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紙上史  作者: こーりょ
2 はじまりの街を出て
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2-26 暗がりの洞窟

「なんなんだ!!!! ここは。わけがわからん!!!!」


 無駄な大声を出しながら、“戦闘バカ”であるグルーンが魔物を刺し殺す。彼は普段、拳の方が戦っている実感が強いという理由で武器を持ち歩かないが、今回は難易度もあって刺すことに特化したナイフも持ってきていた。そしてその判断は正解だったことを身にしみて感じている。

 ギルドのリーダーであるベニヒが脇から飛びかかってくる魔物を器用に切り裂きながら、腰に下げた酒をあおった。

「本当にここはどこだ? 中心まであとどんくらい??」

「姉さん! こんな時まで酒を飲むのはやめて、マジで!」

 そのグリエの声は反響することなく辺りに吸い込まれる。回復係のミヨが眉を寄せた。なぜ音が響かないのか。他にもおかしい点は多くある。つけた光が数メートル以上先まで届かないため、視界がはっきりとしないのだ。まるで洞窟が光や音を吸収しているかのように。

 そして一本道の洞窟であるにもかかわらず、後方からも襲いかかってくる魔物たち。大きさは洞窟の高さに不釣り合いなほど大きく、それらすべてが“はずれの”魔物で。

 レヨンがもう一度短刀を風に乗せて投擲しつつ、口を開く。

「音が反響しないからグリエの力が使えない上、俺らの力もなんだか調子が変だ」

 実感のある他の四人はその言葉に大きく頷いた。


 鉱資源の街 テンティノ

 国で消費される鉱資源30%はこの街で掘り出されたもので、それは隣国バクサアロにも輸出されている。その莫大な資源をめぐり、昔からウォルノール、バクサアロ二国間で奪い合いを繰り返されている街だ。


 今回の依頼は、そのテンティノからわずかに離れた鉱山のうち、一つに現れた穴の調査というものだった。そこから魔物が止めどなく溢れ出ているため、街には大きな被害がでているというのだ。そして可能な限り原因をつぶすようにとも言われていた。


 そうして洞窟に踏み入れてからどれくらいの時間が経ったか、どれだけ中にすすんだか。前も後ろも、下手をすると足元を見ることすら危うい暗闇に包まれてから既にそこそこの時間が経ち、皆の感覚が麻痺しはじめていたその時、前触れなく5人が進む地面が崩れて、抜け落ちた。地面が消え去った、という表現の方が正しいかもしれないその現象にミヨは悲鳴を上げ、ベニヒは目を見開く。レヨンが皆を空気のクッションで受け止めようと考えかけたところで、落下スピードの遅さに眉を寄せた。


「おいおいおいおい……」


 割れた先の地面に降り立ったベニヒは、信じられないと辺りを見渡す。


「どういうことだこれは」


 そこは何も無い、ただひたすらに白が続く空間だった。先ほどまで居た洞窟の痕跡は一切ない。地下だとは思えない明るさと、その広さにミヨが「もう嫌だ……」と頭を抱えた。

「ここは一体なんなんだ、さっきまでの魔物達の巣とかでは、ないよね」

 慎重に一歩踏み出したグリエが、姉と同じ形をした唇をもみながらあたりを見渡す。地面をさわるも肌触りはわからない。指先の感覚が抜け落ちているようだ。呆然とするグリエの隣で、グルーンは笑い声をあげた。

「こういうのは頭動かしたら負けだな! オレの得意分野だ!! とにかくさっと帰る方法を探して、上……っていうか、あの洞窟に戻ろう。ミヨ、怪我とかは」

「平気。グルーンの楽観的思考にはいつも脱帽するわ。さあ、どうやって戻るの」


 その言葉に、言葉が切れる一同。

「とりあえず歩こう。なにがあるかわからないけれど、行動しないとなにも始まらない」

「珍しくグリエも楽天的だね」

 口角をあげるレヨンに、グリエは肩をすくめることで返事をした。

 四人が聞いたことのある声を遠くに聞いたのは、ベニヒが言葉を失っていることに気がつかないまま歩きはじめた瞬間だった。


「ベ……—ん! ……リエさ……!」


 バタバタとした足音と途切れ途切れの声。しかし誰の声か、はっきりと分かった。我に返ったベニヒが口を開く。

「ソラの声だ。あいつ、 危ないからって言わなかったのに、結局ついてきたのか」

言わなかったことが逆に彼をムキにさせたと、気付いていない。

 白い空間にぴしりとヒビが入った。ベニヒは目を閉じ、グリエは眉を寄せ、グルーンはミヨの腕を掴んだ。

 みるみるヒビは大きくなり、その隙間から漏れる黒色は世界を包み込んでゆく。


 パキン。


 音を立てて、世界が割れた。

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