第27話 【side ガーネット】 予想外の場所
ガーネット視点は、今回までです。
拙作ですが、読んでいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします(#^.^#)
部屋に戻り、クラウス様との会話の中で、王家の抜け道の話をしたかどうか、思い返してみたけれど、それらしい会話も無かったような気がする。
しかも気持ちが焦るばかりで刻々と時間だけが過ぎていく。
だって、王家の秘密の抜け道だよ?
そんな大切なものを私に教えてくれていないのでは?
そんな言い訳ばかり頭に浮かぶ。
「……どうぞ」
うーんと、唸って行き詰っている私の目の前にカップが出される。ジェーンがお茶を入れてくれたようだった。
「ありがとう……」と私は一口飲んだ。少し不思議な香りがした。香辛料の香りだ。けれど、ポカポカと体が温まる感じがした。
そんな不思議なお茶を眺めながら、王妃様とのお茶会の事を思い出す。高級そうな美味しいお茶に、手入れされた庭園。池にはスイレンの花が綺麗に咲いて水面は光が反射してキラキラしていた。
「ん……? 池? あっ……!!」
もしかしたら、あれかも……? 王妃様の庭にあった池かもしれない。
池から水が外に流れる水路があった。クラウス様はそれを見て、ある場所に繋がっていると言っていた。けれどある場所とだけ言っていただけで、それ以外分らない。
あれはどこに繋がっているのか。それが分からなければ意味がない。向こうからの入り口が分からないのである。
「はああ……」
私は深い溜息を吐いた。
思い出せるものはそれぐらいしかなく、王妃様の庭にあった水路がそうかもしれないと、アレック王太子殿下に伝えるべきか悩む。
不確かな情報で、彼は納得するだろうか?
もし、仮に王妃様の庭に抜け道があったとすると、何か危険な事があれば、外に逃げるための抜け道は、多分、国王様の部屋辺りにも存在しそうだ。
「他に思い出せないんだもの、仕方がないわ」
私は覚悟を決めて重たく感じる足を動かし、またアレック王太子殿下の部屋を訪ねる。入り口には護衛騎士が二人立っていた。ジロリと睨まれるが、私がここに来ることに何の疑いもないのだろう。訪れた理由も訊かれなかった。
私は扉を叩く前に数回深呼吸をした。表面上は平静を装っているつもりでいるけれど、気が重すぎる。
部屋の中に入ると、部屋の隅に二人、アレック王太子殿下の後ろに二人、護衛騎士がいた。
少し厳重すぎないのかしら? と思う。クラウス様にもこれだけの人数の護衛がついていたかと聞かれると3,4人ぐらいだったかと。
けれど、護衛対象の彼は豪奢なカウチに身を沈め、寛いでいるようにしか見えず、そして先程と変わらない無表情だった。
「何か思い出したのか?」
表情からして、私に何も期待していないというのが伝わってくる。
私は「不確かなものですが……」と一言添えて、思い出したことをアレック王太子殿下に伝えた。
「――水路か」
水が流れているのなら、外に出ているのはごく当たり前のこと。けれど、あの時のクラウス様はある場所にでると言っていたのである。――と言う事は、水路を辿れる道があると思うのだけれど。
「何処に繋がって、何処に出るのかもわかりません」
訊かれる前に、突っ込まれる前に、私は正直にそう告げた。
それ以上、私は知らないぞと。
じっと、グレーの瞳に見据えられ、私はただ緊張して立っているだけ。
アレック王太子殿下は「令嬢は馬鹿か?」と呟くと、彼は立ち上がり、大きな机の上に、またあの地図を広げた。
「水路から抜けるのなら、大体の場所が特定できるだろう?」
私は首を傾げた。
「やっぱり馬鹿だったか」
二度、馬鹿と言われる。しかも今度は吐き捨てるように呟かれた。
しがない男爵令嬢の私には分からないわと、こっちの方が呆れて溜息が出そうになったけれど堪えた。睨まれるのが目に見えていたからだ。
「水路から抜けるのなら、水路を辿ればいい」
彼は地図をもう一度眺め、王城から流れ出る水路を探す。けれど、城の近くに流れる川、スケル川から王城に入る水路はあるけれど、出るものが見当たらない。
おかしい。確かに王妃様の庭の池の水は王城の外に流れていたはずなのに。
「……ないわ。水路が……」
アレック王太子殿下は目を左右に忙しなく動かしている。そして、「いや、ある」と呟く。
アレック王太子殿下は王城からかなり離れた王都の南東に抜ける小さな川を指さした。そしてその場所は、ヒラデス山脈の麓を通りまたスケル川に繋がっていた。
けれど、王都の南東に抜ける場所の小さな川の付近に×印が付いていない。
「――予想外の場所だな」
「本当にこんな場所にあるのですか?」
「可能性は十分にある。他に訊いていないのであろう?」
「確かに、王都から抜けていますけれど」
地図には王城から抜ける水路が描かれていない。けれど、王都を抜ける小さな川は突然、出現したように地図に不自然に描かれていたのである。
「地上から見えないようにしてあるのだろう。大方、地上より少し下がった所に水路を設けているのかもしれない。そこに一緒に通路も作ったのだろう」
「そんな大掛かりな事を?」
「王都の令嬢はそんなに間抜けなのか? それとも令嬢だけか? あっちの王太子と婚約したかったのなら、もう少し歴史について学んだらどうだ? 馬鹿が国母になっても国は亡ぶだけだ。まあ、こちらとしては――」
『こちらとしては――』とアレック王太子殿下はそこで言葉を止めた。
その続きがとても気になる。何を言おうとしたのか。
その前の『馬鹿が国母になっても――』と言う言葉にも少し苛立ったけれど、彼はとんでもない事を言い出したのである。
「ここから城の中に入って、あっちの王太子を連れ出してこい」
「は?」
思わず、呆けた声が洩れた。
私は彼の顔と地図を交互に見る。
「何を驚いている。そういう話だったろう? 令嬢が助け出すと。出来ないのか?」
こ、これは、出来ないと言うとまた山へ放り出すという流れになるのでは。けれど、この場所もかなり離れている。ルソルとフランツの国境を跨ぐ道まで南下しなくてはならない。要は私がここへ来る時に通って来た道だ。私一人では到底辿り着けない。
「私一人では……」
「こちらもそこまで無情ではない。数人護衛を付けてやる。護衛と言っても見張りも兼ねているから、逃げ出そうなんて気を起こしても無駄だ」
彼はそう言うと、傍にいた護衛騎士の剣を抜き、私の喉元に突き付ける。刃が放つ同じ色の鋭い瞳が私を睥睨する。
私はゴクリと息を呑んだ。
「失敗したら……どうなるのですか?」
「首を刎ねる。どちらにせよ、フランツ国で捕まっても刎ねられるだろう」
今までにない強い殺気をぶつけられる。
結局、私に選択肢がないということだ。
「ひとつお聞きしても良いですか?」
「なんだ?」
「どうしてクラウス様の救出に手を貸してくださるのですか?」
「奴の方が国交がやり易いからな」
アレック王太子殿下はカウチに浅く座り、身体を沈める。
「分かったのなら、早々に準備をしろ。明日の早朝から出発せよ」
そして私はまた、部屋に戻された。
翌日、白々明けから出発する。
外は震える程寒く、吐く息も白い。
アールム国の町娘のような恰好をし、厚めのコートを着た。
護衛には男二人に、女一人。
女の人を一人付けてくれたのは、私に気を利かせてくれたのかは不明だ。けれど、前回のブル公爵様の女性騎士の事もある。一番危ないのは、この人なんじゃないかと勘繰って、じっと見てしまった。
女の護衛は私の視線に気づいたのだろう。少し不満げに私を見た。
「何か?」
「いいえ……何でもありません」
「乗馬はできるのですか?」
「いいえ、出来ません……申し訳ございません」
乗馬は出来ないので一言謝っておく。
「ああ、それで私が同行することになったのですね」
彼女は軽く溜息を吐いたが、私と一緒に行くことになった事に納得しているようだった。
彼女の名はシャーリー。ブラウンの髪にターコイズブルーの瞳でとても綺麗だった。平民だったけれど、乗馬が好きで騎士になったという。
「私と一緒に乗れば、余程の事が無い限り、まず落馬することはありません」
彼女は先に私を馬に乗せると、続いてひょいっと後ろに乗った。
「シャーリーは乗馬だけじゃないからな、剣もすごいぞ」
男二人の護衛は、デニスとマックという。彼らも平民から騎士になったとか。
「さて、出発するか! 今日中には目的地に着きたいからな」
三頭の馬は薄暗い中、勢いよく走り出した。
力強く大地を蹴る馬の蹄が音を立てる。
スピードが半端ない。冷たい風が顔に突き刺さるように痛い。
「ガーネット嬢。大丈夫ですか?」
私の背中からシャーリーの声が聞こえた。
「は、はい。だ、大丈夫です」
本当は大丈夫ではなかった。マジで怖かった。けれど――。
「そうですか。では、もう少しスピードを上げます」
「ひえええええ!」
一段とスピードが上がり、恐怖と風圧で目を開けている事さえ出来なかった。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
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次回更新は6月19日0時10分頃の更新予定をしております。
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