第3話 自分の知らない『自分』
休憩時間。
人通りのない階段の下で、スマホを手に持ち一人たたずむエレナ。
イヤホンを耳につなげ、じっと自分の手に持つスマホを凝視する。
私にとって、驚くべき展開が写し出されていた。
こんな物、私じゃなくたって、他の人も同じように体験したら、腰を抜かすだろう。
黙々と、表情が固まりつつも、スマホに録画された映像と音声を見続ける、エレナ。
かすかに、エレナのイヤホンから音声が見える。
私の目の前で展開された、恐るべき事実。それは……。
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廊下の窓から強く差し込む朝日が眩しい。
もう何が何だかわからない。
あれからずっと悩み続けている。
たぶん自分の身に起きたことは事実らしい。
だけど自分の身に起きている事が夢だったら、よっぽど良かったであろうとエレナは思った。
なぜ、こんな事がありえるの?
これは本当の事なの? 私はどうすればいいの?
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授業を受けるエレナ。
だが、彼女の意識は授業どころではない。
昨日はめずらしく、意識が飛ばなかった。
昨日はスマホに変な着信はなかった。
眠りにつくまで、一晩中意識を持っていたけど、
スマホに着信はなかった。すぐには眠りにつけなかった。
そりゃ、そうだ。
あんな物を見せつけられたら、安心して眠りにつけるわけはない。
私のスマホに録画されていた映像は、まるで映画のワンシーンであった。
どこかのとても広い部屋で多くの人たちと格闘技?の練習をしている。
知っている人もいれば、全然知らない人たちもいっぱいいる。
男の人の姿も多数あり、まるでそこは武道場かジムか地下格闘技場のようであった。
そこで私は、『別人の私』は他の人と仲良く練習している。
何これ。
夢?
だけど夢を録画することなんかできるの?
そんな夢を記録することなんてできるはずがない。
なぜ、こんな事がありえるの?
これは本当の事なの? 私はいったいどうすればいいの?」
気がつくとエレナは保健室の前まで来ていた。
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「……すみません!」
エレナはいつものように保健室のドアを開ける。
そこで保健室の先生がまるで待ち構えているかのように微笑んでいた。
「ああ、いらっしゃい。夢遊病のお嬢さん。」
エレナは保健室の先生のその語り口に不満はあった。
だがそんな小さな不満など、今は問題にしている余裕はなかった。
エレナは今の自分の悩みを保健室の先生に打ち明けた。
保健室の先生は全てお見通しのように一息つきながら口を開いた。
全てお見通しなら、明確な回答を言ってほしいと思うくらいであった。
「おやまあ、ホントだったのね。悩みは深刻よな。」
どこか他人事の保健室の先生の態度に不満があったが、今は彼女を頼るしかない。
「......どうしたらいいですか? やっぱり私、おかしくなっちゃったのかな。」
塞ぎ込むエレナに保健室の先生は腕を組み、アドバイスをする。
「呪文よ。」
予想外のアドバイスに驚きの声を上げるエレナ。
「えっ?」
だが保健室の先生との押し問答は淡々と展開される。
「呪文。」
「えっ? 呪文? 何ですそれ?」
「て言うか、きっかけよ。
ほら、よく自分が夢を見ている時に、
あっ、これ、きっと夢だ! って気がつく事あるでしょ?」
「……あんまりないけど。」
エレナのそっけない回答にちょっとコケる保健室の先生。
「まあ、あなたはまだ若いからね。私なんか結構あるわね。寝ている時に、空を飛ぶ夢とかね。」
「ああ、それなら私もあります。」
エレナの答えに自信を取り戻す保健室の先生。
「でしょ! 自分が空を飛んでいる、人間がジャンプして空を飛ぶ、何て事はないわよね。
そんな時に、あれ? これ夢なんじゃないかしら? って思ったりする事あるんじゃない。
そうすると。」
「......。」
「目をさます。それで起きちゃう。」
保健室の先生の言葉にちょっと納得するエレナ。
「……ああ、たしかに……。」
水を得た魚のように、腕を組み自信満々の表情を浮かべる保健室の先生。
「ま、そう言うきっかけが重要よね。」
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夕陽が鋭く刺す長い廊下を一人歩くエレナ。
深く重く考え込んでいる。
......目をさます。
夢を見ている時に、目をさますきっかけ......。
何がいいんだろう……。
......そうだ! もし『眠っているんだったら』起きればいい!
もう一つの人格になっている時に、何とか『起きる』ようにすればいい。
『今、自分の目の前でおきている事は夢なんだ。だから起きなければ!』
と思えばいい。
どうすればそのきっかけが作れるのか?
そうか、スマホだ。
いつも『別の自分』になっているのは、特に夜が中心らしい。
だったら、夜中の時間に、めざましを設定すればいい。
めざまし!
めざまし?
そうだ、スマホだ!
スマホに登録されている自分の好きな曲!
せっかくだからバイブ機能も最大にしてみよう!
それが聞こえたら、目をさませ、目をさませ! って念じてみよう!
バイブを最大に設定して、めざましには、自分のこの好きな曲を!
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バイブと音楽がなる。
声がする。
「エレナ。」




