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だいきぼ★ウチュウ  作者: こなるちゃん
第一部 世界がバグった日
24/60

爆裂、見たんや

まさか、うちがあのまま寝ると思ったんか。


無理やろ。


寝ろ言われて寝られる内容ちゃうかった。布団に入って、目ぇ閉じて、身体だけは「はい本日終了です」みたいな顔しとる。せやのに頭ん中だけ、ずっと同じ文字が焼きついとった。


FINAL SPELL No.646――エクスプロージョン。


見た。

うちは見たんや。


マイルズは本を閉じた。閉じたけど、遅い。名前も見た。頁も見た。あの毛玉、閉じれば存在ごと消えると思とんのか。アホか。そんな都合ええ目ぇしてへんわ、こっちは。


爆裂魔法やぞ。


メグミンが一日一発に全部賭けて、撃ったあとその場で倒れる、あのロマンの塊みたいなやつやぞ。画面の向こうにしかなかったはずの“あれ”が、今、うちの手ぇの届くところにある。


……やらへん理由、ある?


いや、ない。


ないに決まっとる。


禁止されたから燃えた、いうのもある。めちゃくちゃある。禁止って言葉、うちの中ではだいたい油や。せやけど、それだけやない。これはもう、見てしもた時点で終わりやった。


教えてくれへんなら読む。

読めへんなら、読めるまで読む。

読んでも分からんかったら、分かるまで噛みつく。


横を見る。


()むうは、向かいのベッドで寝とった。


……たぶん。


あいつ、寝とる時でも人の悪事だけ拾うみたいな顔するから油断ならん。青灰の髪を枕に広げて、息だけ静かに落ちとる。昼間、白い薔薇の前からまだ半分戻ってきてへんみたいで、そこだけ妙に静かやった。


今ここで目ぇ開けられたら終わりや。


「神い、何してるの」


たったそれだけで、うちの爆裂人生は閉廷する。裁判官、妹。判決、寝ろ。控訴、却下。


せやから、動かへん。


まず五分。


これはうちの中で昔から決まっとる。悪事は、すぐ動いたやつから死ぬ。パパにバレずにパソコン触る時もそうやった。部屋の電気消して、布団入って、すぐ起きたら負け。相手の脳みそに「こいつはもう寝た」と刻み込むまで、待つ。


五分。


長い。

めちゃくちゃ長い。


気むうの呼吸を数えそうになって、やめた。そんなことしたら、逆にこっちが変に緊張する。天蓋の布が暗がりの中でじっとしてる。窓の外は黒い。城の中のどっかで、細い金属音みたいなんが一回だけ鳴った。


三分くらいで、もう行きたなる。


あかん。初心者か。


四分で、足の指が勝手に動きたがる。


黙れ。今は指にも人権ない。


五分。


うちはゆっくり目を開けた。


気むうは起きへん。


勝った。


……いや、まだ何にも勝ってへんけど、最初の門は抜けた。そういうことにしとく。


ベッドから抜け出して、床に足を下ろす。冷たくはない。石やのに、妙に身体の熱を知っとるみたいな温度やった。


作ったばっかの服の裾を押さえる。


その上から、昼間の茶色い補助外套(ほじょがいとう)がまだかかっとった。ほんまは脱ぎたい。めちゃくちゃ脱ぎたい。ちゃんと羽織ると、村の外れで怪しい祈祷してそうな見た目になるし、重いし、何より腹立つ。


でも、防御の足しになるかもしれんと思うと、完全に捨てる勇気もない。


結局、肩からずらして、肘の内側あたりに引っかけるみたいに垂らした。ちゃんと着てへん。脱いでもへん。これが一番マシやった。


ブーツを手に取る。


履かへん。

音が出る。


ここから先は、足音を殺す。うちの人生でこんな真面目に忍者やったことない。しかも目的が爆裂魔法。忍者の使い方、たぶん間違っとる。


扉の前で一回止まる。


耳を澄ます。


何もない。


取っ手に手をかけて、ほんの少しだけ開ける。細い隙間から、廊下の暗さが部屋へ入ってきた。昼間見た時より、ずっと長く見える。あの城、寝たら縮むどころか伸びるタイプなんか。やめてほしい。建物まで夜型になるな。


うちは身体を横にして、すり抜ける。


扉を閉める前に、もう一回だけ部屋を見る。


気むうは動かへん。


「……行ってくるで」


声には出さんかった。口の中だけで言うた。


言うたところで、見つかったら終わりやけどな。


廊下に出る。


広い。

暗い。

長い。


昼間の城は、まだ“デカい施設”やった。夜の城は、もう別の生き物や。壁の影が長すぎる。天井も高すぎる。燭台の火はところどころ落ちとるくせに、完全な真っ暗にはならへん。見えそうで見えへん明るさが、いちばん性格悪い。


ブーツを片手に持ったまま、裸足に近い足取りで進む。床の模様が冷たく足裏に触れる。自分の呼吸だけがやたら大きい。いや、実際には小さいはずや。小さいはずやのに、うちの耳が勝手に拡張してくる。こんなん、悪いことしてる時だけ発動するクソ能力やん。


途中の番号札が、暗がりで鈍く光っとった。


一二〇一。

一二〇二。

一二〇三。


第四図書室(だいよんとしょしつ)


見つけた瞬間、胸の奥がどん、と跳ねた。


ここや。


扉の前でブーツを抱え直す。ここから先は図書室や。中に入ったら、まず履き直す。そう思って取っ手へ手を伸ばした時やった。


声がした。

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