第26話 【side ガーネット】 抜け道?
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アレック王太子殿下と話した後に、腕の縄を切ってもらい、私は見張り役二人に挟まれるように廊下を歩かされ、部屋に案内される。
自分が何をすればいいのか、アレック王太子殿下に訊ねれば、詳しいことは明日、話すということだった。
「この部屋を使え。あと侍女が世話をしにくる。何かあれば、そちらに通せ」
見張り役に案内された場所はちゃんとした部屋だった。私はまた牢にでも閉じ込められるのかと思っていたけれど。
それでも豪華さは一切ない。客室というほどでもない。質素な部屋である。
部屋にあるものといえば、最低必需品と言うべきか、ソファーにテーブル、ベットがあった。花瓶はあれど、花は活けてなかった。
男たちが部屋から出て行った後に、私はベットに座る。マットは硬いかと思いきや、案外と寝心地の良さそうな硬さだった。
久々に寝心地の良い所で休める。そう思っただけでも、気持ちがホッと安堵した。
暫くすると扉を叩く音がする。
多分、見張り役の男が言っていた侍女が来たのだろうと思い「どうぞ」と返事を返すと、部屋の中に入って来たのは、一人の女だった。
歳は私より5,6歳くらい上だろうか。ショートヘアーで髪も瞳も暗めのブラウンだった。
「お着替えをお持ちしました」
私の姿を見てブラウンの瞳を見開き、あからさまに嫌そうな口調で侍女は言う。どうしてそんなに嫌そうな口調なのかは分からないけれど、自分の身なりはかなり酷いものだった。
この汚れは仕方がない。地下牢に閉じ込められ、森に放り出され、獣に襲われそうになり、馬に乗ってここまで来たのだ。今、思えば滅多に体験できない事ばかり。来ているドレスだってボロボロである。顔にもドロが付いていた。
あんな経験はもう、まっぴらだ。私は生き延びるために、取り敢えずここにいることに決める。アレック王太子殿下の機嫌を損なう事をしなければ、まだ何とかなるだろうと考えていた。
「お湯とタオルを貰えるかしら? 身体を拭きたいわ」
「こちらをお使いください」
部屋の中にもう一つの扉があり、案内された。そこはバスルームで、もうすでにバスタブにお湯が張られ、もこもこと湯気が立っている。
「お手伝いいたします」
断ろうと返事をする前に、手早くドレスを脱がされてしまった。
暫くの間、私の身の回りのお世話をしてくれるのは、この侍女のジェーンだ。
お湯から上がると、私はベットにうつ伏せにされ白い陶器の瓶を持ったジェーンが、中に入ったクリームを適量取り出し、マッサージを始める。
少しひんやりとしてピクリと体が跳ね上がった。
貴族令嬢でありながらも、貧しい男爵令嬢ではマッサージまでなかなか手が届かなかった。男爵家には私の専属侍女などもいなかったし、それ以外の人を雇うだけのお金もなかった。5人いたかどうかだ。だからマッサージなんてものは、今までに数える程度しか体験したことがなかったのである。
翌朝には私のお肌はつるっつる。昨夜、ジェーンの説明では、この国では寒さで肌が乾燥しカサカサになりやすく、保湿クリームが人気だとか。昨日は保湿クリームの中でも高級なものを使用したようで、朝起きてもその状態が続いている。
そして、翌朝になってもふんわりと優雅な香りが漂っていて、驚くことばかりだった。
王太子妃、王妃になれば、きっとこんな生活も出来るのだろう。そう思うと、欲が出てきてしまう。
クラウス様をお助けして、彼を国王にし、自分が伴侶となれば、それも夢ではない。
もう、王家とは関わらないと決めたけれど、俄然、やる気が出て来た。
朝食は部屋で一人で済ませる。贅沢な食事ではなかったけれど、とても美味しかった。柔らかいパン、温かいスープにハムや生野菜などがあり、あの牢の中で食べたものに比べれば、断然良かった。
「王太子殿下がお呼びです」
朝食が終わり、一息ついたころに騎士が呼びに部屋を来て、アレック王太子殿下の部屋に連れて行かれる。
部屋に入ると、アレック王太子殿下は椅子に座り、手に持った書類に目を通し、パラリと捲っていた。そしてまたパラリと捲る。その音だけが静かな室内に響いた。
そして私はただ、突っ立っているだけである。
彼は書類に殴り書きのようにサインをした後、やっと私の方に目を向けた。
「ゆっくり休めたか?」
机に頬杖をついて、アレック王太子殿下は私をじっと見つめ、訊く。昨夜と同様に冷めた瞳で無表情である。
「……はい。侍女の方にもお世話していただきまして、ありがとうございます」
「ガーネット嬢にはフランツ国に戻ってもらう。見つかればどうなるかは知らん――が囚われている王太子、国王、王妃を助け出せ。王太子だけでも良いだろう」
「私、一人でですか?」
そんなのは無理である。
王城の中までどうやって入るのか。顔も覚えられているかもしれないし、公爵様たちに会う可能性もある。それに――。
「それに、どうやって地下牢にまで……」
「この城にもあるが、有事になった時のための王族が使う極秘の抜け道があるはずだ。どこの城にもある。フランツ国の城の何処にそれがあるか知っているだろう?」
いや、知らないし……そんな抜け道があることさえ知らない。
有事となった場合の抜け道なら、王城の中から城外に抜ける道の事だろう。そんな道を男爵令嬢の私が知っているはずもなく。極秘とされているのなら、尚の事である。
知らないと答えれば、すっと目を細められる。けれど本当に私は知らないのだ。
「向こうの王太子とは、仲が良かったんだろう? それらしいことも聞いた事が無いのか?」
私は首を数回横に振った。はあ、と呆れまじりのような溜息を彼は吐く。そして、机の上に大きな紙を広げる。見るからに地図であった。それもフランツ国の王城とその周りの王都の地図だった。私もその地図を覗き込む。
「怪しい場所に印をつけてある。此処と此処の2か所とあっちに3か所とこっちに4か所だ。身に覚えがないか?」
アレック王太子殿下は予め×印をつけてある所を指を指す。全部で9か所である。
「ねえ、多すぎない?」
印の数の多さについ、タメ口で声が出てしまった。
今の言葉使いはまずかったわよね。
ちらりと彼を見れば、近くで彼の瞳と目が合った。
「ひっ……!」と声を挙げたくなるよな冷たい瞳で睨みつけている。
「この9か所の何処かだ。何か訊いていないのか?」
私は慌てて地図をもう一度見直した。印の付いている所は王城の外だ。
「このどれかが王城の中に繋がっているのですよね?」
「一つとは限らないが――」
「はい?」
「どれもどこかの抜け道のようだが、何処に抜けているのか分らない。抜け道だと思わせて、囮の可能性もある。騎士団の練習場に繋がっているかもしれないと報告も上がっている」
ああ、と私は頭を抱えた。その可能性もあるかもしれない。だって、あのペテン師のブル公爵様がいるのだ。王城に繋がっていると思わせて、ブル公爵の騎士団の敷地に出るなんてこともあるのかもしれない。
「心当たりはないのか? そういう話を聞いたこともないのか?」
うーんと私は思い出してみる。
そういう話はあったのかな。あったような気もする。けれど――。
そこまで悩んで、何かが引っ掛かった。
何故、この国はフランツ国の王家の極秘の抜け道を探しているのか。
クラウス様を助けるためにと言うのは、理解できるけれど。けれど、一晩でこれだけの事は調べられないはずで、以前から探していたんじゃないかと。
何のために――?
他に目的がある?
私の心臓がどくん、となった。得体の知れない不安な気持ちが押し寄せて来る。もしかしたら父が言っていた『きな臭い』と関係があるのか。
「何かないのか――?」
私が黙ってしまったことで、アレック王太子殿下が苛立ち始める。
「あ、はい……。直ぐには思い出せません。少し時間を頂けませんか?」
「昼までだ。それ以上は待てない。それを過ぎれば、また山に捨てられると思え」
「わ、わかりました……一旦、部屋に戻らせていただきます」
私は一礼をし、部屋から退出した。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
長く続きました、ガーネット視点。次話で一旦終了です。
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次回更新は6月12日0時10分頃の更新予定をしております。
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