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だいきぼ★ウチュウ  作者: こなるちゃん
第一部 世界がバグった日
34/60

訓練記録「力」

次の日も、うちらは第四図書室へ行った。


行った、はずやった。


せやけど扉を開けた瞬間、図書室の真ん中だけが別の部屋になっとった。


棚はある。

古い紙の匂いもある。

黒板もある。


でも、そこに置かれているものは、どう見ても授業の道具やない。


椅子が二つ。

ケーブル。

金属の輪。

でかい球。

机の上で勝手に震えている細い針。

あと、頭にかぶる何か。


「……今日、うちら何されるん?」


「測定でございます」


マイルズの返事は早かった。


「何の」


「お二人のエネルジア出力です。第一回の理論講義で申し上げた、インク()を確認します」


「……第一回の理論講義」


聞き覚えはある。


あるけど、その時のうちは、たぶん爆裂魔法のことで頭がほぼ焼けていた。


「つまり?」


「魔法行使における基礎出力を、比較可能な数値へ換算いたします」


「……数値」


うちの中で、何かが起きた。


数値。

強さ。

レベル。

戦闘力。


片目につける変な機械で「こいつ、数値高っ」ってなるやつ。


「……あかん。ちょっとおもろなってきた」


数字で強さが出る。


ほんまの異世界っぽいやつや。


……いや、待て。


うちの数字、低かったらどうしよ。


うちは、真ん中の椅子を見た。


背もたれに金属の輪。

横から伸びるケーブル。

膝のあたりに、何か押さえるためみたいな部品。

その前に、頭一個半くらいの金属球。


どう見ても、座るだけで終わる顔やない。


「この椅子、何」


「測定精度を上げるための補助機材でございます。姿勢、出力方向、外部漏出を一定に保ちます」


「説明されても怖いもんは怖いんやけど」


「安全です」


「こんだけケーブルあったら、普通にビリッて来そうやん……」


「来ません」


「今の“来ません”だけ、妙に早ない?」


「来ません」


「二回言うやつ、だいたい逆に怖いねん」


()むうは、椅子をじっと見ていた。


逃げる顔ではない。

でも、座りたい顔でもない。


そこだけは、うちと完全に一致していた。


「どちらから行いますか」


「嫌」


「嫌」


うちと気むうの声が、ほぼ同時に出た。


「うちが先に言うた」


「嘘。私が先」


「いや、うちや!」


「神いが遅い」


「模擬戦ではそんなこと言わんかったやろ!」


「でも勝った」


「うしっ……黙れ!!」


マイルズが、しっぽの先で床を一度だけ打った。


ぴし。


「では、気むう様から」


「よっしゃ!」


気むうが、ほんの少しだけ口を開けた。


たぶん、かなり薄く驚いていた。


(かみ)い様は、今の状態では少々落ち着きに欠けます。先に気むう様の手順をご覧いただいたほうが、測定は安定します」


「はあ!?」


「今の反応で、十分でございます」


「くっそ腹立つ!」


気むうは数秒遅れて立ち上がった。


それから、こっちを見た。


ほんの少しだけ、笑っている気がした。


うちは変な顔で返した。

たぶん、今できる範囲でいちばん最悪の顔やった。


気むうは、少しだけ椅子を見てから、静かに座った。


固定具みたいなものを使う気は、今のところなさそうやった。


それは普通に助かった。


縛られるのは、想像するだけでちょっと無理や。


マイルズが、金属球を気むうの手元へ浮かせる。


「球へ、全エネルジアを込める意識で。三秒間です。音が鳴るまで維持してください」


「……うん」


気むうは目を閉じた。


静かやった。


球の表面に、白っぽい光が薄く走る。


派手ではない。

でも、線が乱れない。


ピッ。

ピッ。

ピッ。


金属の輪が小さく震える。


机の上の細い針が、すうっと上へ動いて、止まった。


マイルズは少し浮き上がって、近くの小さな盤をしっぽでいくつか押した。


「良好です。もう一度」


気むうは頷いて、もう一度同じように集中した。


今度も、光は急がない。

細い線が球の表面を一周して、ほとんど同じ場所へ戻る。


ピッ。

ピッ。

ピッ。


マイルズがまた、小さな盤をしっぽで操作する。


何か、魔法というより、やっぱり検査っぽい。


白い光。

細い針。

静かな気むう。


絵面だけ見たら優等生や。

中身は昨日、うちを白い世界に沈めた女やけど。


次は、うちの番やった。


椅子に座る。


背中に変な冷たさがある。


「うわ、背中が施設」


「施設とは」


「説明しづらい嫌さ」


金属球を渡される。


重い。


思ったより、ちゃんと重い。


「神い様。爆裂魔法の時のように、一点へ集めすぎないでください。今回は測定です。球を破損させる必要はございません」


「破損前提で注意すな」


「念のためでございます」


「好きに言うとけ、猫玉」


球を握る。


指先の外にある流れを探す。


火成波より広く。

爆裂より浅く。


身体全体から、球へ渡す。


数字が出る。

うちの数字。


そう思っただけで、ちょっとだけ腹の奥が熱くなった。


流れを入れた瞬間、球の内側で赤っぽい光が一回だけ膨れた。


マイルズのしっぽが、ほんの少し止まる。


「破損は不要です」


「してへんわ!」


光は気むうの時みたいに細く回らへん。


一回膨れて、少し散って、それから球の内側へ押し戻される。


ピッ。

ピッ。

ピッ。


「良好です。もう一度」


もう一度。


今度は少しだけ抑える。


爆裂の時みたいに一ヶ所へ押し込めたら、たぶん本当に壊す。


壊したら、あとでこの猫玉が絶対うるさい。


それは嫌や。


ピッ。

ピッ。

ピッ。


測定が終わると、机の端に置いてあった機械が、がが、と嫌な音を立てた。


細い紙が、四角い変な口からじわじわ押し出されてきた。


「うわ、レシート出た」


「測定結果です」


「いや、レシートにしか見えへん」


マイルズはしっぽでその紙を取り、じっと見つめた。


気むうは椅子から降りて、うちの横へ戻る。


こっちを見ない。

測定紙だけを見る。


「まず、気むう様。13,401インク」


気むうは少しだけ目を上げた。


「次に、神い様。14,780インク」


「どーん!! 見たか気むう!!」


声が勝手に出た。


「うちのほうが上や!! ひゃっほう!!」


気むうがこっちを見る。


「何に」


「戦闘力!! ほら!!」


「……うるさい」


「一万四千七百八十やぞ!? 完全に強いやつやん!!」


「重い」


うちは測定紙を見た。


別に、きりのいい数字ではない。


でも。


一万を超えとる。

四桁やない。

五桁。


五桁は、もうだいぶ強そうやろ。


一万四千七百八十。


口に出すだけで、ちょっと偉い。

名前の後ろに付けたい。


神い・一四七八〇。


いや、ないな。


でも気持ちはある。


「神い様。その差で勝敗は決まりません」


マイルズが、すぐに入ってきた。


「今言うなや!!」


「今ちょうど気持ちよかったやろ!!」


「ですから、今申し上げました」


ひどい。


一番いいところで、水をかけてきよった。


マイルズは、測定紙を机の上へ置いた。


気むう。

うち。


数字だけなら、うちのほうが上。


その並びは、正直かなり気持ちよかった。


「お二方の差は、約一割です」


「一割は一割やろ!」


「その程度であれば、距離、術式相性、判断、集中の乱れで簡単に覆ります」


「でも……」


「申し訳ございません、神い様。前回の模擬戦で、すでにご覧になったはずです」


「うぐ……」


気むうが、また少しだけ笑っていた。


またや。


うちは、できる限り最悪の顔でにらんだ。


……こいつ、ほんま調子乗っとるな。


「インク値は、魔法の強度と容量を手早く把握するための目安でございます。勝敗を決めるためというより、そもそも戦闘が成立するかを判断するために使われることが多い」


「……つまり、やっぱり戦闘力やん」


「大きな差がある場合に限れば、近い認識です。六千インクの小型生物が、二万インクを超える戦闘職術者せんとうしょくじゅつしゃに正面から挑むのは、基本的に成立しません」


「ほら戦闘力やん」


「ごく大まかには、です。近い数値同士の戦闘を定義するものではございません」


「世界の見方、地味やなあ」


「地味な見方ほど、生存には有効でございます」


「つまらん正論だけ強いな、お前」


「目安として申し上げますと、成人の戦闘職術者で二万を超える者は珍しくありません。上位職であれば、十万を超えます」


「十万」


一気に気分が下がった。


さっきまで主人公の数字みたいな顔していた一万四千七百八十が、急にチュートリアルの端っこで拾う木の棒みたいに見えてきた。


「……うちら、まだチュートリアルの数字やん」


「チュートリアルよりは上等です」


「慰め下手か」


気むうが、測定紙を見た。


「……私たちの数値は、問題?」


マイルズは、すぐには答えへんかった。


「陛下より、いずれ説明があるでしょう」


それで、図書室の空気が少しだけ止まった。


気むうは測定紙を見ていた。

うちは、さっきまで勝ち誇っていた自分の数字を見た。


14,780インク。


強いんか、弱いんか。

勝っとるんか、負けとるんか。


急に、ようわからん数字になっていた。


「……説明、今ほしいんやけど」


「私から申し上げることはできません」


マイルズは、測定紙をしっぽで丁寧に挟んだ。


その手つきだけ、妙に慎重やった。


紙切れ一枚やのに。

レシートみたいな顔しとるくせに。


「本日の結果は記録します。次回以降、訓練内容を調整いたします」


「……増えるやつやん」


「はい」


そこは否定してほしかった。


マイルズは測定紙を折らずに、細いケースへしまった。


神い、14,780インク。

気むう、13,401インク。


数字だけは、もう残った。


……ほな、増えるんやろうな。


嫌やけど、ちょっとだけ楽しみでもあった。

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