第23話 【side ガーネット】きな臭い国
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今回もガーネット視点です。
拙作ですが、よろしくお願いします(#^.^#)
翌朝、と言っても、相も変わらず陽の光は届くはずの無い場所で、「朝食だ」と食事を用意されたことで、今が朝なのだと分かった。
用意された食事を見て、嘆息を漏らす。
「何よ、昨日と変わらないじゃない……」
昨日の食事と殆ど同じもので、硬いものや冷めたものだった。
もう少し真面な食事は出ないのかしら?
そして自分の性格にもうんざりした。
国外に追放されると分かっていても、食べるものの事を考え、目の前の食べ物を食べてしまっていることに。貴族令嬢であるけれど、贅沢な暮らしをしていなかったからなのか、自分が意外と肝が据わっていることに気付いた。
硬い、冷たい、朝食が終わった頃、ブル公爵様と女性騎士二人が地下牢に来る。
女性騎士たちが、私の両手を無理やり体の前で縛った。一応抵抗はしてみたものの、やっぱり彼女たちには敵わなかった。
ここから離れる前に、両親に会いたいと、一応願い出てみたけれど、却下され、そのまま馬車に乗せられる。
なんとまあ、無慈悲な人たちだ。もう、両親には会えないのだろうか。このまま、国外追放になれば、もう会う事も出来ない。こんな事なら、伯爵家でも良いから、そのあたりの婚姻を狙っていれば良かった。今更ながらに思った。欲張って上級貴族に、ましてや王族などとは……。
この先、どうなるのかと不安になる。
外は陽がまだ昇っておらず、辺りは薄暗い。目立たないように城から出るためだろうと思った。
私の横に座ったのは女性騎士一人、向かい側に座ったのが、ブル公爵様だった。
馬車の中で、私みたいな男爵令嬢と公爵様が二人っきりになった所で、変な噂なんて立たないだろうにと思いながらも女性騎士が一人、一緒に乗ってくれたことに安堵する。
馬車の窓はカーテンが閉められ、外の様子が一切分らない。
王都から出たことのない私には、何処に向かっているのか全く分からないのである。ただ、少し肌寒く感じるだけだった。
寒くなって来たという事は、南の方では無いことは理解した。なんとなく学園で習った事を思い出す。北に目指しているのだろうか。
「まさか、アールム国に追放?」
考えていたことが口から洩れた。
「さあ、どこかな?」
ブル公爵様が口角を上げ、にやりと笑う。
多分、当たっているだろうと自分の勘がそう言っていた。
「少しづつ寒くなってきているわ。北に向かっているのでしょう! 私を国外に追放すると言って、結局は凍死させるつもりなんじゃない! ……クラウス王太子殿下とまだ婚約もしていない令嬢を一緒に地下牢に閉じ込めておくわけにはいかないわよね。国外追放にして、どこかで凍え野垂れ死んでしまえば良いと思っているんでしょう?」
少し嫌味を含めたことを言うと、一瞬にして私の首にピタリと鈍色の刃の短剣が押し当てられている。
「なっ……!!」
息が詰まった。
空気が張り詰め、体が強張り、肌が粟立つ。鈍く光る刃の短剣の持ち主を横目で辿れば、隣に座っている女性騎士だった。
彼女の瞳は目で人を殺められるほどの眼光を放ち、今にもその短剣が私の頸動脈を狙って斬りつけようとしていた。
「……やめろ」
ドスの効いた声で、ブル公爵様は女性騎士に命じる。
命令通りにサッと、彼女は短剣を仕舞う。いつ取り出したか、どうやって仕舞ったのか分からない程、無駄な動きがない。まるで、暗殺者のようである。
女性騎士が一緒だから安心していたのに、この騎士が一番危ないじゃない!!
ブル公爵様の騎士団はこんな人材を育てているのかと考えた。物騒な人材だわ。
けれど、軽く頭を振り、そんな考えを追い出す。今更、そんな事を考えても仕方がないと。
そうだ、とブル公爵様は声を先程の高さに戻し、思いついたように話を始めた。
「お嬢ちゃん。君がクラウスに目移りしたから良かったものの、あのままカール・エバンスに諦めずに近寄っていたら、その首が胴体から離れていたところだ」
「ひっ……!」
背筋に寒気が走る。
一瞬、想像してしまった。ブル公爵様はとんでもない事を言う。
な、なんて恐ろしいことをいうのよ!
「……ま、まさか、そこまでしないでしょ?」
「ロッソ公爵の我慢の限界が来ていたよ。公爵家を怒らすと怖いぞ」
まさか、そんな事になるとは露とも思わず。
クラウス様を選んだことを後悔していたけれど、カール様にくっ付いていたら、首をはねられ、早死にしていた?
冗談じゃない!!
私は身震いをした。それは決して寒さだけの理由ではなかった。
少し道を上っているためか、後ろに体が傾く。道も険しくなってきたのだろ。馬車の揺れが激しくなってきた。
確か、アールム国はウラキー山脈とヒラデス山脈の間を抜ける道を通り、その道はルソル国にも続く道だと、以前、お父様から聞いたことがあった。そのお父様とはもう会う事も出来ないのだけれど。最後のお別れも言わせてもらえなかった。
確か、アールム国の隣国はルソル国だったはず。もしかすると、上手くいけば、ルソル国に逃げれるのかもしれない。
そんな淡い期待を密かに持ち、黙って馬車に揺れる。
「お嬢ちゃん。もしかしたら、ルソル国に逃げ込めると思っていないか?」
バレていたか。私は反射的に公爵様から顔を逸らした。
「まあ、可能性はゼロではないな? しかし、限りなくゼロだ。何故か、分かるか?」
「そんなもの、男爵令嬢ごときに分かるわけないじゃない……」
「そうか……そうだな。目的地に着いてみれば分かる」
話の流れで、やっぱりアールム国に連れていかれるのだと理解した。
結局、アールム国で凍死させようとしているんじゃない。けれど、どうしてルソル国に行ける可能性がゼロに近いのよ……。行ってみないと分からないじゃない。
口に出して言い返してみたかったけれど、隣の女性騎士が目を細め見下ろしている。余計な口答えをすると、また短剣が首に突き付けられる勢いを感じた。
「まあ、何も知らないのは気の毒だな。俺もこんなお嬢ちゃんをあんな場所に放りだすんだ。少し教えてやってもいい」
ブル公爵様は白々しい事を言うと、不敵な笑みを浮かべる。
「教えていただけますか?」
とにかく王都から出たことのないのだ。
どんな情報でも下さいと心の中で叫びつつ、クラウス様にお願いしていたように、可愛らしく首を傾げ微笑んでみた。けれど、自分でも分かった。頬がピクピクと震える。攣りそうだわ。
「まあ、話したところで世間知らずのお嬢ちゃんに理解出来るかは疑問だが……」
ククク、と大声で笑いたいのを堪えてブル公爵様は喉を鳴らして笑う。
馬鹿にされているのだろうと思うけれど、そんな事はどうでも良かった。こちらとしては生きるか死ぬかの瀬戸際というほど大げさなものではないのかもしれないけれど、それに近いものを感じた。
早く、教えなさいよ!
心の中で叫びながら、私はもう一度微笑した。
「アールム国では、今、食料と鉄等の輸入が増えている。何故か分かるか?」
コミカルな口調で公爵様は私に訊く。
「そんなの……寒さに備えて、でしょ?」
「寒さにか?」
「……ち、違うの?」
しかし、少し話がおかしい。父から訊いていた話と少し違う。
私の父は工芸品の輸入品を扱う商会をしていた。その逆も――商品の数は少ないけれど、輸出もしていた。最近アールム国とはめっきり取引が無くなったと聞いた。そして、『きな臭い』とも言っていた。
きな臭い――
あれはどういう意味だったのだろうか。
男爵令嬢の私には小難しいことは分からない。
「寒さってことにしておくか!」
それはおかしいじゃない、と突っ込みたくなった。食料はともかく、鉄等がどうして寒さ対策になるのか。
「な、なによ! それ! どういう意味よ! ちゃんと教えてよ!」
敬語も使わず、タメ口で叫べば、隣の女性騎士から睨まれる。鍛錬をしてきたわけでもない、ごく普通の令嬢の私にでも、この時ばかりは殺気を感じたのだった。
その後、暫くブル公爵様は口を閉ざす。長い沈黙が続き、何も話してくれる様子がないのである。何か話をすれば、この嫌な空気も少し晴れるのかもと思い、私は持っている情報で公爵様に質問した。
「……父は工芸品を扱う貿易をしておりましたが、アールム国との取引が少なくなった、と嘆いておりました。アールム国の輸入が増えているというのは可笑しいと思います。そして、あの国は『きな臭い』とも言っておりました。公爵様……その『きな臭い』とは、どういう意味なんでしょうか?」
質問をすれば何かしらの答えが貰えるはず。そうでなくてもヒントぐらいは教えて貰えると訊く。
一瞬、動きが止めた公爵様は、切れ長の青い瞳を軽く見開き、少し驚いた表情を見せた。その瞳に私を映していた。
「きな臭い……か」
低い声で呟き、威圧感を出すブル公爵を見て、私は息を呑んだ。
「い、一体……何があるのですか?」
「国王より貿易を営む男爵の方が情報を持っていたという事だな。確かに我が国のアールムの輸出は減っている。他国からの輸入が増えているんだろう。まあ、お嬢ちゃん、武装したやつには気を付けな。そんなやつらに会わずに上手くいけば、アールム国でひっそりと暮らしていけるだろうよ。お嬢ちゃんは意外と逞しそうだから大丈夫そうだ」
「他の情報は? それだけしか教えてくれないってこと!?」
はあ? ……え、それだけ?
結局、武装してやつには気を付けろ、しか聞いていない。それも私なら逞しそうだから大丈夫だろうと……。
褒められているのか、馬鹿にされているのか、結局はその後、何が『きな臭い』のかも教えてもらえず、情報も得られないまま、国境を跨いだ所で馬車から降ろされ、私はブル公爵様が去っていくのをただ一人立ち尽くし、見ていた。
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次回更新は5月22日0時10分頃の更新予定をしております。
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