爆裂、見たんや
まさか、うちがあのまま寝ると思ったんか。
無理やろ。
寝ろ言われて寝られる内容ちゃうかった。布団に入って、目ぇ閉じて、身体だけは「はい本日終了です」みたいな顔しとる。せやのに頭ん中だけ、ずっと同じ文字が焼きついとった。
FINAL SPELL No.646――エクスプロージョン。
見た。
うちは見たんや。
マイルズは本を閉じた。閉じたけど、遅い。名前も見た。頁も見た。あの毛玉、閉じれば存在ごと消えると思とんのか。アホか。そんな都合ええ目ぇしてへんわ、こっちは。
爆裂魔法やぞ。
メグミンが一日一発に全部賭けて、撃ったあとその場で倒れる、あのロマンの塊みたいなやつやぞ。画面の向こうにしかなかったはずの“あれ”が、今、うちの手ぇの届くところにある。
……やらへん理由、ある?
いや、ない。
ないに決まっとる。
禁止されたから燃えた、いうのもある。めちゃくちゃある。禁止って言葉、うちの中ではだいたい油や。せやけど、それだけやない。これはもう、見てしもた時点で終わりやった。
教えてくれへんなら読む。
読めへんなら、読めるまで読む。
読んでも分からんかったら、分かるまで噛みつく。
横を見る。
気むうは、向かいのベッドで寝とった。
……たぶん。
あいつ、寝とる時でも人の悪事だけ拾うみたいな顔するから油断ならん。青灰の髪を枕に広げて、息だけ静かに落ちとる。昼間、白い薔薇の前からまだ半分戻ってきてへんみたいで、そこだけ妙に静かやった。
今ここで目ぇ開けられたら終わりや。
「神い、何してるの」
たったそれだけで、うちの爆裂人生は閉廷する。裁判官、妹。判決、寝ろ。控訴、却下。
せやから、動かへん。
まず五分。
これはうちの中で昔から決まっとる。悪事は、すぐ動いたやつから死ぬ。パパにバレずにパソコン触る時もそうやった。部屋の電気消して、布団入って、すぐ起きたら負け。相手の脳みそに「こいつはもう寝た」と刻み込むまで、待つ。
五分。
長い。
めちゃくちゃ長い。
気むうの呼吸を数えそうになって、やめた。そんなことしたら、逆にこっちが変に緊張する。天蓋の布が暗がりの中でじっとしてる。窓の外は黒い。城の中のどっかで、細い金属音みたいなんが一回だけ鳴った。
三分くらいで、もう行きたなる。
あかん。初心者か。
四分で、足の指が勝手に動きたがる。
黙れ。今は指にも人権ない。
五分。
うちはゆっくり目を開けた。
気むうは起きへん。
勝った。
……いや、まだ何にも勝ってへんけど、最初の門は抜けた。そういうことにしとく。
ベッドから抜け出して、床に足を下ろす。冷たくはない。石やのに、妙に身体の熱を知っとるみたいな温度やった。
作ったばっかの服の裾を押さえる。
その上から、昼間の茶色い補助外套がまだかかっとった。ほんまは脱ぎたい。めちゃくちゃ脱ぎたい。ちゃんと羽織ると、村の外れで怪しい祈祷してそうな見た目になるし、重いし、何より腹立つ。
でも、防御の足しになるかもしれんと思うと、完全に捨てる勇気もない。
結局、肩からずらして、肘の内側あたりに引っかけるみたいに垂らした。ちゃんと着てへん。脱いでもへん。これが一番マシやった。
ブーツを手に取る。
履かへん。
音が出る。
ここから先は、足音を殺す。うちの人生でこんな真面目に忍者やったことない。しかも目的が爆裂魔法。忍者の使い方、たぶん間違っとる。
扉の前で一回止まる。
耳を澄ます。
何もない。
取っ手に手をかけて、ほんの少しだけ開ける。細い隙間から、廊下の暗さが部屋へ入ってきた。昼間見た時より、ずっと長く見える。あの城、寝たら縮むどころか伸びるタイプなんか。やめてほしい。建物まで夜型になるな。
うちは身体を横にして、すり抜ける。
扉を閉める前に、もう一回だけ部屋を見る。
気むうは動かへん。
「……行ってくるで」
声には出さんかった。口の中だけで言うた。
言うたところで、見つかったら終わりやけどな。
廊下に出る。
広い。
暗い。
長い。
昼間の城は、まだ“デカい施設”やった。夜の城は、もう別の生き物や。壁の影が長すぎる。天井も高すぎる。燭台の火はところどころ落ちとるくせに、完全な真っ暗にはならへん。見えそうで見えへん明るさが、いちばん性格悪い。
ブーツを片手に持ったまま、裸足に近い足取りで進む。床の模様が冷たく足裏に触れる。自分の呼吸だけがやたら大きい。いや、実際には小さいはずや。小さいはずやのに、うちの耳が勝手に拡張してくる。こんなん、悪いことしてる時だけ発動するクソ能力やん。
途中の番号札が、暗がりで鈍く光っとった。
一二〇一。
一二〇二。
一二〇三。
第四図書室。
見つけた瞬間、胸の奥がどん、と跳ねた。
ここや。
扉の前でブーツを抱え直す。ここから先は図書室や。中に入ったら、まず履き直す。そう思って取っ手へ手を伸ばした時やった。
声がした。




