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第3話 冒涜的なスキル

「話は聞いたぞ息子よ! よくやった!」


 先んじてシェスカが魔法で報告したあと家に帰ると、待っていた父上は開口一番にそう言った。


 ガリル・アーバレスト。辺境アルバレスト地方を治める辺境伯。大柄で立派な口髭がチャーミングな父だった。


「よくぞ守った。そしてシェスカ! 君も無事でよかった」


「ご主人様。若様はご立派でございました」


「うむ。私も鼻が高い。モンスターから従僕を守るのは主の勤めだからな……だが」


 父はキョロキョロと辺りを見回すと、俺たち二人を執務室へと招き入れた。そのまま客用のソファーに促され、シェスカと一緒に座る。父は小さなテーブルを挟んで奥のソファーに座った。


「息子よ。ステータスを見てもいいか?」


「構いませんよ」


 俺はステータスを虚空に表示させて父に見せる。本来、人にはステータスを見せないのがこの世界のマナーだが、家族に限って言えばそうでもない。


 ステータス欄に燦然と輝くSSSの文字を見て、父は


「うそぉん」


 と、そう呟いて肩を落とした。

 

「何ということだ。よりにもよって冒涜(ぼうとく)スキルが宿るとは! しかも最高位!」


 何それとシェスカに視線を向けても、彼女はわからないと首を振る。父はその間に深いため息をついて、何から話そうかと手を組んでいた。


「息子よ。スキルのことは勉強しているな?」


「はい父上」


「スキルにはランクがある。普通はCからAまでだ。私の<領主(ロード)>というスキルはAにあたる」


「存じています。俺もそれを賜る為に努力をしていました」


「うむ……しかしここからはあまり一般的な文献にはないが……万人に一人の確率でSランク以上のスキルが発現する事がある。それはほとんどの場合強大な力を持ち、英雄の資格とさえ言われたこともあった」


 知ってます知ってます。


 古い本でそれみたいなこと読んで、すげえビビり散らかしたので知ってます。


「英雄でございますか!」


 シェスカはぱああと明るくなった。そして父の前でも構わずギュッと俺を抱きしめる。


「だが強大すぎたのと、Sランク所持者による謀反(クーデター)沙汰が横行してな。あまりにも国が乱れるからか、百年前は処刑対象になっていた」


「処刑!?」


 打って変わって真っ青な顔になるシェスカ。俺を抱きしめる力が強くなる。


「そういった時代背景もあってだろう。Sランク以上のものは『冒涜スキル』と呼ばれるようになった。私が騎士団にいた頃にも、Sランク所持者は徹底的にマークされていたのだよ」

 

「そんなご無体な!」


 俺が叫ぶ前にシェスカが叫んだ。俺の気持ちを代弁してくれたかのようにだ。


「若様は処刑される理由(いわれ)はございません! 私を、たった一人でゴブリンの群れから守ってくださいました!」

 

「落ち着きなさいシェスカ。昔の話だと言っただろう」


「じゃあ父上、今はどうなんですか?」


「……良い意味でも悪い意味でも引き手数多だろうな。強制連行といってもいい」


「た、たとえば?」


「私のいた王国騎士団が一番可能性が高い。息子がSSSランク持ちと知った途端、連中は王の勅命を持ってスカウトに来るだろう」


「王の勅命!? 絶対逆らえないやつじゃないですか!」


「もちろん待遇はいいだろう。だが死ぬまで王国騎士だ。この領地を治めることは許されないだろうな」


「や、やだー!!!」


 今度こそ叫んでしまった。


 もし王国騎士になってしまったらスローライフの夢は露と消える。


 父とも母ともろくに会えず、シェスカや他のメイド達とは離れ離れ……そんなんやだぁ!


「それだけではない。正教会に魔術アカデミーも別の強制力で迫ってくる。各ギルド連合は強制力はないが勧誘はしつこいだろう。スキルによっては各部族からの熱いオファーもあるぞ」


 野球のドラフトじゃねえんだぞ!

 

「四方八方から! ひどい!」


「一番最悪なのはどこぞの枢機卿に囲われて、暗部として扱われることだな」


「……暗部?」


「特殊部隊とか暗殺部隊とか言われるものだ。王国にあだ名す者を闇から闇へ葬り去る。もちろん王の勅命を後ろ盾に誓約書を迫られるだろう。こちらも死ぬまでそのままだ」


「や、やだー!!」


 またしても絶叫してしまう。シェスカを見るとほとんど気絶寸前の真っ青な顔になっていた。


「だが君は私の大切な後継だ。誇るべき息子だ! たとえ王の命令だとしても、そんな事はさせたくない!」


「ち、父上……!」


 そう言い切る父はかっこよかった。王に歯向かうという言葉は、たとえ家の中でも相当の覚悟だ。


 ああ、この人の家に生まれてよかったな。


 父上かっけー……



「それ以前に! このままでは楽しい隠居計画がパーだ!」


「…………父上?」



 父上はチックショーとばかりに頭を掻きむしっていた。


「息子よ、実は君が<領主(ロード)>を賜ったなら、今日にでも家督を譲るつもりでいた。もうハンコひとつでこの辺境ぜーんぶ君のもの!」


「え、そうなんですか?」


「その後はすぐ母さんと一緒に世界一周旅行に出ようと思っていた!」


「……世界一周旅行?」


「一年前以上から準備していたんだ。なのに……ああどうしよう母さんばちこり拗ねるぞ……」


 まさか領地丸投げして余生をエンジョイするつもりだったのか!?


「もーどうしてくれるんだ! 予約をしている宿もキャンセルしなければならないではないか!」


「父上、父上。そんな場合じゃなくないですか。ほとんどお家断絶ですよ?」


「ハッ! そうだった!」


 と、ようやく正気に戻った父上。優しくて尊敬できる人なのだが、ちょっとだけ抜けてるところがある。


 チラッとシェスカを見て「知ってた?」という意味のアイコンタクトを送る。シェスカはニッコリと笑うだけ。


 ……知ってたな、これは。


「父上。世界一周旅行と領地丸投げについて言いたいことは山ほどあるんですがね、それはさておいてです」


「う、うむ……」

 

「俺はこの先どうすればいいんですか」


 改めて考えてみれば大ピンチというか、この家の存続の危機でもある。なぜならこの家には俺しか子供がいないからだ。


 家督を継ぐはずの俺が王国騎士団に取られてしまったら、最悪父上が養子でも取らない限り家は潰れてしまう。


 養子と簡単に言っても未来の領主として十分素養と能力のある子を見つけるのは至難の業。もうほぼ不可能だと思っていい。


「息子よ――こんなことになって今更遅いとは思うが、君はどうしたい? 15になり大人の仲間入りを果たした、アレン・アーバレストの言葉を聞いてみたい」


「もちろんこの領地を、アーバレスト家を継ぎたいですよ」


 即答した。


 だってそれが夢なんだもの。


「俺はその為に努力してましたし、父上に領主になるための教育を受けさせてもらっていました。それはこの領地、この故郷が大好きだからなんですよ」


 スローライフしたいという願望も半分、もう半分は父が作り上げてきたこの土地を続けていきたい。それが本心なのだ。


 前の世界では考えられなかった幸せを与えてくれたのはこのアルバレストの地だ。


 俺はその恩に報いたい。


 本当にそれだけなんだ。


 だからこそ、こんなふざけたスキルでメチャクチャにされるなんて、とてもではないが耐えられない。


「せっかく父上と母上にもらった体で、好んで血を啜るような道に進みたくない。仮に力があるとしても、誰かを守るためだけに使いたいんですよ」


「若様……ご立派でございます」


 シェスカがハンカチを取り出し涙を流してそう言った。このダークエルフのメイドはいちいちオーバーリアクションのケがある。でも、今は嬉しい。


「そうか。アレン、君は嬉しいことをいってくれるな。聡明な息子を持って私は幸せ者だ」


 父上はホッとしたような、そんな顔をしていた。強制でもなく自動的に受け継ぐでもなく、俺がそうしたいと言ったからだと思う。

 

「……方法が無いこともない」


「本当ですか父上!?」


 父上はキャビネットから書類を取り出し、テーブルに広げてくれた。書類に描かれていたのはかなり大きな建物。一見すると学校のように見える。


「これは?」


「王都ミューロック学園とそのパンフレット。ここは十数年前王都に建てられた新しい学園だ」


「それが打開策なんですか?」


「実はな、この学園には冒涜スキル持ちを集めた学科がある」


「冒涜スキルを……集める?」


「さっきも言ったように冒涜スキルは強大だ。今までは恐れられていただけだが……もし使いこなせるような教育をさせたならどうだ?」


「国益そのものですね」


 昔は最悪処刑までされていたSランク以上のスキル持ち達が、有用性を認められて大手を振って歩けるとしたなら――それは確かに人材として素晴らしいものになるだろう。


 このミューロック学園とやらはそれができる、現時点で唯一の学校という事なのだろうか。


「冒涜スキル持ちがここに入学して無事卒業できたなら、王国からの二つのお墨付きをもらえるそうだ」


「二つのお墨付き?」


「ひとつは所持する冒涜スキルは王国にとって安全かつ有用であることの証明。そしてもうひとつは王の名においてスキル活用の自由を与えられる証明。王の勅命でも跳ね除けることのできる、正真正銘本物の『自由』だ」


 それはつまり、仮に王国騎士団に強制召集されたとしても王の名の下にノーを突き返せるという事か。

 

「息子よ。君がこの地を誰の文句もなく治めるには、ここを卒業するしかない。ここに入学する希望があるだけで、一旦は全ての誘いを断ることができる」


 その為の「王立」だからね、と父上はウィンク。


「その代わり数年王都暮らしになるが、それでも良いか?」


「すごく……嫌です……実家から出たくない」


 ポロポロと涙が出る。これはガチ泣き。だって嫌なものは嫌なんだ。仕方ないだろ。


「泣くな息子よ。たった数年の我慢だ。私たちの世界一周旅行もその先になるが、息子のためだ我慢するとも」


「世界一周旅行は譲らないんですね……」


「シェスカも我慢できるな? 君にはこの先もずっと息子のそばにいて欲しかったが、学園は全寮制だ。メイドはついてはいけない」


「仕方ありません……若様のためなら……」


 え、シェスカついてこないの!?


 ますます嫌なんですけど!?

 

「東方の国に『イイコトは急げ』という格言がある。息子よ、今夜中に入学関係書類に目を通してサインをするんだ」


「えっ!? 今夜ですか!?」


「誰かが手を打つ前に入学しなければならん。三日後にはもう家を出ると思っていてくれ!」


 こうして俺は流されるままに王都へ向かうこととなった。準備は急ピッチで進み、忘れ物とかそんなのを考える暇もなく馬車に詰め込まれ、そして送り出されてしまった。


 その時、シェスカが号泣して見送ってくれたのはしばらく忘れられそうにない。姉同然、いやもう一人の母のような彼女と別れるのがこんなにも苦しいだなんて。


「息子よ。一つだけ忠告しておく。万が一にウィンチェスター家の子に出会ったら喧嘩してはいかんぞ。可能な限り穏便にな」


 で、父上は空気を読まず最後の最後で不安要素を投げてきた。


 誰だよウィンチェスター家って。


 何やらかしたんだと聞く前に、馬車は我が家を遠ざかってしまった。


 


 

 ――強いスキルを宿した者は、その運命の奔流に巻き込まれる。




 

 王都に向かう馬車の中でぼーっと車窓を眺めていると、ふと例の文献の一文が浮かんでくる。


 クソッタレと吐き捨てても、その言葉は車内に虚しく響くだけだった。

お読みいただき、ありがとうございました。

物語を楽しんでいただけたなら幸いです。

ブックマークや評価、感想などをいただけると、作者としてとても励みになります。

次回もお付き合いいただけましたら嬉しいです。


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