天井が貧乏
「んむ……どこ、ここ……?」
目ぇ開けた瞬間、まず天井が貧乏やった。
白かったんか灰色やったんかもようわからん板が、微妙に波打っとる。端っこの塗装は剥げとるし、どっかから湿った木と古い布の匂いがする。昨日まで城の部屋で、天蓋だの金だの薔薇だの見せられとった身体には、あまりにも急な現実やった。
あと、身体が重い。
腹の底に、昨日のエクスプロージョンの残りカスみたいなんが沈んどる。寝たはずやのに、全身が「いや、まだ精算終わってへんで」みたいな顔しとる。
「やっと起きた」
横から、気むうの声がした。
いつもの、眠そうで温度のないやつ。
うちは首だけ動かして、部屋を見た。
ベッドが二つ。間に、やる気をなくしたナイトテーブルみたいなんが一個。その上に、袋入りのパンと水差し。壁際には、荷物を置く棚というより「置けるなら置け」くらいの板。床には誰かのブーツ跡が薄く残っとるし、毛布は見ただけで肌が負けそうな固さやった。
窓は小さい。朝の光だけは一応入ってきとるけど、それすら何か安い。
住めんことはない。
けど、ここに住め言われたら魂が先に家出する。
「……何ここ。部屋がもう節約しとるやん」
「公営の冒険者用宿舎でございます」
足元のほうから、マイルズの声がした。
見ると、毛玉が浮いとった。昨日と同じようにきっちりしとる。こいつ、どんな部屋でも自分だけ宮廷の空気持ち込むんやな。腹立つ。
その後ろで、フルカフトは壁際に座って、革紐みたいなんを点検しとった。朝から静かに仕事の顔や。獣人のくせに生活音が薄い。でかいのに。
「ギルド公認の臨時宿泊施設です。登録者および同行者は、一定条件下で無料使用が認められます」
「無料」
その単語だけ、寝起きの脳にすっと入った。
「……無料なら、まあ……」
うちは起き上がろうとして、腰の奥がきしんだ。
「っだ……」
「昨日、床で倒れてたから」
気むうが淡々と言うた。
「倒れたんやない。神として一時的に地上へ還元されただけや」
「寝てる時、腰動いてた」
「は?」
気むうは、こっちを見た。
「あと、『そこやない……もうちょい下……』って言ってた」
「待て待て待て待て待て」
一気に目ぇ覚めた。
「ちゃう。絶対ちゃう。あれは、その……夢の中でスライムと戦いながら機械修理しとってん。ドライバーがな、角度ミスったら変なとこ入るタイプのやつで――」
「『あかん、奥まで入らへん』とも言ってた」
「ドライバーの話や言うてるやろが!!」
沈黙。
マイルズが、すっと視線を逸らした。
「夢の内容につきましては、記録対象外といたします」
「記録する気ぃあったんかい!」
フルカフトは革紐を結び直しながら、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「無事に起きたなら問題ない」
「今うちの尊厳が無事ちゃうねん、フルカフト」
「尊厳は怪我に含まれん」
「この世界、判定が雑!」
気むうは袋入りのパンをひとつ取って、うちの膝へぽんと置いた。
「飯」
「急に優しい」
「食べたら静かになるかと思って」
「理由が冷たい」
せやけど腹は減っとった。袋を破ってかじる。ふかふかしとる。味は薄い。腹に入ることだけを目的に生まれてきたパンやった。
「……で、風呂は?」
パンを噛みながら聞く。
「髪、限界やねん。昨日から汗と土と爆発と貧乏が絡まっとる」
「浴場棟が下にございます」
マイルズが言うた。
「浴場棟」
「共用です」
一拍。
「……共用?」
「はい」
気むうが、隣で水を飲みながら補足した。
「公衆浴場」
パンが喉で止まった。
「んなもん行くかアホ!! うちはそこ通らへんからな!!」
「完全な大浴場だけではありません」
マイルズがすぐ言う。
「個室の洗浄室もございます。ただし順番制で、使用時間は長く取れません」
「つまり何? 股んとこ洗っとる最中でも急げってこと!?」
フルカフトが立ち上がった。
「朝は混む。行くなら今だ」
「みんなで?」
「浴場棟までは同じだ。中は区画が分かれている」
「まあ、それは最低ラインやろ」
「施設によっては混合区画もございます」
マイルズが余計なことを足した。
「黙れ」




