第28話 クラウスの逃亡
リアクション、ブックマーク、ありがとうございます。
前回までがガーネット視点でしたが、
今回からジルベール視点に戻ります。
拙作ですが、よろしくお願いします(#^.^#)
「国王陛下、戻りました」
ロッソ公爵とヴェルデ公爵と王都の警備に関する話をしている所に、ガーネット・ローザン男爵令嬢の国外追放の件から戻って来た、ブル公爵が部屋に入って来た。
「無事と言うのもなんだが、無事にアールム国の山の中に置いてきたぞ」
意気揚々と愉快そうに話す公爵に俺は呆れてしまう。
「ブル公爵、令嬢一人をあの山に置いてくるのは流石に可哀そうだと思っているが」
俺は本当にそう思っている。
いくらクラウスとクリスティーン嬢、二人の婚約の邪魔をしたからといって、そこまでする必要が無かったのでは、と。
そんな所に連れて行くくらいなら、クラウスと同じ牢にでも閉じ込めておくか、どこかの修道院にでも放り投げておけばいいと思っていた。
けれど、この三大公爵たちはそうは思わなかったのである。
特にこのブル公爵は見た目は陽気で軽そうに見えるが、やることが情けなく容赦ない。所属している騎士達も右に倣えのようなものだ。
「陛下。食料も少しと寒さ対策にブランケットを持たせてある。二、三日は持ち堪えるだろう。まあ獣に遭遇しなければの話ですが。仮に生き延びることが出来たら、強運の持ち主だな」
アールム国の山は肉食系の獣が多い。特に狼だ。奴らは寒さに強い。そして食料となる動物――野兎、鹿が豊富にいるのも確かだ。狼に遭遇すると、人間と言えど武器も持たずに逃げれるとは思えない。奴らは数匹で行動するのも特性だ。
そう考えると、とても無事でいられるとは――。
ガーネット嬢はこの国に戻ってこれることは、まず、ないだろう。
結論から言えば、この国は三大公爵を敵に回すと、王家でもどうにもできないという事だ。
令嬢の無事を祈るしかないな。
さて頭を切り替えて、国政を立て直す事だけに専念しよう。
前国王の政務も引き継いだのは良いものの、各領地の立て直しで税収を見直せば、馬鹿にならない程高かった。それは大きな領地を持っている公爵だけではない。小さな領地を抱えている貴族にでさえ、その額は大きかった。
父は――前国王は領民たちから、どれだけ巻き上げていたのだろうか。そして、それを湯水の如く王妃とクラウスがお金を使っていたのだ。その一部がガーネット嬢にも流れていたのである。
これでは、クリスティーン嬢がクラウスと婚姻を結び王太子妃になれたとしても、国政を正せたかどうか、怪しい。
王子時代、国政に関わらせてもらえなかったとはいえ、己が何も知らなかったことに深い後悔に苛まれた。
ガーネット嬢を追放して数日が経ったころ、俺はロッソ公爵と執務室で話していた。そこに、顔色の優れないクリスティーン嬢とカール・エバンス男爵が入ってくる。
「なんだ?」
ロッソ公爵が二人に問う。急に重苦しい空気になった。
「それが……」
カールが俺をチラリと見て、言い渋る。
俺に聞かれるとマズイ話なのか。ここは、一応俺の執務室だ。だから俺のいない、違う部屋で話せばいいと思っていたが。
「陛下、少し部屋を退出していただけますか?」
ロッソ公爵が少し顔を顰める。
いや、だからここは俺の部屋であって――と言いたかったが、俺は渋々部屋から出た。
俺はやっぱりお飾り国王なのか、と部屋の扉を閉め、肩を落とす。扉の端には二人の騎士が立っていて、二人とも俺を見てギョっとしていた。
驚くよな、そうなるよな……。
クリスティーン嬢とカールが入って、部屋から追い出されて出てきたのが一応、国王の俺だ。年の功で言えば、公爵たちには敵わない。まあ、そんな事を口に出して言えば、「年寄扱いするな」と言われそうだ。
俺はそっと扉に耳を当てる。
「へ、陛下……?」
「しっ!」
声を出そうとする騎士に声を出すな、と指示を出した。一国の王がこんな事をしては、はしたないと思っているが、どうしても気になる。けれど、聴こえてくるものといったらボソボソと話す声だけで、何を言っているのか全く理解出来ない。
すると、突然、ガチャリと扉が開いた。開けたのはロッソ公爵だ。
あ、ヤバイ……。
当然、公爵に見つかった。案の定、何をしているのかと、ギロリと虫けらを見るように睨まれる。
すみません……と心の中で謝るしか出来なかった。しかし、公爵はそれどころではない様子で周りの騎士に指示を出す。
「そこの騎士、ブル公爵を呼べ!」
珍しく声を荒げたロッソ公爵に騎士たちも驚き、公爵の指示に従い、慌てて走ってブル公爵を呼びに行く。
俺の執務室では、顔色の優れないクリスティーン嬢の肩を抱く、カールが見えた。かなり、深刻そうにしていたが、二人の姿を見て、俺の胸にはチクリと痛みが走る。
「おい、どうしたんだ?」
呼ばれたブル公爵は大きな欠伸をし、身体を伸ばしながらこちらに歩いて向かってきた。呑気に訊ねるブル公爵をロッソ公爵が蒼い瞳で睨みつける。
「地下牢の様子はちゃんと監視しているのか?」
「ああ、監視しているが、それがどうした?」
ロッソ公爵は娘のクリスティーン嬢をちらりと見た。彼女の顔色はやっぱり優れない。
「今の2倍増やせ! 監視を強化しろ!」
「……は?」
ロッソ公爵の鋭い視線に晒されても、ブル公爵は萎縮せず、逆に不満な声が洩れた。
「一体どうしたというんだ? 俺の騎士団は不満だというのか?」
「ああ、不満だ」
「は!? だったら自分の騎士を付ければいいじゃないか!?」
ブル公爵は意味が分からないと、額に手を当て溜息を吐いた。彼の騎士団は元々、影として動く者ばかりである。監視役に人員を割くわけにはいかないのだろう。
公爵二人が珍しく言い争いを始めていると、バタバタと数人の足音が響いて来る。青の騎士服を着た騎士が走って来たのだ。先頭に走ってくる騎士は普通の騎士服ではない。少し華やかな装いの服だ。ブル公爵の騎士団の副騎士団長を務める人だ。
「ブル騎士団長! 大変です! 地下牢で――」
副騎士団長の報告を訊いて、俺と公爵二人とカール、クリスティーン嬢が急いで地下牢に向かった。
そこで、目にしたのは――クラウスが入っていた牢の鍵が壊され、扉が開き、当の本人は姿がなかったのである。
「は? 見張りの騎士は何をしていたんだ!?」
そう声を張り上げたのは俺ではない。ブル公爵だった。
「申し訳ございません……見張り二人いたのですが、何者かに襲われ……」
副団長はすっと視線を向ける。そこには刃物で斬られ流血している騎士が二人いた。後から来た医師に処置を施されている。
どうやら一命を取り留めているようではあるが、この国の公爵の騎士団はかなり腕の立つ者ばかりだ。そんな騎士を斬りつけられるなんて。
「一体、誰が……何のために?」
茫然と立ち尽くすブル公爵に、「遅かったか――」とロッソ公爵が吐き捨てるように呟く。まるで、クラウスが逃亡することを予め知っていたようだった。
これは――クリスティーン嬢の夢か?
もしかしたら彼女がこの夢を見て報告をしに来たところなのかもしれない。ただ、クラウスの逃亡だけで、あんなに顔色が変わるのかと疑問に思った。
幸い、逃亡したのはクラウスだけで、国王と王妃は地下牢に残っていた。
「誰がここに来た?」
ロッソ公爵が低い声で、俺の父、前国王に訊く。
「フン! ここから出してくれるなら答えてやってもいいが――。ジルベールよ。いつまで血の繋がった儂をこんな汚い場所に閉じ込めて置く気だ!? さっさと出せ!」
血の繋がった――?
怒鳴り声を上げ、強い視線を向けられる。
確かに目の前の男は実父ではある。
けれど、父親らしいことなどされた記憶もなかった。目障りだと、相手にしなかったのだ。それを今更そんな事を言われても、片腹が痛い。俺はそんな事を今更思っていない。せめて、母だけでも大事にしていてくれれば――。
きっと、前王妃に扱き使われていたことなど知らなかっただろう。
俺と母にとっては、この男は家族でもなんでもなかった。
「父上。貴方とは血が繋がっているが、俺にとってはどうでも良い存在です。あなた方をここから出す事はしない」
そう答えれば、父は目を見開き、鉄格子を握りしめ、ギッと睨みつけて来た。しかし、そんな父にも何の感情も湧かなかった。
「まだ、遠くには逃げていないはずだ! クラウスを捜し出せ!!」
真っ青な顔になったブル公爵に、俺は指示を出す。
ブル公爵は副騎士団長に「急げ!」と告げると、彼は「はっ!」と慌てて出て行った。
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次回更新は6月26日0時10分頃の更新予定をしております。
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