第24話 【side ガーネット】 北のアールム国
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まだまだ続くよ。ガーネット視点。
拙作ですが、よろしくお願いします(#^.^#)
ぽつんと残された私は、ただただ、呆然と立ち尽くしていた。
馬車の揺れが気になっていたけれど、やっぱり険しい山道を通って来ていたんだと、思い知らされた。
十数分前――。
ガクン、と馬車が揺れ止まった。
山道を下った所で馬車から降ろされ、ブル公爵様に短剣で縛られた縄を切ってもらえる。
「お嬢ちゃんをこんな所に一人にするんだ。手ぶらで放せば、俺は良心の呵責に苛まれてしまう」
ブル公爵様はにやりと笑う。心にも思っていないだろうと予想がつく言葉を言うブル公爵様から、縄を斬った短剣を手渡された。
「まあ、何かの役には立つかもしれんな」
「どうせくれるなら金目の物が良いわ」
少し重みのある短剣を手の平にのせ、呟く。
同情してくれるなら――金目をくれ。その方がまだ良い。
「そんなものは役に立たないさ」
「見てなさい! 私が死んだら呪ってあげるわ!」
ブル公爵は声を抑えるように、また笑う。
そんな公爵様に腹正しく思うけれど、知らない土地に放り出されるのに、自分でも驚くほど落ち着いていた。こんな性格だったのかと。もっと、泣き暴れるものだと思っていたけれど。
思考が追い付かず、どこかまだ、他人事のように考えているのかもしれない。
手の平の中にある短剣だって、見た目はそう華やかなものでもなかった。ごくごく普通の短剣だ。宝石が埋め込まれているものでもない。鞘にはツタ模様が施されていたけれど、華やかな装飾は殆ど無かった。売ったとしてもきっと、大したお金にはならないだろう。
そんなことを考えていた。
「他に何もないの? 寒いし……やっぱり凍死させる気なんでしょ?」
そんな事を言ってみれば、ジロリと女性騎士に睨まれる。
「そんなに睨んでやるな。寒くても凍死するほどでもないだろう。そういえば馬車の中にブランケットがあっただろう。それも渡してやるよ」
持たされたものは、少し薄めのものだった。けれど、無いよりかマシである。
「もう無いの? 凍えなくても空腹で死んでしまうわ」
食べ物まで貰えるとは思わなかった。ただ、言うだけでもタダ。図太くダメもとで言ってみた。
ポイッと小さなリュックを無造作に投げ渡される。
「パンが入っている。2、3日分はあるだろう。もう何もないから、強請ってもなにも出ないぞ」
「…………」
言ってみるものだと思ったけれど、私はリュックを見つめた。
リュックの中に食料が用意されていたことを考えると、どうやら最初から用意されたものなのだろう。もしかしたら、言わなかったら短剣しか渡してもらえなかったのかもしれない。最初から、すんなりとすべて渡してくれれば良いのに……。
「お嬢ちゃん、元気でな! 運が良ければ、また会う事もあるかもしれないな!」
社交辞令的な言葉を残し、ブル公爵様は再び馬車に乗るとフランツ国に戻って行った。
慌ただしく帰って行った馬車が見えなくなると、辺りはシンと静まり返る。陽は高い位置にあったけれど、左の方向に傾きかけていた。だから、周りはまだ明るい。
そして冒頭に戻る――。ぽつんと残された私は、ただただ、呆然と立ち尽くしていたのである。
馬車が去って行った方向をじっと見据えた。
後を追えば、この道を行けば帰れるのかもしれない――。
そんな考えが過った。けれど、ここまでの道中、馬車にはカーテンが敷かれ、殆ど外の様子が分からず、ここまで来たのである。道のりが分からない。一本道ならその道を辿れば良い。だが道が分かれていたら――。
それでも考えている余裕も暇もなかった。出来れば、こっそりフランツ国に戻りたいけれど。それでなくても、寒さを凌げるルソル国まで辿り着ければ。
私は食料の入ったリュックを背に、ブランケットを抱え、馬車が行った方向に進むことにした。
天を見上げ、陽の傾きを見る。先程よりさらに低い位置にあった。
早くしないと、陽が暮れる。気温も下がってくる。
ブルリと寒さが背筋を通った。
馬車から降りた時より寒い。私は手に持っていたブランケットを羽織り、ふらつく足を進めたけれど――。
「あれ? え? どういう事?」
何かおかしい事に気付いた。陽が左に沈んでいく。
「ま、まさか……まさか! 北に向かっている?」
確かに馬車はこっちの方向に向かって行った。途中分かれ道があり、私はてっきり南に向かっているのだから右に進めばルソル国との国境に出ると考えていたけれど。
陽の位置からして、馬車は南の方向には進んでいなかった。北を目指していた。そして気付いた。分かれ道の所をブル公爵様を乗せた馬車は左に進んだのだと。
私は大きな溜息を吐いた。
「わざと……わざと、北に向かったのね!」
気前の良い振りをしたブル公爵様に、まんまと騙されたのである。
「あのペテン師が!」
輝いていた陽はその明かりさえ薄くなり、辺りは暗くなってきた。余り気にならなかった風も次第に強くなってきた。ざわざわと揺れる木が森の不気味さを一層際立たせた。一人残された私は、急に恐怖に包み込まれる。
アオーーン
初めて聞く鳴き声に、私の体が飛び跳ねた。
遠くで甲高い尾を引くような獣の遠吠えが聞こえたのである。
「な、なな、何の動物かしら……?」
とても小動物が鳴くようなものでは無い。
警戒しながら来た道を戻ろうとした時――。
ガサガサ、ガサガサ。
草の茂みから何かが近づいてくる。
ググググ……。
低く唸る声が微かに聞こえた。目を凝らし、そちらの方を見る。ギラリと光る眼がいくつも見えた。差し迫っている危機の正体が大体見当がつく。ここは危険と頭の中で警鐘を鳴らしている。じわりと額から汗が流れた。
グルグルグググ……
「ひぃっ! あれは? お……狼……? こ、こっちに来ないで……」
数匹の獣は頭を下げ、低い姿勢のまま、こちらにゆっくりと向かってくる。口から白い鋭い牙が見える。私は震える足で一歩、一歩、ゆっくりと後ずさりをした。けれど、地面から少し出っ張った岩に踵が当たり、躓き後ろに倒れた。その一瞬で、狼が走り私に襲い掛かろうとしてきた。
「ああ、もうダメ……こっちに来ないで!! いやあ!!」
もう駄目だと、両眼を思いっきり瞑った。
その時――。
ヒュッと風を切るような音と、何かがグサリと突き刺す、何とも言えない不快な音が数回と獣が悲鳴を上げる鳴き声が聴こえた。それからは、獣が襲ってくる様子もなく、私は恐る恐る、そっと目を開けた。
目の前の光景に、これでもかと思う程、目を見開き驚いた。
「……っ!!」
数匹の獣は、目の前で息絶えていたのである。それもすべての獣の胴や頭に矢が刺さっていた。
た、助かったの?
残虐な見慣れない光景に驚いていると、馬に乗った3人の男が現れ、彼らは手に弓を持っていた。この矢は、彼らが放ったものだろうか。
男三人のうち、二人は鎧を身に纏い武装し、もう一人を挟むように馬に跨っていた。見るからに真ん中の男を護衛しているようだった。
アールム国の上位貴族かしら?
「お前はどこから来た?」
鎧を着た一人の男が、こちらを鋭い目で睥睨しながら、私に訊く。もう一人の男は弓に矢を仕掛け、こちらに向けていた。それだけでも恐怖を感じるはず。けれど、その男二人より真ん中の男から目が離せなかった。
人形のように端正な顔立ちに雪を思わせるような銀髪に、一瞬で何もかも凍らせてしまうようなグレーの瞳を持った青年である。
「何処から来た?」
低い声でその青年に訊ねられ、一層、私は震えあがって声が出ない。口を動かそうにも震えて上手く声を発せない。
「……下ろせ」
その青年は弓を構える男に命令した。男は不満そうにも命令に従う。
青年は馬からおり、こちらに向かってゆっくりと歩いてくる。そして傍まで来ると、未だに怯えて立てずにいる私を冷たい視線のまま見下ろし、じっと見つめる。
「……迷子か? 何処から来た?」
「フ、フランツ……」
何とか声を絞り出した。けれど、そう答えるとまた、青年の後ろの男が弓を構える。鈍い輝きを放つ矢が目に映る。
「!!」
「下ろせ!」
青年は、また低い声で命令する。男はすっと弓を下ろした。
『フランツ』と言っただけで、弓を向けられる。青年以外の二人は殺気を丸出しにしていた。
「フランツからか? 不審な馬車が国境辺りをうろついていると報告を受けて見に来たが、それはお前か?」
青年は生きているのかも分からないほど無表情で、私に問う。殺気を漂わせている二人の方が余程人間らしさが出ていた。
「わ、私は……お、おそらくですが、その馬車から放り出された者……だと思います」
「――放り出された?」
青年は微かに眉を動かした。私はゴクリと固唾を呑む。
彼らはアールム国の人間だろうけれど、何者か分からい。けれど、獣から助けてもらえたのだ。悪い人達ではないのではと思いたいけれど。そして、一人でいれば、いつまた獣に襲われるか分からない。こんな所で一人でいるより、この人たちに助けてもらった方が良いのかもしれない。
「……はい。何もしていないのにフランツ国から……国外追放されたのです」
本当に何もしていない。
ただ、王太子の婚約者になろうとしただけだった。
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次回更新は5月29日0時10分頃の更新予定をしております。
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