アルベルト 山狩り
騎士や衛兵は貴族の粛正や邸宅の破壊で忙しそうだな。
訓練しかしてないのが悪い気がするぜ。
それを把握しているかのようにケヴィンに声をかけられた。
「アルベルト暇だろう?ちょっと山狩りに行かないか?」
「ケヴィンも行くのか?」
「いや、俺はここの護衛も兼ねてるから離れられない。アルベルトが皆を連れて山で肉を獲って来てほしい。晩飯は鉄板焼きが良いな。訓練は足りてる。ただ野生の動物はそれだけでは狩れない。連携が必要だからな。多ければ燻製にして保存も出来るし悪い事は何もない。ただ油断すると殺されるだけ。実戦より楽だが、良い訓練だろう?」
「間違いない。城の裏山に入って行って良いのか?」
「ああ、申請はしておいた。今日中に帰って来るなら問題ない」
「分かった。偶には俺達も食糧を用意しないと悪いと思っていたところだ。クルト、騎士志望の奴を全員集めてくれ」
「分かったぜ、ボス」
改めて見ると100人以上はいたスラムの住民の半分は、やりたい事を見つけて中で勉強しているんだよな。
本当に凄い事だよ。
この前の話で、孤児院の人間は全員王女様に付いて行くだろう。
そりゃそうだよな。
あんな話を聞いて王都で仕事なんてしてられないだろう。
私達がこの国の中心になるって宣言していった。
どんな職業になりたい奴でも近くにいたい魅力があるんだ。
本当にどこまで進んでいくのか楽しみだ。
王都が霞むような街を作り上げそうだ。
最終的に城すら潰すつもりかもな。
王国の中心になるなら、城がここにある必要が無いからな。
命懸けで本気で歩いている人間は魅力的に見える。
隣にいるエリエッタは同じ孤児だったんだろ?
直感だが、完全な別人になっている。
俺達全員で勝てるか?
無理な気がするな。
それくらい違う。
劣等感が無い訳ではないが、それ以上に楽しみだぜ。
王女と孤児が並んで国を作るんだ。
参加しないともったいないぜ。
「ボス、いいですぜ」
「よっしゃ、集まったな。俺もお前らも日頃の訓練で、ただ飯の食い放題だ。偶にはお返しが必要だと思うだろ?今から山に入って野生動物を狩る。軽く考えるなよ、野生の獣は強い。人間を軽く殺せる力を持っている事を忘れるな。装備を整えろ。相手にした獣に合わせた連携をするぞ。山にいる動物の知識は頭に入っているな?10人1組で5班作る。目標は5匹以上だ。じゃあ行くぞ」
「おっしゃー!」
甲冑を着て城まで歩くだけでも結構きついな…。
騎士は領の奥まで行く事もあるんだから、この程度で疲れてたら仕事にならねーな。
「いいか。獲物は猪、鹿、熊だ。他は無視しろ。狩ったら直ぐに下山して麓近くで血抜きだ。時間があるなら、また登れば良い。山の中は足音に気を付けろ。気配を消す事を意識しながら行動するぞ。獲物が獲れなくても夕暮れ前までには下山する」
「おう!」
「ここからは班行動だ。散開!」
「おう!」
良い緊張感だ。
孤児院の中とは違う。
誰にも守られていない世界。
久しぶりに胸が熱くなるな。
訓練しても悪ガキのままなのかもな。
足音を消す合図を仲間に送る。
(良いか。相手は鹿だ。逃げ足が速い。足音と風の向きに気を付けろ)
(おう)
(群れでいるが欲張るな。1匹だけ確実に仕留める。焦るなよ)
(おう)
よし、いいぞ。
後はタイミングだ。
待ての合図を仲間に送る。
ん…。
鳥の鳴き声が聞こえる。
鹿を見ろ。
今、何を意識している?
確実に鳥の鳴き声を聞いたはず。
どこを見ている?
やはり鳥を見ているな!
行けの合図を仲間に送る。
俺は鹿の群れの一番奥に石を投げた。
鹿は突然の石の音に焦ったはずだ。
よし、鹿がバラバラに散った。
「今だ!」
草むらに隠れ、近くまで逃げて来た鹿の首に剣を突き刺した。
「よし、2匹狩れたな。一回下山して血抜きするぞ」
「おう!」
やはり神経を使うからか、かなり疲れている。
時間はあるが、どうする。
仲間の顔を眺め決断した。
「今日はここまでだ。血抜きをしながら仲間を待つぞ」
「分かりました」
昼過ぎまで待って、4組ちゃんと下山したな。
ここまで鹿5匹、猪1匹だ。
悪くない。
後はクルトの班か。
あいつは馬鹿じゃない。
皆で探す方が危険だな。
夕暮れ前ぎりぎりに下りて来た。
「ボス、遅くなりやした」
「本当だぜ。でかい猪だな。重かっただけか」
「はい。やっぱり山はきついですぜ」
「山がきついなら戦場は地獄だぞ。いや、実際に地獄だ」
「そいつの血抜きが終わったら帰るぞ」
「分かりました」
戦果があるから胸を張って帰れるぜ。
「よっしゃ、今日は肉を食うぞ。帰るぞ!」
「うぉー!」
孤児院に帰るのが当たり前に感じるぜ。
少し前まで憎んでいたのによ。
「悪い、少し遅くなっちまった」
「戦場も似た様なもんだ。生きて帰ったら勝ちだよ」
「本当にそうだな」
「十分な戦果じゃないか。訓練場で鉄板焼きの準備が出来てる」
「おいおい、随分と信頼されてるな」
「お前に限って戦果が無しとは考えてないからな。それに王女様達が楽しみに待ってるぞ」
「どれだけ身軽なんだよ王女様は。お前ら、全員汗を流して夕食まで休憩だ」
王女様と孤児の距離が近過ぎるだろう。
信頼されていると考えるべきか。
「アルベルトお疲れ様。良い戦果ね。お肉が楽しみだわ」
「王女様が来るのが分かっていたら、もっと頑張ったぜ」
「そうなの?緊張させないように黙ってたんだけど」
「どっちが正解か確かに分からんな。頑張り過ぎる奴もいるから」
「じゃあ黙ってて正解じゃない。危ないわよ」
「まぁそうだな。夕飯を楽しんでいってくれ」
ふぅ、久しぶりに緊張感のある1日だったな。
王女様が来るのが分かってたら、獲物が獲れるまで下山しない奴がいそうだ。
外を眺めたらセバスのおっさんが猪を捌いてるじゃねーか。
何でもありだな、あのおっさん。
その横で同じように捌いているのはエリエッタじゃねーか。
刃物を持っている姿が様になっている。
やっぱ勝てそうにねーわ。
エリエッタとセバスのおっさんがダブるな。
まさか、セバスに鍛えてもらってるんじゃないだろうな?
案外そうかもな。
あの子は何でもありな気がするからな。
「おい、肉を焼くぞ。全員訓練場に皿とナイフ持って集まれ」
ケヴィンが呼んでるな。
「はーい」
「早く行くよー」
「肉、肉、肉」
さて喰うぞ。
肉が焼ける良い匂いがしてきやがった。
「ボス、やっぱ自力で獲った肉は上手いっすね」
「ああ、本当に格別だな。今日の疲れが最高のスパイスになってるぜ!」
アルベルトは賢いです戦果無しはないですね。
セバスはエリエッタに肉を斬る事を教えています。
本当なら一緒に山狩りに行きたいのですが、王女様の護衛ですから獲物を捌く事で、肉を斬る感触を知ってもらおうとしています。




