第32話 【side カール】 水路
拙作ですが、よろしくお願いします(#^.^#)
「カール、どうだった?」
「はい。やはり、後宮の中庭のトンネルの水路から出入りした痕跡がありました」
ロッソ公爵の指示で、後宮の中庭の様子を見て来た私は、陛下の部屋に戻って報告をした。机上をはみ出すぐらいの大きな地図に目を向け、見て来た水路を指で指し示す。
「後宮の外に出る水路の入り口は、草木で隠されているようになっており、鉄格子が数本、外されておりました。国王陛下のおっしゃっていた通りで、トンネルの中に少し進むと、途中に水路の両端に人、一人歩ける道があり、そこから歩いて行ったようで、濡れた足跡も残っておりました。乾ききっていないかったので、まだそんなに時間は立っていないようです」
滅多に入ることが出来ない、いや、今回初めて入った後宮だった。その後宮の簡単な見取り図を手に数人の騎士を連れて入ったその場所では、眉間に皺を寄せた。目に付くところには贅沢品と言わんばかりの煌びやかな調度品の数々が並べられていた。
ロッソ公爵から男爵の爵位を頂き、小さいけれどエバンス家の領地も任されたが、王家に納めなければならない税金の多さに驚愕した。それでも領民たちと協力しながら税金を納めていたが、その税金がこの調度品などに代わっていたかと想像するだけで、怒りが込み上げてくる。
そんなものを横目に、ジルベール殿下――今では国王陛下と呼ばなければならない青年の言う通りに中庭まで行き、池を見つけいくつかの水の流れ沿って歩き、草木で隠されるようにあった水路のトンネルが見えた。草が踏まれ、数人が通った跡もあった。そして少し進むと出口にある鉄格子が見え、傍まで行くと3本外され人が通れる幅に開いており、やはり誰かが通った形跡があった。
水路の様子は水かさは膝下と浅く、流れも緩やかで、人が歩くにはなんの支障も無かった。
これなら、ここから出られるな……。
水路のトンネルの奥は暗くて見えない。長く真っ直ぐ続くように見え、灯りが無ければ進むのは少々困難に思えた。逃げ出したであろうクラウスたちの灯りが見えてもおかしくない。しかしその灯りらしきものが見えなかった。
ここでは、ないのか?
陛下の勘違いだったのかと、一瞬、そんな考えが頭に過った。けれど、やはり誰かが通った跡がある。
私は試しに腰に下げていた手持ちの小さなランタンに灯りをつける。一緒に来た騎士達に止められるが、一人で水路の奥に進んだ。
報告が先だという事は分かっていた。けれど、あのクリスティーンの怯えた表情が今も頭から離れず、気持ちばかりが焦る。
私とは血の繋がりなどほとんどない、はとこの彼女だったが、自分にとっては妹のような大切な存在だった。いつも強がりで、時々甘え上手な妹だ。そんな妹が、真っ青な顔をしていたのだ。
どうしたのかと訊いてもだんまりだったが、どうにか話を聞き出せた。あんな恐ろしい夢を見たと聞いてしまえば、クリスティーンの血の気の引いた表情に理解した。そして、私は決心をする。どうにかしてその未来を避けなければならないと。
ゆっくりと水音を立てないよう、前に進む。
暫く進むと両脇に歩道が見えた。そこを照らせば、奥に続く濡れた足跡がまだ残っていた。
暫くそのまま進み、トンネルの奥をランタンで照らせば、先が見えない理由が分かった。
簡単な理由である。
真っ直ぐに伸びているだろうと思っていた水路が右に曲がっていた。私はその角をそっと曲がり、水路の奥を見たが、また先は見えない。途中でまた曲がっているのだろう。もしかしたら、複雑に入り組んでいるのかもしれない。
この先は単独で動くことは危険だ。途中で、逃げたものが待ち構えてる可能性もある。私は仕方なく来た道を辿り、国王陛下の元に報告に戻った。
「跡を辿るか」
ロッソ公爵がいつもと変わらず冷静を装うように、そう言う。しかし心ここにあらずというか、少し間の抜けた声音だった。他の事に思考を巡らしているような雰囲気を感じたけれど。
それでもロッソ公爵は、目は机上の地図を見ている。
辿るか、外から先回りするか。
ただ出口までの距離がわからない。もうすでに出口から出ている可能性もある。
「いや、もう出ているだろう」
陛下が机上の地図のある場所に指を指しながら言った。
「俺が以前入った時は、子供の頃だったから出てくるまでに時間はかかったが、大人の足なら――クラウスの逃亡に気付いてからの時間で計算すると、急ぎ足ならすでに外に出ているか、出口付近まで行ってしまっているだろう」
国王陛下の言葉にロッソ公爵は、肯いた。
「跡を追いかけても、外から追いかけても間に合わないか――」
「害が無ければ放っておいても問題ないと思うけれど……」
国王陛下はそう言いながら、クリスティーンの方にチラリと目を向けた。少し伏目にしていた彼女も視線に気づいたのか、彼の方を見る。
「やっぱり放っておく選択肢はない……な。ロッソ公爵、この王宮には抜け道はいくつあるのだ? 封鎖したい」
「すべてを――か?」
国王陛下の提案に、ロッソ公爵は珍しく軽く目を瞠った。公爵は大概のことはあまり驚きもしないし、余程のことが無い限り無表情である。
「陛下、抜け道は我々が把握しているもので、ここを含め4つだ。ヴェルデ公爵家、ブル公爵家、そして我々のロッソ家が管理している抜け道とカールの報告に上がった後宮の抜け道だ。王家はどれだけの抜け道を持っているのかまでは、公爵家の我々は把握していない。ただ、何処にあるかまでは分からないが、国王の部屋付近にもあるだろうと予測はしている」
王妃の管理下にある後宮にあったのなら、国王が管理するとろこにも抜け道はあるだろうと予想が出来る。
「もしかして、この部屋にか?」
「――かもしれない。陛下、あるとしたらこの部屋が一番可能性が高い」
国王陛下はぐるりと部屋を見渡している。私も一緒に軽く見回してみたが、それらしいものが見つからない。簡単に見つかるものでもないのだろう。
まあ、物語のように隠し扉のようなものがあって、そんな抜け道があるとすれば、この書棚の後ろとかに。
私は目に付いた書棚の中の隅の方に入っている、少し埃の被ったやたら古びた本になんとなく手を伸ばした。
――ガチャリ
「え?」
鍵が解除されるような音と共に大量の埃が舞い、書棚が僅かに動いた。
触れた古びた本をみた。ただ単にそこに置いてあるように見えたけれど、ただ単に手前に傾くだけで、手に取ることの出来ない本だった。
「ま……まさか」
書棚が動いたことに皆も気付いたようで、短く息を吐く音が聴こえた。
溜息を吐いたのはロッソ公爵だった。
「こんな所だったとは……ありきたりな場所だな」
予想外な場所ではなく、予想できるような場所にロッソ公爵は呆れた表情をする。確かに、私も書棚の後ろかもしれないとは思った。しかしこれではあまりにもありきたりで分かりやすい場所ではないかと、何故か残念な気持ちにもなり、私も肩を落とした。
「ありきたりな方法に、ありきたりな場所だな。こうもっと……仕掛けのスイッチを別の場所に出来なかったのか、例えば執務室の机の引き出しとか」
国王陛下がそう言うと、また公爵は溜息を吐く。
「それもありきたりな場所だ」
私は少し動いた書棚を横にスライドしてみた。暫く動かす事がなかったのか、スムーズに動かなかった。ぎこちなく横にスライドしていく。
半分程動かすと下に続く坑道のような階段が現れた。先の方は暗くて見えなかった。
「どうしますか? これを下りてみますか?」
私は階段の奥を覗き見ながら、三人に訊いた。
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