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第二王子は公爵令嬢に忠誠を誓う  作者: 風月 雫
第2章

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第29話 曖昧模糊?

拙作ですが、よろしくお願いします(#^.^#)

 一旦、俺たちは部屋に戻った。

 あれから誰がクラウスの逃亡に手助けしたのか、前国王に訊いても「知らぬ。何も見ておらぬ」の一点張り。前王妃に関しては、壁に凭れ掛かるように座り、答える気力もないほど疲労していた。着ているドレスも汚れ、髪は乱れ、以前の華やかさなど一切感じられなかった。当然と言えば当然。窓もなく、陽も当たらない薄暗い場所に閉じ込められていれば、生きる気力も湧かないだろう。


「座れ」


 ロッソ公爵がソファーに視線を向け、俺たちに指示を出す。


 いや、だから俺の部屋であるからして、それは俺が出す指示ではないのか? まあ、別にどうでもいいけどさ。


 ブル公爵と、カールに付き添われていたクリスティーン嬢がソファーに腰かけた。カールは彼女に寄り添うように「大丈夫か?」と声を掛けながら座る。そんな二人を見て俺はまた、チクリと胸に小さな痛みが走った。ぶらりと下がった両手を握りしめ、居心地の悪さに執務机の椅子に腰かけた。



「ロッソ公爵。クラウスが逃げ出す事を事前に知っていたようだが」


 いつも軽い口調のブル公爵が低い声音で訊く。表情を見れば、彼は厳しい顔つきであった。

 さっき牢の前で、『遅かったか――』と、彼が呟いていたからだろう。予想していたような言い方だった。


 確か、クリスティーン嬢の能力の事は、ロッソ公爵、カール、俺しか知らないはずだ。一体、どんな説明するのかと思っていたが、彼は無表情で答えた。


「――何となくだ」


 は?


 予想外の言葉に俺は目を丸くした。ブル公爵を見れば、彼も驚いている様子だった。そんな『何となくだ』と言って、周りが納得するとは思えない。


「クラウスとクリスティーン嬢の婚約破棄についても、予め知っていたんじゃないのか? それは、どう説明する?」

「――あれも何となくだ」


 表情を変えないロッソ公爵に、ブル公爵は眉間に皺を寄せた。

 何もかも『何となくだ』と終わらせようとするロッソ公爵に対して、それはそれでおかしいだろう、と突っ込みたくなる。


「お父様……『何となく』では、かなり無理があります」と見るに見兼ねたクリスティーン嬢が間に入った。


「せめてブル公爵様やヴェルデ公爵様にはお伝えした方がよろしいのではないでしょうか。これから先の事もあります……お父様は全て『何となくだ』で終わらせるおつもりですか?」


 クリスティーン嬢の言っていることは尤もである。

 まあ、ロッソ公爵なら『何となくだ』と言いながら、飄々と交わしていきそうではあるけれど。

 これから先の事を考えれば、情報の共有は必要なのではと思った。

 それに能力の持っているクリスティーン嬢が話しても良いというのなら、この国の公爵家辺りだけでも把握していた方が良いだろう。


 娘の提案に僅かに顔を歪ます。こうしてロッソ公爵に接する時間が増えると、いつも、何に対しても無表情だと思っていたが、僅かな表情の変化に気づく。

 あの顔の歪みは、納得していない表情にも見える。

 貴重な能力の話をするのだ。外部にこの事が漏れると彼女が狙われることになるかもしれない。

 しかし、父親の不満もお構いなしに娘のクリスティーン嬢は、話す決心をしたのである。


「ヴェルデ公爵を呼べ」


 渋々、娘の提案を受け入れたロッソ公爵が部屋の外で控えていた騎士たちに告げた。

 俺は、俺が国王で、ここは俺の部屋なんだけどな、と諦めの溜息を吐いた。




 クリスティーン嬢の提案でヴェルデ公爵も部屋に呼ばれる。

 彼女の顔色は未だに優れないが、それでも強い意志のようなものを感じる表情をしていた。

 

「城の外が騒がしいが、一体、何があった?」


 薄紫の長い髪を靡かせ部屋に入って来たヴェルデ公爵は、深刻そうな表情をした顔ぶれに、少々驚いた様子だった。

 

「クラウスが逃亡した」


 ヴェルデ公爵はロッソ公爵の言葉を直ぐに理解出来なかったのか、数秒、固まる。そして、辛うじて喉から漏れた空気のような声が出ていた。


「…………え?」


 その声を聞こえた途端、「す、すまん……」とブル公爵は珍しく申し訳なさそうに項垂れた。


「まさか、そんな事が? しかし、どうやって…………どうやって逃げた?」

「誰かが逃亡の手助けをしたようだ」

「誰かとは……それは、分かっているのか?」


 見張りの騎士が何者かに斬られ、負傷していた。かなりの手慣れたものの仕業だろう。そして、斬られた騎士たちも、話が出来るまでには回復しておらず、誰が手助けしたのかもまだ分からなかった。

 それなのにロッソ公爵は、ああ、と頷く。


「あいつだ。あいつは、強運の持ち主だったらしい」


「は?」

「え?」


 俺もそうだったが、ブル公爵もヴェルデ公爵もロッソ公爵の言葉を理解出来ないでいた。


 強運の持ち主? どこかで聞いた言葉だ。


「あ、まさか……ガーネット・ローザン男爵令嬢?」


 俺は、先日のブル公爵の会話を思い出した。確か、『仮に生き延びることが出来たら、強運の持ち主だな』と、ブル公爵がそう言っていた。


「まさか、そんな事があるのか? いや、いくら考えてもあるはずがない! 令嬢一人で何が出来るのだ! 帰る道が分からないように、わざわざ馬車の窓のカーテンを閉めていたんだ。外の様子が分からなかったはずだ」


 あの場所までガーネット嬢を連れて行ったブル公爵が否定する。

 

 我が国フランツ国とアールム国の間には山脈が一つある。アールム国に行くには、我が国から、ルソル国に抜ける山道を通り、北に向かう。一応、整備された道はあるが、街道のようには整っていないと聞く。

 そんな道を戻り、我が国に帰ってくることは、令嬢一人では無理な話である。ましてや獣も出るような場所だ。


「何を根拠にそんな事を言っている!?」


 納得できないブル公爵は、切れ長の青い瞳でロッソ公爵を見た。


「ブル公爵様、ヴェルデ公爵様。それは、私がお答えいたします」

「令嬢が? クリスティーン嬢は一体何を知っているんだ?」


 クリスティーン嬢の声で、声を上げていたブル公爵は落ち着きを取り戻し、彼女の方を見た。


「私は、以前から……夢を見るのです。近い将来起こる夢を。卒業パーティーでの婚約破棄も夢で見ました。その前にも、カール兄様の山での野外練習時に崖から転落してしまった時も」


 クリスティーナ嬢は申し訳なさそうにカールを見つめる。


「それで、今回はクラウスが逃亡する夢を見たというのか?」


 信じ難いという表情で、ブル公爵は訊いた。


「はい。その夢に彼女が見えたのです。ガーネット様の姿が……その他にも三人いました」

「その三人と言うのは、誰ですか?」


 ヴェルデ公爵の問いに、クリスティーン嬢は「分かりません」と首を横に振った。


「フードをかぶっていたので見えませんでした」

「本当にガーネット嬢だったのか?」

「はっきりと顔を見えませんでしたが、クルクルと癖のあるピンクの髪が見えました」


 二人の公爵は未だに信じ難いようで、顔を見合わせていた。


「まさか、未来視が出来るのですか?」

「……はい」

「まさか……極稀にいると言われている能力者か?」

「いつも夢を見ているわけではないのですが。今朝方にその夢を見ました。もっと早くに私の特殊能力を公爵様方にお話ししておくべきでした」


「いや、クリスティーン嬢。能力者は自分の能力を隠したがる理由は、俺たちも理解している。ましてや、『未来視』となると、どこの国も喉から手が出る程に欲しがるだろう」


「でも、私の身近で起こるような事ばかりですよ」

「それでもだ。クリスティーン嬢の能力は黙っていた方が良いだろう。この事はクラウスは知っているのか?」

「いいえ」


 ヴェルデ公爵の問いに、クリスティーン嬢は首を横に振る。それを見た公爵二人は安堵の溜息を漏らした。


「しかし、本当にあの嬢ちゃんがクラウスの逃亡を手助けたとすると、どうやって王宮に入ったか、だよな」


 そう呟くブル公爵をヴェルデ公爵が疑いの目で見る。


「なっ……お、俺は、ちゃんとアールム国の山の中に置いて来たぞ!!」

「では、どうしてガーネット嬢が王宮に、しかも地下牢に?」


 ヴェルデ公爵の言う通りだ。アールム国に置いてきたのなら、どうやってここに戻ってくることが出来たのだろうか。


 グルグルと頭の中で考える。

 まさか――。


「アールム国と手を組んだか?」


 一瞬、俺の頭の中に過ったことを窓の外を眺めながら、ロッソ公爵は言った。


「おいおい、そんなことがあるか? アールム国の人間に見つかれば、他国の人間だと分かると殺されるぞ」

「ブル公爵の言う通りだ」


「ヴェルデ公爵、ブル公爵。ロッソ公爵の言ったことも可能性も無きにしも非ずだと思う」


 ありとあらゆる可能性を考えなければならい。そして、本当にガーネット嬢がアールム国の人間と手を組んだのなら、誰と――。


 アールム国の情報があまりにも少なすぎる。もっともあの国との国境を監視しているのが、ロッソ公爵だった。俺は彼を横目でチラリと見た。

 彼は周辺諸国を含む地図を広げて、ガーネット嬢の降ろした場所をブル公爵に訊いていた。

 ブル公爵が指を指した場所を見た彼は、チッと舌打ちをして、僅かに顔を歪ませていた。

最後まで読んでくださってありがとうございます。

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次回更新は7月3日0時10分頃の更新予定をしております。

また読んでいただけると嬉しいです。

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