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だいきぼ★ウチュウ  作者: こなるちゃん
第一部 世界がバグった日
39/60

特別編『 速 報 』

>『……大阪・谷町(たにまち)で発生した失踪事件について、(かみ)いさん、()むうさんを含む三名の行方はいまだ判明しておらず……』


>『……現在も四天王寺(してんのうじ)五重塔(ごじゅうのとう)は再建工事中で、警察は引き続き現場の調査を進めております……』


>『……突然の三名失踪は地域住民に大きな衝撃を与えており、現場近くでは今日も献花に訪れる人の姿が……』


>『……神いさんは、クラスではどんな方でしたか?』


>『えっと……神いは、なんていうか……いるだけで教室の空気を勝手に変にする子で。毎日うるさいし、変なこと言うし、正直、疲れる時もあったんですけど……』


>『でも、いないと静かすぎて。助かるはずなのに、なんか違って……』


>『神いがいないほうが、教室が変なんです。だから……どこかでこれ見てたら、帰ってきて。もう変とか言わへんから……たぶん』


「ぷっ……」


>『……失踪した三名に関する有力な情報には、最大一千万円の報奨金が提供されます。お心当たりの方は、フリーダイヤル012-XXXX-XXXXまでご連絡ください……』


ピッ。


グビ、グビ、グビ。


「兄ちゃん、娘さんらのこと……ほんまに、気の毒やわ」


「せやな……キッツイやろな、こんなん」


「……ええねん。気にせんといてくれや」


俺は、将棋盤の上に指を伸ばした。


置いたんは、もう何年も前から使ってる、同じパターンの一手やった。


「……警察、まだなんも言うてこんのか?」


「毎日、夕方に顔出してるけどな。見つかったんは、神いのキーホルダーだけや」


「……五日前の話やろ」


「……それは……キツイな、兄ちゃん……」


警察は、三人、と言う。


テレビも、三人、と言う。


俺の頭は、いつもそこで止まる。


神いと、気むう。


そこから先は、まだ数えられへん。


「……アンタ、そんな顔してたらアカンやん、ヨシくん」


サカイが、あっさりと札束を出してきた。


十万円。ピン札。


「ほら。これで日本酒でも買いなさいって」


「おい……どこでそんな金、手に入れたんや」


「ウチの会社、最近めっちゃ調子ええねん。余ってるし。あんた、ちょっとでも元気出たらええなって思てさ」


サカイは、どう見ても酒豪やけど、見た目も性格も、えげつないくらいええ女や。


大企業の令嬢なんて、嘘みたいな顔して、ようこんなしょうもない飲み会に混ざってくる。


話すんは、ほんまにしょうもない話ばっか。


将棋は、あかんけどな。


マジで、あかん。


「……平気や。ありがとうな」


「も〜〜、ヨシくん、またそうやって拗ねて〜」


「拗ねてへん。今はな、食費も光熱費も減ってんねん。正直、悪いことばっかやないで」


そう言うた瞬間、サカイは笑わんかった。


俺も、笑えんかった。


「ふ〜ん……ま、ストレス発散とか、お金とか……なんか欲しなったら、ウチに言いなよ」


サカイはそこで、少しだけ声を落とした。


「お酒でも、それ以外でも」


……そういや、こいつ、昔からこういうビッチやったわ。


悪い女や、とは言い切れん。


せやけど、弱った人間の前に置くもんを、よう知っとる。


酒は、一杯だけ飲んだ。


いつもなら、仲間と三杯くらいは行く。


でも今日は、そんな気分やなかった。


ほんま、なんも飲みたくなかった。


悲しいから飲む、いう気分にもならんかった。


飲んでも、酔う前に冷める気がした。


帰り道を、歩いた。


交番に向かった。


あそこには今、ピエロが一人おる。


ほんまに、ピエロの格好をした男が留置されとる。


捕まった理由は聞いた。


聞かんかったらよかった。


世も末や。


で、今日もまた、あのクッソ芝居がかった“希望の演出”が始まった。


巡査の斉木(さいき)が、精一杯“前向き”を装った声で、こう言うてくる。


「現在も鋭意捜査中でして……吉水(よしみず)さん、何かしらの進展は、きっと明日には……」


明日。


その明日を、もう五回聞いた。


──アホか。


舐めとんのか。


もう、何もできへん。


娘らが戻ってくる方法なんて、どこにもあらへん。


警察は、今日も何も見つけられへんかった。


俺は、今日も何もできへんかった。


それだけや。


そう思いながら、俺は家に向かって歩いた。


足だけが、勝手に家のほうへ進んどった。


──が、そこで。


道の真ん中に、一匹の野良猫が、でーんと座っとった。


こっちの進路を、堂々と塞いどる。


「……にゃー」


「……にゃー、やない。どき」


そう言って歩き出したけど、猫は何食わぬ顔で後ろをついてきよる。


「ミルクもエサもないで、ほんま。帰れって、どっかの家に」


「……にゃー」


「ぷっ……」


鍵を開けて、部屋のドアを何も考えずに開けた。


そしたら、あの猫が、シュバッと中に飛び込んできた。


「っ、おい!? こら! あかん! 出てけ! しっしっ!」


足でそーっと押してみたけど、全然出ていかん。


むしろ、奥に進んでいく始末や。


「……にゃー」


玄関は、変に広かった。


神いの靴がない。


気むうの靴もない。


それだけで、もう充分やった。


猫と喧嘩しとる場合ちゃうわ。


家をめちゃくちゃにされてもええ。


どうせもう、どうでもええし。


「……お前な、餓死しても知らんぞ。エサなんかやらんからな、ホンマに」


そう言いながら、ドアをバタンと閉めた。


「……にゃー」


ちらっと猫を見る。


灰色の毛並み。


その上に、さらに濃い灰色の縞模様。


目は、緑。


まっすぐこっちを見とった。


甘えもせん。


逃げもせん。


まるで、俺のほうがこの家に迷い込んできたみたいな目やった。


「鳴きたきゃ、鳴けや」


猫は鳴かんかった。


時計だけが、いつも通り進んどった。


明日も仕事や。

ここまで『だいきぼ★ウチュウ』第一部を読んでくださって、本当にありがとうございました。


神いと気むうの冒険は、まだまだ続きます。


踊るカエル。

爆発。

任務。

虎。

そして、まだ歩ききれないほど広いフロワルの大階段都市。


第二部も準備中ですが、現在本作は第10回アース・スターノベル大賞に応募中のため、更新再開の時期については、結果発表後にあらためてお知らせできればと思います。


更新情報などは、X(@konaruchan777)でもお知らせしていきます。

よければ、そちらも覗いてみてください。

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