!!
セレスティアの隠蔽によって完全に視界から消えたレルゲンを、テクトは映し出された画面を凝視して探す。
レルゲンの位置を懸命に探しているテクトだが、見つけられないため標的がセレスティアに向いた。
「隠れたようだが、術師を始末すれば同じこと!」
核撃砲を発射するべく、モンストルム・ファブリカがセレスティアに手を向ける。
光が充足してゆくが、途中で光が拡散する。
「……何が起きた?」
レルゲンが赤い石である『心臓部』の魔石に白銀の剣を何度も突き刺し、破壊を進めていたことに気づく。
「この鬱陶しい蝿が……! そこを離れろ!!」
何度も突き刺された赤い石は熱で溶かされながらひび割れていき、あと一歩のところでテクトに気づかれた。テクトが赤い石を前面に出していたのは、レルゲンの動揺を誘うための布石。
瞬時に赤い石をモンストルム・ファブリカの内部に収納し、扉を閉めることでレルゲンの追撃を防御しようとする。
薙ぎ払われた手を躱すために一旦距離を取り、様子を伺う。
――奴の中に入るためには、とっておきの場所が一つだけある!
テクトもレルゲンと同じく考えたのか、魔物が歩いてくる入口を閉じようとしていた。
爆発的に速度を上げたレルゲンは、衝撃波を纏いながらモンストルム・ファブリカの閉じかけている入口へと突っ込んでいく。
「届けぇぇぇぇええええ!!!」
全速力で突っ込んだ影は、入口が締め切られる前に内部への侵入を転がり込むように果たした。しかし、そこで待ち受けていたのは、特別な六段階目を含んだ魔物工場の内部。
赤く光った眼光がレルゲンを囲み、抑えきれない殺意の籠った視線を向けてくる。
「お前ら……今すぐそこを『どけ』!」
レルゲンの言葉に応えたわけではない。
だが、魔物たちは強制的に念動魔術によって立っている位置を強引に弾き飛ばされ、咆哮すら上げることを許されなかった。
モンストルム・ファブリカの内部に繋がる一本の道ができると、レルゲンは途轍もない速度でダンジョン内部を進んでいった。
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