第25話 【side ガーネット】 また縛られる
リアクション、ブックマーク、ありがとうございます。
今回もガーネット視点です。
拙作ですが、よろしくお願いします(#^.^#)
現在の私は、また両手首を縛られていた。
今度は体の前ではなく後ろにである。
獣を退治した後、私がフランツ国から来たと男たちに告げると、青年は不気味に口角を上げた。
「フランツ国から来たという事は、あちらの情報を何か持っているんだろう。連れて行け」
青年は平坦な声で男たちに命令すると、彼らは私が身動きが出来ないように、身体の後ろで両手を縛る。
後ろで手を縛られ分かった事と言えば、ブル公爵様はまだ優しい方だったんだと思った。腕を後ろに回され手を縛られると、前より自由がないし、何より地味に痛かった。
そして、鎧を着た男の馬に無造作に乗せられる。乗馬の経験なんかない私は、馬の背の高さに怯んだ。
「怖い」と言っても無理やり乗せられ、男も一緒に乗った。
一体、何処に連れて行かれるのかと、不安と恐怖が膨れ上がる。
ブル公爵様が『武装したやつには気を付けな』と言っていた事はこのことだったのだろうか。
暫く馬に乗せられ、山道を下り進む。寒さが次第に強くなり、完全に陽が沈み、辺りが真っ暗になる頃に、大きな街に辿り着いた。暗い空からは、まるで、小さな花びらが舞い散るように、白いものがはらりはらりと舞い降りて来た。地面に落ちると、すうっと消える。顔に降りてくれば、ひんやりと冷たい。これは――。
以前、父から聞いたことがあり、幼い時にも絵本で見たことがあった。
「……雪?」
「そうだ。雪を見るのは初めてか?」
青年も空を見上げ、こちらを見ずに訪ねて来たので、私は「はい」と頷いた。
「そうか……」
確かにフランツ国の王都では見たことがない。国境の山脈の麓では、降ることがあると聞いていた。でも、王都しか知らない私には、これが初めての雪だった。
街の中に入ると、明かりは外の寒さとは対照的にオレンジ系の温かみのある色で輝き、賑やかな雰囲気だった。そして、その街の奥には岩頸の上に建つ城が見える。
街の大通りを抜けると橋があり、城まで続く一本の上り坂に出た。その上り坂を私たちはさらに進む。
次第に街からは離れ、岩頸の上に建つ城に向かうと、大きな門が現れた。
門番をしていた兵士、数人が一斉に頭を下げる。その間を私たちは通り抜け、城の入り口まで来ると、馬から降ろされた。
「連れてこい」
青年が二人の男たちに命令すると、「はっ!」と返事をした後は、無言で私を引っ張っる。私も黙って歩くしかなかった。
周りを見ながら歩くと、街の雰囲気とは違い、重々しい感じである。騎士たちが所々の建物の入り口に立って監視をしているようだった。
ここは……要塞?
それにしても、ピリピリと不穏な空気が伝わってくる。
多分、アールムの国境付近なんだろうと思う。けれど、フランツ国の王都しか見ていない私には、すごく異様な雰囲気に感じた。
城の中に入ると、一つの部屋に通された。引っ張っていた男が、後ろに手を縛られた状態で、私を放り込むように部屋の中に押し込んだ。
「きゃっ!」
私はバランスを崩し、絨毯の床に倒れ込む。
目の前には、机に寄りかかり立っている青年がいた。
部屋には明かりがなく、薄暗い。外の方が明るく、大きな窓からは、雲の切れ間から月明かりが部屋に入り込み、ぼんやりと照らしているようだった。
その薄暗い部屋には大きな机と少し離れたところにローテーブルとカウチが置かれている。暗くてよく見えないけれど、上質な革張りのように見えた。
「さて、お前の名を訊こうか?」
睨まれているわけでもない。けれど凍てつくような瞳にゾクリと寒気が走る。
「ガ、ガーネット……ガーネット・ローザンです」
「貴族か? 爵位は?」
「男爵令嬢です……こ、ここはどこですか?」
こちらから質問をすると、一緒に入って来ていた男の剣を抜き、私の首に当てる。
「ひっ」
私は悲鳴を洩らした。今日何度こんな目にあうのか。
私みたいな小娘が、質問をするなということだろう。
「仕舞え――」
青年が言葉を発すると、男は一呼吸置いてから剣をしまった。
「ここは、アールムのエディン城だ。ウラキー山脈の麓にある城だ。我が名は、アレック。この国の王太子だ」
「……え?」
高位貴族だと思っていたけれど、まさかアールム国の王太子だとは思いもしなかった。
「ガーネットと言ったな。フランツ国では今、騒がしいようだが、何が起きている?」
「…………」
正直に答えて良いものか迷った。
よくよく考えてみれば、もしかしたら、その騒がしい根源が自分にあるかもしれないと。いえ、私が関わっている事なんて、ごく一部にすぎないわ。
そうよ、私の事は伏せて、簡単に答えればいいのよ。
「情報を持っていないのなら、山へ放り出しての良い。また、獣の餌食になるだけだ」
「えっ、ま、待って、答えます……」
もう、あんな目に会うのは二度と御免だ。
「第二王子が……国王と王妃、そしてクラウス様を捕らえて、牢に閉じ込め、第二王子が王位を継ぎました」
アレック王太子殿下から、じっと冷めた瞳で見つめられる。
「クラウスというのは、あっちの王太子か?」
「う、嘘ではありません……」
「理由は? 捕らえられた理由――は?」
「……わかりません」
「クラウス王太子の婚約者はどうなった?」
鋭い瞳で見据えられ、私はゴクリと喉を鳴らした。
まるで、理由なんてどうでもよくて、婚約者がどうなったかを知りたいようだった。
「……ク、クラウス様が……婚約を、破棄をされました……」
「嘘をつくな」
低い声で吐き捨てるように言い、彼は少し顔を歪ませる。
「確か相手はロッソ公爵令嬢だったはずだ。フランツ国では力の持った公爵だ。そこの令嬢との婚約を本当に破棄したのなら、奴は相当の馬鹿なのだろう。まさか、婚約破棄をして、他の令嬢を婚約者にしたというのか。もし、そうならどこの令嬢だ?」
それは、私です――とは言えない。そんな風に言われて名乗り出れるわけがなかった。
どう答えようかと考えていると、両膝を床に付いて立っている私をアレック王太子殿下の瞳が、すっと細め私を見下ろす。
「まさかとは思うが、お前か――? そうか、それでか? 大方、公爵に国外追放されたんだろ?」
まるで、見ていたかのように彼は話す。
このアレック王太子殿下は、勘が良すぎない?
「そうか、それで国外追放か」
いや、まだ私は何も言っていない。当たっている、当たっているけれど。
アレック王太子殿下はカウチに身を沈め、テーブルの上にある瓶を脚のあるグラスに注ぎ、窓から入り込む灯りにそのグラスを掲げる。
薄暗い明かりでも、赤紫が見え葡萄酒だと分かった。
彼は軽くグラスを回し香りを楽しみ一口飲む。
「王太子を助けてほしいか?」
思いもよらない言葉を聞いた。
クラウス様を助ける?
そんな事が出来るの?
「こちらの希望を聞けるのなら、第二王子を排除してやってもいい」
アレック王太子殿下は悠々と寛ぎながら、無表情のまま私を見下ろしていた。何を企んでいるのか分からない。第二王子ジルベール殿下を排除してクラウス様が王太子、国王になったところで、彼に何のメリットがあるというのか。
相手は一国の王太子で、私はしがない男爵令嬢である。そんな彼の心を読むような芸当など出来るはずもなく。
けれど、ここで断れることが出来ないような気がした。
「別に聞けないのなら良い。山に捨てるだけだ」
やっぱり――。
結局、そうなるのだろうと予想は出来た。私に選択肢などない。山にまた放り出されれば、先程のように獣に襲われるだろう。ここからルソル国に逃げ込める確率なんて分からないけれど、かなり低いはず。
「アレック様王太子殿下……。クラウス様を助けてどうするつもりですか?」
「第二王子を排除してやると言っている。あれを排除すれば、王太子に戻れるだろう? そうすれば、お前もめでたく王太子妃になれるぞ」
乾いた声で彼は笑いながら言った。
もう、王家に関わるのはウンザリであったけれど、山に捨てられ、生きられるか分からないのなら、アレック王太子殿下の願いを訊いても良いのかもしれない。
ほんの数秒考えていると、強い視線を感じた。
見上げれると、「ガーネット嬢――」と抑揚のない声で呼ばれる。
逆らう気か――、と彼の心の中の声が聞こえた……ような気がした。
「わ、わわかりました……私は何をすればいいのですか?」
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次回更新は6月5日0時10分頃の更新予定をしております。
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