第75章 ―― 最後の約束 (前)
リエン・トゥイは、ヴァン・ティエンを見つめていた。
脇腹の傷からは、まだ紫色の血が滲み出ている。
だが――
もう、脇腹の痛みなど気にしていなかった。
彼が気にしていたのは――
ヴァン・ティエンの身体を包み込むように放たれている、青いエネルギー。
決して強大なエネルギーではない。
それでも――
彼には感じ取ることができた。
その瞳に宿る――
決して屈しない意志を。
その――
屈しない眼差し。
この感覚は――
あまりにも懐かしかった。
まるで――
「あの人」と同じだった。
リエン・トゥイは――
ふと、過去を思い出した。
あの頃。
彼はまだ、組織の中の名もない一兵士に過ぎなかった。
その時、彼はある無名の小惑星で、一つの艦隊を包囲していた。
たとえ無名の艦隊であっても――
彼らは狂ったように抵抗してきた。
戦いは――
凄惨を極めた。
その艦隊の兵士たちは、
ほとんど全滅した。
だが――
ただ一人。
その艦隊の指揮官だけは――
仲間が全員倒れても、そこに立ち続けていた。
その指揮官の足元には――
倒れた仲間たちの遺体。
そして――
リエン・トゥイの部隊の兵士たちの遺体も、そこら中に転がっていた。
その時の指揮官の身体には――
無数の傷が刻まれていた。
特に頭からは――
大量の血が流れていた。
それでも。
その指揮官の眼差しは――
静かだった。
恐怖もない。
揺らぎもない。
目の前には――
リエン・トゥイの兵士が何千人も取り囲んでいる。
それでも、その指揮官は――
たった一本の棒を手に。
何千もの敵兵の中へ――
突っ込んでいった。
ドン!!
リエン・トゥイの部隊が、
次々と倒されていく。
一人。
また一人。
その指揮官によって――
地面へ叩き伏せられていく。
それでも――
その人の眼差しは変わらなかった。
冷たいまま。
苦痛など、一切見せない。
敵に身体を貫かれても――
その眼差しには、
痛みも。
恐怖も。
一切、浮かんでいなかった。
その瞬間――
リエン・トゥイは――
膝から崩れ落ちた。
目の前で起きている光景に――
恐怖を感じたのだ。
そして――
現在。
過去を思い出したリエン・トゥイの手は、
ナイフを握ったまま激しく震えていた。
彼は目の前の少年――
ヴァン・ティエンを見つめる。
そして――
心の中で呟いた。
「まさか……」
「このガキが……あの人と同じ眼をしているとはな……」
彼はナイフをヴァン・ティエンへ向けた。
手は震えている。
それでも――
自信に満ちた声で言った。
「今、お前の身体から溢れ出している力……」
「それが――」
「お前の持つ、すべての力なんだろう?」
ヴァン・ティエンは――
答えなかった。
その眼差しは――
一切、揺らがない。
リエン・トゥイは、それを見て小さく笑った。
「まあいい……」
「お前が言わなくても……」
「それが、お前のすべてだということくらい――」
「俺には分かる」
「だったら……」
彼は、もう片方の手を上げた。
その掌の中から――
短く、鋭い鎌が現れる。
その刃には――
銀色の気が流れていた。
「……もっと本気を出さないとな」
その瞬間――
彼の手から、ナイフと鎌の柄が落ちた。
すると――
二つの刃から伸びるように、
鋭く長い金属の刃身が姿を現した。
それが完全に姿を現した瞬間――
柄の部分から、
黒と銀のエネルギーが激しく噴き出した。
そのエネルギーは、
柄から鎌とナイフの刃へ流れ込む。
それだけではない。
さらに――
リエン・トゥイの両腕へと一気に広がり。
そして――
全身へと駆け巡っていく。
リエン・トゥイは――
身体の奥深くから湧き上がる痛みを感じた。
身体が――
縮こまる。
そして――
グオオオオオオオオオッ!!
彼は顔を上げ、
大地を震わせるほどの咆哮を上げた。
その咆哮から放たれた衝撃波は――
凄まじかった。
ヴァン・ティエンの身体が――
後方へ滑っていく。
彼は必死に踏ん張り、
なんとか体勢を保った。
やがて――
咆哮が止んだ。
リエン・トゥイの周囲には、
黒と銀の気が交互に渦巻いている。
そして――
その瞳。
左目は――
銀色。
右目は――
深い黒。
その異様な瞳が――
ヴァン・ティエンを鋭く捉える。
そして――
シュッ!!
一閃。
リエン・トゥイが放った斬撃が、
ヴァン・ティエンへ飛んだ。
あまりにも速い。
刃の気がヴァン・ティエンの顔を掠め――
そのまま背後の廃屋へ一直線に飛んでいく。
ドォン!!
一瞬だった。
廃屋は――
真っ二つに斬り裂かれ。
そのまま崩れ落ちた。
ヴァン・ティエンは――
わずかに後ろを振り返る。
崩れ落ちた廃屋を見て――
その瞳が、ほんの少しだけ細くなる。
そして――
再びリエン・トゥイへ顔を向ける。
その眼差しを見て――
リエン・トゥイは驚いたように、
「……おお」
と声を漏らした。
「俺の攻撃があと少しで当たっていたというのに――」
「お前の顔には、恐怖がまったくないのか」
「本当に……大したものだ」
彼は身体を前へ傾ける。
ナイフと鎌を――
強く握り締める。
その瞳には――
興奮が満ちていた。
「なら――」
「俺も、本気で全部を出してやる」
言い終わると同時に――
ドン!!
リエン・トゥイは地面を強く踏み込んだ。
その身体が――
竜巻のような勢いで飛び出す。
ヴァン・ティエンも――
すぐに身を低くした。
手には――
折れた竹。
その眼差しが――
鋭くなる。




